第151話 ドバイからお伝えしました~
「日本の競馬ファンの皆さん! 細川は今、ドバイに来ていますよ! これからドバイの様子と、今週末に行われるドバイワールドカップデーへ出走するお馬さんの様子、各厩舎の様子などをお伝えしたいと思います」
テレビカメラの前で美佳は笑顔で話をしながら、今週末に行われるドバイワールドカップデーの詳細を伝えていく。
「美佳は、何と! 自主的にドバイへ来ていますので、格安航空を使用し香港経由で約15時間掛かりました。ほんと、遠かったですね~。それでも、ヨーロッパよりは近いですか? でも直行便だと10時間で到着なんですよ? もし観戦希望される人は、旅行会社のツアーがお得です!」
そんな感じで、コミカルにドバイの様子を伝えていく。
「宿泊費は、普通の観光だと1泊2~4万円くらいですかね。でもですね、ドバイで競馬観戦と言えば、やっぱり、あのメイダン競馬場に隣接している世界で唯一の5つ星ホテルに泊まりたいですよね! この時期だと1泊だいたい30万円以上。泊まってみたいですね~。という事で、なんと、なんと! 泊まれませんよ! 泊まれるわけ無いじゃないですか! 予算オーバーですよ!
30万って何ですか其れ! 最後の一日くらいと思わなくも無かったのですが、断念しました! 10日も滞在するんです。その宿泊費の総額が、ほぼ1日で飛びます。駄目ですね~、怖いですね~。
あ、ちなみに日本の旅行会社で観戦ツアーが組まれていますよ! だいたい、お一人30万円強くらいです? 若しかすると、まだ駆け込み出来るかも! 興味が湧いた人は旅行会社へ急ぎましょう!」
ドバイの紹介と共に、メイダン競馬場で各馬の陣営が食事している所へお邪魔してのインタビューなどを交え撮影し、映像を日本の番組へと送る。その映像を基に、番組は加工編集して放送の媒体を作っていく。
もっとも、細川自身はどの部分が採用されたのかなどは、日本に帰ってみないと判らないのだが。
「おおお、あそこにいるのは競馬ファンの人にはお馴染み、ミナミベレディーの主戦、鈴村騎手と、北川牧場の勝利の女神! 北川桜花ちゃんです! ミナミベレディー、サクラヒヨリが桜花賞を勝てたのは正にこの勝利の女神の御蔭! さあ、ちょっと突撃してみましょう!」
馬見厩舎の面々が固まって食事をしている中、その端っこに座って食事をしていた桜花と未来の下に、美佳とカメラマンが突撃していく。
「鈴村騎手、桜花ちゃん、おはようございます~」
「美佳さん、おはようございます。取材ですか?」
「え? あ、美佳さん、おはようございます」
「!」
近づいて来る美佳に気が付いていた鈴村騎手と、突然の事に吃驚する桜花。そして、美佳とカメラマンの突然の登場に慌てる未来。
「綺麗処が3人揃っていますね~。こちらの方は?」
「あ、私の大学の同級生です」
「あら、関係者の方ではなかったんですね。とすると撮影は拙いですね」
「私も一応は一般人なんですけど」
美佳に抗議する桜花ではあるが、既に幾度も表彰式で映像に映っているのと、例のドキュメンタリー番組でも出演している。その為、競馬番組においては思いっきり一般人というよりは北川牧場の関係者という扱いとなっている。
「それは今更として、香織ちゃんと桜花ちゃんはこっちのテーブルにちょっと来てもらっても良い? ミナミベレディーの様子とか聞きたいから。しっかりお仕事して、映像を買い取って貰わないとなんだよね」
「美佳さんは、お仕事で来てるんじゃないの?」
「美佳はね、プライベートで来ているのに番組のプロデューサーから当日の実況を頼まれたの。それで、どうせならとレース前の映像を毎日送って買い取ってもらう事にしたんだって」
「趣味も兼ねてますけどね~。レースが終わるまではしっかり取材しに来ますからね」
鈴村騎手の説明に、そう言って満面の笑みを浮かべる美佳であった。
◆◆◆
レース当日、早朝に到着する直行便にて大南辺は妻と二人ドバイ国際空港に降り立った。
「おお、流石はドバイ国際空港だな」
アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアなどには、仕事やプライベートで幾度か行った事のある大南辺であるが、流石にドバイ訪問は初めてであった。
「空港に降り立つと、その国その国の独特の匂いがしますわね」
妻である道子も、想像以上に綺麗に整えられているドバイ国際空港の様子に素直な驚きを覚える。
「今度時間を取ってゆっくりと旅行に来ようか」
「それも良いですわね」
そんな事を話しながら、迎えに来ていた通訳兼ガイドに連れられてメイダン競馬場に隣接するホテルへと向かう。
大南辺夫妻は、ドバイシーマクラシック翌日にある祝勝会、若しくは慰労会に出席すると早々に帰国の途に就く予定だ。
中々に忙しいスケジュールの大南辺故に、何とか月曜日に休みを取るのがいっぱいいっぱいだったのだ。それ故に、大南辺はこの後の時間はメイダン競馬場で過ごし、妻は関係者達への挨拶を終わらせると早々に、夫をメイダン競馬場へ残してドバイモールへと買い物に行く予定だった。
そんな大南辺夫妻は、タクシーに乗りメイダン競馬場へと移動する。そして、大南辺は競馬場に隣接しているホテルからの景色に感嘆の声を上げる。
「すごいな。ここからレースが見れるのか」
「本当ね。あと流石は星5つのホテルね」
それぞれが、それぞれに感想を述べながら、まずは馬見調教師へと挨拶に向かうのだった。
そしてドバイシーマクラシックを馬主席で観戦した大南辺は、またもや感動の涙を流していた。
「勝ったぞ! 世界有数のレースで、ミナミベレディーが、私の馬が勝ったぞ!」
馬主として、それ以前に一競馬ファンとして、大南辺は先程から体の震えを抑える事が出来なかった。
ミナミベレディー、その馬との出会いは僅か4年前でしかない。あの時、もし北川牧場へと足を運ばなければ、もしミナミベレディーが売れ残っていなければ、様々なもしが重なった結果、今自分はこの場所で所有馬の勝利を味わっている。
「貴方、良かったわね」
「ああ、ああ、本当だ。ドバイを走らせる予定など無かったんだぞ。有馬記念を勝って、年度代表馬になって、半分以上勢いでしか無かった」
「そうねぇ。私は貴方ほど詳しく無いから、でも貴方がそこまで喜んでくれて嬉しいわ」
競馬に詳しくない道子としては、この海外で行われるレースがどういった意味があるのか、競馬関係者達にどういった思いがあるのか、そういったものは何もわからない。
ただ判るのは、レースに勝って多くの賞金が入る事くらいだ。そんな道子でも此処まで感動を顕わにする夫を見て、そこにしか意味を見出せない自分がちょっと寂しく感じる。
もっとも、喜びを全身で表す夫を見て、まあ良いかと思う自分も居るのだったが。
「さあ、皆さんを労いに行きましょう。馬見調教師も、鈴村さんも、それ以外の皆さんも、ずっと頑張ってくださったんですから」
「ああ、そうだな。表彰式も日本とは勝手が違うのか?」
「私に聞いても判りませんわ」
ハンカチを取り出し、夫の涙を拭いて、道子は夫と連れ立って表彰式へと向かうのだった。
◆◆◆
そして、ドバイシーマクラシック表彰式。
「皆さん、凄いですね! 凄かったですね! ミナミベレディーが、ドバイシーマクラシックを勝ってくれました! しかもしかも、何とプリンセスフラウとのワンツーフィニッシュです! やりましたよ! もう美佳は大興奮です! 見えてますか? 今まさに表彰式が始まろうとしています!」
美佳の視線の先では、蠣崎調教助手、馬見調教師が引綱を持ち、鈴村騎手が騎乗したミナミベレディーが写真撮影を行っている。この後、表彰式が行われる事となる。
「どうですか~。司会の福島アナウンサー、聞こえていますか~」
この遣り取りは、日本で深夜に組まれている特別番組で流されている。また、後日組まれる予定の特番でも使用される予定であった。
日本馬がすっごく好成績を収めたし、盛り上がったんだから特番は絶対組まれるよね!
レースの結果次第では、特番が組まれずに終わる可能性もあった。しかし、ミナミベレディーを含め、日本馬が好成績を収めた今回は間違いなく特番は組まれるだろう。
美佳は、今回撮影した映像が多く使われる事を、思いっきり期待するのだった。
ただ、そんな先の事はともかく、現在テレビ局とはLIVEで繋がっている。テレビ番組のみならず、ネットでも番組は生中継されていた。
「はい、こちらは凄い熱気ですね! ドバイという事で3月でも日中は暑かったんですが、夜には一気に気温が下がって肌寒かったんですよ! ・・・・・・でも! そんな肌寒さが欠片も感じられない程の熱気が、今ここメイダン競馬場を包んでいます!」
ネットで音声が繋がる現代であっても、音声にはタイムラグがある。それを加味しながら美佳は今の状況を伝えていく。
「ミナミベレディーの調教師である馬見調教師が舞台に上がりました。そして今、優勝のシャーレが手渡されます。馬見調教師が満面の笑みで受け取っていますが、若干涙ぐんでいます? ちょっと此処からでは判りませんね」
カメラマンが表彰式の舞台を大きく撮影している。自分より映像を見ている人の方が、其処ら辺は良く判るかもしれない。
「次はミナミベレディーの馬主である大南辺氏が表彰台へと上がります。凄い笑顔ですね~。思わず此方迄嬉しくなって来ちゃいますね。
え? あ、いえ、私がミナミベレディー大好きなのはありますけど、それだけじゃ無いですよ~。でも、自分の推しのお馬さんが大きな舞台で勝ってくれるのは格別です! もうテンション上がっちゃいますよ! 来て良かったです!」
そう告げる美佳自身も、満面の笑みである。
「肝心のミナミベレディーは、先程から北川牧場の御嬢さんと思いっきり戯れていますね。尻尾ブンブンさせて、すっごくご機嫌です! 御嬢さんの顔をベロンベロン舐めてますね~」
自分で告げた様に、テンションアゲアゲで表彰式の様子を実況していると、競馬協会のスタッフが次レースへ出走する馬がパドックに向かった事を知らせてくれる。
「この後、日本時間で1時半よりドバイワールドカップデー最後のレース、ダート2000mで競われますドバイワールドカップが始まります! もう最後のレースなんですよね。現地にいる私は、レース前に行われた航空ショーから始まって、今日1日ずっと興奮しっぱなしです。最後のレースにも日本からは・・・・・・」
それこそ話し通しの美佳の声も、既に掠れ気味になってきている。それであっても、周りの雰囲気に引き摺られてなのか疲れは一切感じられない。
「あ、それとですね。明日のミナミベレディー陣営で行われる祝勝会に、なんと参加させて貰える事になりました! その模様を、また皆様にお届けできればと思います。それでは、急いでパドックが見える位置へと移動します! では一旦マイクをお返しします~」
そう笑顔で締めくくると、美佳は駆け足でパドックへ向かうのだった。
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