第273話 蛇足2
「ブフフフフン」(仔馬って凄いですね)
私の周りを、私が産んだ仔馬ちゃんがトコトコと小走り? といった感じで歩いています。
生まれてからまだ2週間くらいしか過ぎていないのですが、それでも私が歩くのに合わせて後ろをついて回ります。その姿が無性に可愛くて、ついついハムハムとグルーミングをしてあげちゃいますよ。
「キュフフン」
「ブルルルルルン」(大丈夫ですよ。お母さんが居ますからね)
何でしょうか、これが母性と言う物でしょうか? まだ固形のご飯が食べられない仔馬ちゃんです。その為に、小まめに私のお乳を飲んでいます。これが又、母性を呼び覚ましちゃいました。
もう、何と言っても可愛いのです。やっぱり、自分の子供は別格ですね! 何をしていても可愛いのですが、私が牧場をのんびりと歩いていても、私の後をチョコチョコとついてくるんです。少しでも離れると、慌てて追いかけて来るんです。
「ブヒヒヒヒン」(絶対に、お肉に何てさせないからね)
「キュヒヒン」
子供を見ていると、その将来に使命感のようなものが湧いてきちゃいます。
お姉さん達の産んだ仔馬さんも放牧地にはいて、此処最近は仔馬同士で遊び始めたりしています。それでも、まだまだ母馬である私の周囲で遊んでいるので、私も安心して牧草を食べたりしています。
でも、遠くに居ても我が子の区別は付くと思います。それくらい、我が子は特別ですね!
でも、そこで問題なのは、やっぱり子供が何を言っているか判らないんです。私も馬語を覚えようとしているんですよ? でも、その私の前に立ちはだかる壁は、予想以上に高いのです!
「ブルルルン」(お母さんって言ってみて)
「キュフフフン」
うん、まずは此処からですよね?
「ブヒヒヒン」(お腹空いたって言ってみて)
「キュフフフン」
駄目ですね。違いがまったく聞き分けられません。同じに聞こえちゃうのです!
そして、子供と馬語の練習を始めてしばらくして、私は気がついちゃいました! 生まれたばかりの子供に、馬語を教えてもらうのは間違ってないでしょうか? 子供に言葉を教えるのは親の役目ですよね?
と、言う事で、方針を大幅に変更しました。
「ブルルルン」(お母さんですよ)
「キュフフン」
「ブルルルルン」(お母さんですよ〜)
「キュヒヒン」
駄目ですね。意図がまったく伝わってない気がします。
私が話す馬語を仔馬に教える事が出来れば良いんじゃないかって思ったんです。ですが、我が子からは全然違う嘶きが返って来ますし、そもそも自分の嘶きの差が判らないかも?
「ブヒヒヒン」(私はお母さんですよ)
「ブルルルン」(メロンは御馳走なんですよ)
「ブルルルン」(リンゴが食べたいんですよ)
自分で自分の嘶きを聞きますが、結構微妙なんです。食べ物絡みは似てる? 偶々? 今まではどうでしたっけ?
自分の嘶きに、疑問を持つ馬っているのでしょうか。
我が子が、クリクリお目々で私を見て来るので思わずハムハムしちゃいます。言葉なんて、何となくで伝わりますよね? ほら、以心伝心って言いますから。
そんな感じで、我が子とコミュニケーションをとっています。でも、さっきから熱い視線を感じているんです。
なんと! 昨年で引退したヒヨリが、私の周りをウロウロとしているんです。ヒヨリも、私の産んだ子供だと理解しているみたいで、嫉妬して仔馬に悪さをしたりとかはしないんです。どちらかと言うと、可愛がってくれてます。時々、ハムハムとグルーミングまでしてくれます。
「ブフフフン」(ヒヨリ、おいで)
「キュフン」
私がヒヨリに声を掛けると、ヒヨリは喜んで近寄って来ました。ヒヨリも相変わらず甘えん坊さんですね。
ヒヨリが引退して、牧場に帰って来てから数か月は過ぎたのかな? まだ子供が生まれる前だったので、ヒヨリとのんびり生活でした。それこそ、放牧されたら一日中ヒヨリと一緒にいましたね。その為か、前以上に甘えん坊になっちゃった気がします。
ハムハムハム、ハムハムハム
近づいて来たヒヨリをハムハムしてあげます。我が子は、グルーミングが終わったので、せっせとお乳を飲み始めました。
ずっと、こんな感じでのんびりとしていたいですねぇ。
そんな事を思っていると、ふと一つの疑問が沸き上がりました。
「ブルルルン」(ヒヨリは仔馬ちゃんと会話出来るの?)
「キュフフン」
お返事してくれるのですが、やはり何を言っているのか判りません。我が子は、ヒヨリの嘶き何て全然気にせずお乳を飲んでいます。
「ブフフフン」(やっぱり会話は成り立ってないのかも?)
ヒヨリと我が子で、会話が成り立っている様には見えません。お馬さん達は、どうやって会話をしているのでしょうか?
「キュフフン」
「キュヒヒヒン」
そんな事を考えていると、お乳を飲み終わった我が子がヒヨリに何か訴えます。すると、グルーミングを終えたヒヨリが、牧草を食べる為に移動します。そして、何故か我が子がヒヨリにひっついて移動していきました。
「ブルルルン」(何処へ行くの?)
「キュフン」
「キュヒヒヒン」
駄目ですね。何を言っているのか判りません。
ただ、ヒヨリは我が子を気にしないと言うか、受け入れています? あれ? ヒヨリ、貴方はまだ仔馬を産んだ事無いですよね?
何故かヒヨリに懐いて追いかける我が子ですが、何かですね、ちょっとショックなのです。
「ブルルルン」(ヒヨリはお乳は出ませんよ?)
我が子にそう訴えかけます。
出ませんよね? まだ子供を産んでないですし、でも、ヒヨリだから根性で母乳くらい出しそうですよね? 何かちょっと複雑な気持ちですが、我が子が気になるので後を追いかけます。
でも、生まれた時から馬語が話せるとすると、私は何で話せないのでしょう? 謎ですね。
◆◆◆
放牧された馬達を見ていると、ミナミベレディーとサクラヒヨリが仔馬を連れ立って移動する姿が見えた。
「トッコが仔馬を連れているなんてねえ」
勿論、北川牧場で出産した為にミナミベレディーが仔馬を産んだ事は理解している。しかし、今目の前に広がる光景に、恵美子は時間の流れを感じてしまう。
昨年生まれた仔馬達は無事に買い手がついていた。今まで考えた事もない価格が付き、北川牧場では漸く貯えが出来てきていた。その為、ミナミベレディーにも、サクラヒヨリにも、今年の種付けは想定より高めでも問題無いかと考えていた。
「価格を気にしなくてよいなら、それぞれ気に入ったお馬さんで種付け出来そうなんだけど……」
ただ問題は今年も無事にミナミベレディーに種付けできるか。そして、それはサクラヒヨリも同様の問題を抱えている。
「トッコは子煩悩だし、ヒヨリもあれだけトッコの仔馬の世話をしているのだから、無事に出産すれば問題なさそうなのだけど。其処までが大変なのよねえ」
今年は十勝川ファームでのお見合い会にミナミベレディーとサクラヒヨリも連れて行く事になった。十勝川との関係がより深くなっている為に、どうしても配慮せざる得なかったのだが、そもそもミナミベレディー達が発情するトリガーが良くわからない。その為、可能性は多い方が良い為、恵美子としても歓迎すべき事ではある。
「毎年タンポポチャ頼みの運任せと言うわけにもいかないわよね。トッコは2年目だからスムーズに行ってくれると良いのだけど。トッコ達が引退しても、悩みは尽きないわねぇ」
放牧地でのんびりと草を食んでいる2頭を見ながら、何やら悶々とする恵美子である。
◇◇◇
元々のお話が2000文字強と短かったため、ちょっとお話を付け加えました。
楽しんで頂ければ幸いです。
あと、現代ファンタジーの週間で98位になりました! 応援ありがとうございます!
実はカクヨムのコンテストにも応募入れているんですか、そっちで現代ドラマで応募した後に、登録が現代ファンタジーになっていたのに気が付きました。
うん、投稿時に区分けがどれになるのか悩んで、そう言えば現代ファンタジーにしたんだったとw
変更すると色々とリセットされそうなので、此の侭行く事に><
応援いただければ嬉しいので、宜しくお願いいたします。m(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます