第156話 大阪杯実況
『桜が満開に咲き誇る中、春の芝2000mで争われます第※※回大阪杯がここ阪神競馬場で開催されようとしております。
今年の大阪杯、何と言っても1番人気、昨年の優勝馬トカチマジック。2月末に行われましたGⅡ芝1800m中山記念では、先行するミチノクノタビを最後の直線で見事に差し切り重賞7勝目、大阪杯連覇に向け視界良好といった所。
2番人気には一昨年秋の天皇賞馬ヒガシノルーン。こちらも3月に開催されましたGⅡ芝2000m金鯱賞では、6歳という年齢を感じさせない走りを見せました。
昨年の大阪杯ではトカチマジックに首差の2着、今年こそはと雪辱に燃えています。
3番人気に・・・・・・』
本場場入場が始まり、競馬番組の司会者が各有力馬の解説を始める。
テレビで番組を観ながら、競馬サークルの面々は応援する馬達の状態を真剣に確認していた。
「やっぱりトカチマジックだよな。何と言っても昨年の勝馬だし、対抗できそうな馬がいないって」
「ヒガシノルーンも調子良さそうよ? 何と言っても芝2000mの金鯱勝っているし。ちなみに、私はスプリングヒナノを軸でコニシルンバとミルコプリンス、あとザイタクユウシャの3点買い」
山田さんの言葉に、思わずその3点のオッズを確認した祐一は、どれも10万馬券という所に、流石だなあと変な関心をしてしまう。
「私は手堅くトカチマジックを軸にしたけど、サクラヒヨリとスプリングヒナノでの2点買い。最近は牝馬が強いから。でも、高めのトカチマジックとスプリングヒナノが来ても4000円ちょっとにしかならないんだよね」
そう言いながら馬券をじっと見る加藤さん。
そんな中、祐一は自分が購入したサクラヒヨリの馬券を見る。
「内藤君はサクラヒヨリの単勝だよね? そうすると、5.6倍かあ」
「だね。ただ今回は交通費は関係無いから、当たれば食事代にはなるかな」
3月に入り、競馬サークルの代表をしていた篠原先輩が卒業となる為に代表を引退。4月より4年生となる木之瀬が代表を引き継いだ。そして、レースをテレビで見た後は、全員で食事兼4月の新人勧誘の打ち合わせがあるのだ。
「篠原先輩は、またコニシルンバを軸ですか?」
「おう、此処まで来たら一蓮托生だな」
そう言って篠原が見せた馬券は、コニシルンバを軸に下位人気5頭をそれぞれ200円づつ購入していた。
「どれも万馬券だな」
そう言って胸を張る篠原だが、そもそも馬券は当たらなければ、ただのゴミと言って良い。
そうこうしている間にも出走馬のゲート入りは順調に進み、みんなの視線がテレビへと向かう。
『各馬ゲートに納まりまして、スタートしました! 各馬綺麗なスタート! 先頭は2番ファニーファニー、ハナを切っていきます。12番キタノフブキも一気に前を窺う。最内1番ブラックスパロウも上がっていく。その1馬身後方に6番サクラヒヨリ、今日はこの位置からのレース・・・・・・。
向こう正面に入り、先頭は依然ファニーファニーとブラックスパロウが並走しています。1000mの通過タイムは59秒7、やや速いタイムだが、これが後半どう影響を及ぼしていくのか。
前2頭が息を入れ、馬群は徐々に縮まって来た。ファニーファニー先頭に間もなく4コーナー。ここで後方からミチノクノタビが外を回って上がって来た。トカチマジックも徐々に動き始めているか! 各馬早くも動き始めながら、ファニーファニーを先頭に4コーナーへ。
4コーナーから3コーナーでヒガシノルーンが6番手、スプリングヒナノが更にその後ろ、トカチマジックはまだ11番手。サクラヒヨリ鞍上鈴村騎手、手鞭が入ってサクラヒヨリも徐々に前に向かう! 最後の直線、ファニーファニー、ブラックスパロウに鞭が入った! サクラヒヨリはまだ4番手! キタノフブキがジワジワと前に迫る! 後方からヒガシノルーンが上がって来た!
大外から一気に伸びて来たのはトカチマジック! これは勢いが違う! 直線の坂、前2頭の脚が止まったか! 先頭キタノフブキ、しかし後方からヒガシノルーン、トカチマジックが上がって来る!
残り200mで先頭はトカチマジックかヒガシノルーンか! 2頭壮絶な叩き合いだ!
