第7話 『してやられた!』
◇
「あー……アイツまた実験台にしやがったのか」
幽玄はこの記憶から、大体の事の顛末を理解した。
そもそもアルコールに耐性が付いている幽玄は、泥酔することが無い。
その幽玄が記憶を吹っ飛ばすとか、有り得ないのである。
その理由は、ランの盛ったドラックに集中した。
一体何の調合なのか、どんなものなのか全く分からない。
体の影響なんて知った事ではないが、盛られた事実が幽玄には気に喰わない。
微かに頭痛と不快感が残る。
これは世にいう『二日酔い』という現象なのかとゲッソリする。
「あれ、食べないの? 折角マヨネーズ出したのに」
幽玄はその言葉で我に返る。
目の前に斑雪のぱっちりした瞳が飛び込んできた。
「うわっ! なんだよ、急に!」
「じゃなくて、朝食食べないの……?」
「朝食って……」
手渡されたパンの耳。
何故かマヨネーズ。
幽玄には理解できず、目の前の双子に目を遣る。
幼児ながら逞しくパンの耳にマヨネーズを塗り、ウマウマ言いながら食べ散らかしている図。
どうやらマヨネーズというものは、ジャムかバターの代わりのようである。
「百歩譲ってこの場合は、ジャムとかバターだろう」
幽玄は思ったことを口にした。
その瞬間、三人の視線が突き刺さる。
「これだからパンピーは困るわよ」
「ホントだな、詫び錆を分かってない」
等と、双子に嫌味を言われる。
それを斑雪が「そーいう事言っちゃあダメだよっ! ほら、保育園遅れるから急いで!」と促していた。
(本当にこいつら保育園児なのか?)
幽玄には疑問しか湧かない。
ツッコミどころしかない一家なのである。
しかしこの状況をほぼ把握できていない幽玄は、無言で流れに乗るしかなかった。
初めて食べるパンの耳、そしてマヨネーズという異色な取り合わせ。
それでも案外食えるものだな、と幽玄は納得していた。
食べ進めながら何気に「せめて飲み物無いのか」と尋ねる。
「はぁ!? 転がり込んできた分際でなんて図々しいっ!」
「いっぺん死んでみるか!」
一斉に声を上げたのは、双子だった。
慌てて斑雪は二人を制止し、幽玄に「ごめんねー弟妹が失礼な事言って」と謝る。
どうやら、幽玄の常識はここでは通用しない様子であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます