第7話 『してやられた!』

「あー……アイツまた実験台にしやがったのか」

幽玄はこの記憶から、大体の事の顛末を理解した。


そもそもアルコールに耐性が付いている幽玄は、泥酔することが無い。

その幽玄が記憶を吹っ飛ばすとか、有り得ないのである。


その理由は、ランの盛ったドラックに集中した。


一体何の調合なのか、どんなものなのか全く分からない。

体の影響なんて知った事ではないが、盛られた事実が幽玄には気に喰わない。


微かに頭痛と不快感が残る。

これは世にいう『二日酔い』という現象なのかとゲッソリする。


「あれ、食べないの? 折角マヨネーズ出したのに」

幽玄はその言葉で我に返る。

目の前に斑雪のぱっちりした瞳が飛び込んできた。


「うわっ! なんだよ、急に!」

「じゃなくて、朝食食べないの……?」


「朝食って……」

手渡されたパンの耳。

何故かマヨネーズ。


幽玄には理解できず、目の前の双子に目を遣る。

幼児ながら逞しくパンの耳にマヨネーズを塗り、ウマウマ言いながら食べ散らかしている図。


どうやらマヨネーズというものは、ジャムかバターの代わりのようである。


「百歩譲ってこの場合は、ジャムとかバターだろう」

幽玄は思ったことを口にした。


その瞬間、三人の視線が突き刺さる。

「これだからパンピーは困るわよ」

「ホントだな、詫び錆を分かってない」

等と、双子に嫌味を言われる。


それを斑雪が「そーいう事言っちゃあダメだよっ! ほら、保育園遅れるから急いで!」と促していた。


(本当にこいつら保育園児なのか?)

幽玄には疑問しか湧かない。

ツッコミどころしかない一家なのである。


しかしこの状況をほぼ把握できていない幽玄は、無言で流れに乗るしかなかった。


初めて食べるパンの耳、そしてマヨネーズという異色な取り合わせ。

それでも案外食えるものだな、と幽玄は納得していた。


食べ進めながら何気に「せめて飲み物無いのか」と尋ねる。


「はぁ!? 転がり込んできた分際でなんて図々しいっ!」

「いっぺん死んでみるか!」

一斉に声を上げたのは、双子だった。


慌てて斑雪は二人を制止し、幽玄に「ごめんねー弟妹が失礼な事言って」と謝る。


どうやら、幽玄の常識はここでは通用しない様子であった。

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