トカチマジックか! 僅かにトカチマジックが前へと出たか! ヒガシノルーン届かない! トカチマジックだ! トカチマジックだ! トカチマジックが先頭でゴールを駆け抜けた~~~!
昨年に続き大阪杯を制したのはトカチマジック! 大阪杯連覇を成し遂げました!
2着ヒガシノルーン、3着にミチノクノタビ・・・・・・』
「ガチガチじゃん。トカチマジックが最後にごぼう抜きだよ」
「だね。トカチマジックとヒガシノルーンだとオッズも低いね。1.7倍だよ」
それぞれが、自分の馬券を見ながら溜息を吐く。何故なら、今回は誰ひとり的中した人がいなかったからだった。
「サクラヒヨリも伸びなかったね。ロングスパートもしなかったし」
祐一が推していたサクラヒヨリは、結局7着となっていた。
「ああ、もともとサクラヒヨリは沈むときは沈むからなあ。3歳から一気に良くなってきたけど、2歳の時は10着とかあったし。まあそれも競馬だよね」
ただ、推している馬が負けるのは、やっぱり悲しいなと思いながら、祐一は荷物を片付け始める。
「よし! このまま残念会兼新人獲得対策会議に行くか。今日はファミレスだな」
「誰かが勝っていれば、何処行く予定だったんですか?」
「何時もの所だ」
「あ~~~」
誰もが既にレースの事は忘れて、どやどやと部屋を後にするのだった。
◆◆◆
そんな同じ競馬サークルの集まりであっても、此方は若干様相が違っていた。
「うそ~~~~! ちょっと、ヒヨリ! 何で走り方変えないの!」
レース終盤の直線、3コーナーから鈴村騎手の手が動いているのは映像からも判った。しかし、明らかにサクラヒヨリの反応が悪い。そして、最後の直線へ入ったサクラヒヨリは最後までストライド走法で走り続け、最後は馬群に沈んで7着となる。
「うっきゃ~~~! ちょ、ヒヨリ! どうしたの!」
レースが始まり、3コーナー辺りから桜花の声が部室内に響き渡り始める。
普段、サークルでは札幌競馬場へ行くか、事前に場外窓口で馬券を購入した後に部室でレースを見るかのほぼ2択であるが、今日はその部室のテレビでレースを見る日であった。
「相変わらず桜花さんは突き抜けてるね」
「先日のドバイの時はもっと凄かったです。周りの注目を受けて、私思いっきり焦りました」
「僕らはまだ慣れているからね」
「自家生産馬だからだろうけど、凄いねぇ」
未来を含め競馬サークルの面々は、レースではなくテレビの前で大騒ぎをしている桜花を見ていた。そして、桜花の実況を聞きながら遠目でレースを見る。
「うそ! 何で! ピッチ走法だよ! 短く刻むんって、うきゃ~~~~! ちょ、駄目だ~~~! 故障? ヒヨリ! 大丈夫なの! 何かあったの!」
桜花の実況を聞きながらテレビを観ている面々は、どうやらサクラヒヨリが思うような走りが出来ていない事を知る。
「サクラヒヨリが伸びないですね。それと、今日は走り方が変わりませんね」
「そうだなあ、一生懸命走っているんだけど。故障って感じではないけどな」
「何で走り方が変わらないのかな?」
みんなでそう話している間に、大阪杯はトカチマジックの連勝で幕を閉じた。
「わ~~~ん! ぜんぜんダメダメだった! せめて掲示板に載って欲しかったよ~~」
依然、テレビの前で大騒ぎをしている桜花を放置して、サークルのメンバーは先程のレースを振り返る。
「やっぱりトカチマジックは強いな。昨年に続いて2連覇だよ」
「桜花ちゃんから事前に聞いていたから、今回はヤバいかもとサクラヒヨリは外してたのよね」
「そう言う所は、未来ちゃんはドライだよね」
「あ、桜花ちゃん復帰?」
「自分の所の馬が負けるのは慣れてるもん」
そう言って笑う桜花だが、これがミナミベレディーであれば落ち込みは更に凄かったのではと未来は思う。しかし、そこには触れずにメンバーで馬券チェックに入る。
「で、結局勝った人は居る?」
「「「・・・・・・」」」
黙り込むメンバーを見て苦笑を浮かべながら、村松が馬券を見せる。
「まあトカチマジックの単勝で2.1倍と馬複で1.7倍だから、これで勝ったとは言えないよね」
村松は苦笑を浮かべて馬券を見せる。
「とりあえず、動物達の世話をしに行こうか」
「「「は~い」」」
サークルメンバーは、牛や豚など学校で飼育している動物達の世話をしに向かうのだった。
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