第115話 有馬記念に向けて
私のちょっとふっくら疑惑事件が発生したのち、おじさん達が宣言通り、1日に食べられるリンゴの数が制限されちゃいました。
「ブヒヒヒン」(楽しみが減ったの~)
せっかく飼葉桶をカランカラン鳴らすことを覚えたのに、見には来てくれるけどお鼻を撫でてくれるだけで帰っちゃうんです。
「キュフ~ン」(お腹空いたの~)
悲しそうな声で訴えかけるのですが、中々リンゴが貰えません。
そんな中、鈴村さんがノートパソコンを手にしてやってきました。
「ベレディー、元気そうね」
「ブフフフフン」(元気じゃないの~、お腹が空いてるの~)
私の訴えを聞いても、鈴村さんは鼻先を撫でてくれるだけです。撫でた後は、テキパキとモニターとノートパソコンを設置して、何時もの勉強会の準備に入りました。
「ブルルルン」(モニターが増えたし、大きくなった!)
鈴村さんが、ノートパソコンと一緒に、大きなモニターも持って来て吃驚です。
今まではノートパソコンの画面が小さくて見辛かったので、どちらかというと実況とお馬さんの走る音でレースを見て? 聞いて? いましたけど、これだけ大きいと画面が見えるかな?
興味津々でモニターを見ていると、ノートパソコンの画面が映し出されました。
「ブフフン」(お馬さんの壁紙ですね)
ドド~ンと、モニター画面いっぱいにお馬さんのお顔が映ってます。
でも、見たことの無いお馬さんですね。タンポポチャさんじゃないですし、もちろんヒヨリでも無いです。栗毛の美人さんですよ? 何処となく温和な感じの目元に見えます。
それにしても、パソコンの壁紙迄お馬さんなんですね。流石は騎手さんです。
「ベレディーちょっとまってね、有馬記念のレース映像を用意しているから」
「ブルルルン」(何か何処かで聞いた名前かな)
ノートパソコンを操作している様子が画面で見えるのですが、どのフォルダーもお馬さんのレース映像が一杯っぽいですね。
騎手としては誰もが、こんな感じなのかな? ただ、女性としては何となく駄目っぽい?
「ブヒヒヒン」(もう少し、映画とか無いのでしょうか?)
音楽とか、そう言ったものも見てみたい所ですが、私は操作は出来ないのでただ画面を眺めています。
「有馬記念はね、普通のレースと違って出走馬を競馬ファンが投票するんだよ。春の締めくくりの宝塚記念と同じなんだけど、やっぱり1年の締めくくり、最後のレースという事で凄い盛り上がるの」
セッティングをしながら、鈴村さんが有馬記念のお話をしてくれます。
ただ、聞いていると何かお祭りみたいな感じでしょうか? そうすると屋台とか出店とかも出るのかな? 焼きそばとか、ワタアメとか、りんご飴も捨てがたいです。
「ブルルルン」(リンゴ飴が食べたいです!)
リンゴをお砂糖でコーティングしているんですよね? あれならお馬さんでも食べられると思うのです。
「ブフフフフフン」(でも、丸々1個だと、食べ辛そうですね。小さなサイズもあったかな?)
今ひとつ記憶にないのですが、勝手に想像したリンゴ飴の味で、お口の中にジワジワと唾液が溜まって来ちゃいます。
「ちょ! ベレディー、どうしたの! 涎! 涎が凄いよ!」
あれ? 何時の間にか涎が垂れていたみたいです。 お、女の子としては大失態です!
私は急いで馬房の隅っこで涎を拭います。ついでに、涎が垂れた寝藁を脚でチョンチョンと隅っこに蹴とばしました。
「ブフフフン」(涎が垂れた寝藁で、寝たくないですよね)
「あ~~~、まあいいかな。ベレディー、ほら、まずは人気投票予想だよ」
そう言って、モニターに映像を出しながら読み上げてくれます。
うん、良かったです。
流石に鈴村さんも、私に文字が読めるとは思っていないみたいですね。モニターが大きくなった御蔭で、文字も見えるから読めるんですけどね。
「ベレディーが1番人気で、2番人気がタンポポチャだね。3番がファイアスピリットなのは、3連覇を期待してるからかな? あと、有馬記念の勝ち方を知っているのもあるかも?
4番にプリンセスフラウかあ。芝2500mだと、タンポポチャよりプリンセスフラウが前に来るかと思っていたけど、タンポポチャはGⅠを6勝しているのは大きいね」
「ブルルルン」(タンポポチャさんと一緒のレース?)
鈴村さんの言葉に、思わず反応しちゃいました。タンポポチャさんと一緒のレースを走ったのは、いつ以来かな? お祭りレースで一緒に走れるって思うと楽しみになってきます。
「今から、去年の映像流すからね」
鈴村さんは、そう言って画面にレースの実況映像を流しました。
「ブルルルルン」(わぁ、初めて見た)
今までも実況は聞いていたんです。ただ、お馬さんのレースを、こんな風に見た事は無かったですね。
流れている映像では、ゲートから出たお馬さんがバタバタしているのが判ります。思っていた以上に、スタートって揃ってないんですね。
そんな事を思いながら映像を見ていると、鈴村さんが解説を始めました。
「距離は芝2500mで、最後の直線は短いけど急坂があるからね。最後まで余力を残して置かないと、最後の坂で脚が止まるよ」
何となく、回るコーナーの数が多いですね。その為か、縦に長い感じでお馬さん達は並んで走っています。
でも、結局は最後の直線で、後ろから伸びて来たお馬さんが勝ちました。
「ブフフフフン」(タンポポチャさんが怖いかなぁ)
最後の直線でのスパートとなると、どうしてもタンポポチャさんの姿が思い浮かびます。
そんな私と違い鈴村さんは、どうやらプリンセスフラウさんを警戒しているみたいです。
「先日のエリザベス女王杯での映像なんだけど、プリンセスフラウが逃げで勝ったの。プリンセスフラウはスタミナもあるし、差し脚も鋭いから強敵になるよ。
あとは、やっぱりファイアスピリットかな。有馬記念2連覇しているし、今年でファイアスピリットも引退だから、今年GⅠ勝ちがないからこそ此処は勝って終わりたいだろうし」
どうやら、昨年のレースで最後に追い上げて来たのがファイアスピリットさんみたいです。何処かで見たような気もしますけど、牡馬ですし覚えていないです。
「タンポポチャは出走して来ても、実際はどうなのかな? 流石に芝2500mは厳しいと思うんだけど、それでもオークスを勝っているし」
「ブルルルルン」(タンポポチャさんは、凄いのですよ?)
一頭一頭の説明をしてくれる鈴村さんですが、驚いたことに人気順位で10位にサクラヒヨリがいました。
「サクラヒヨリは、有馬記念は回避で決まったからね」
ヒヨリの名前が出た所で、私は思わず反応したんですよね。そうしたら、鈴村さんが私を見ながら、そう告げました。
ヒヨリとタンポポチャさん、そして私と3人揃ってレースになるのかと、ちょっとドキドキしたんです。でも、どうやらそれは無くなったみたいです。
「ブフフフフフン」(ヒヨリと一緒のレースだと、鈴村さんはどっちに乗るの?)
ヒヨリと私の両方に騎乗している鈴村さんです。そうなると、同じレースではどちらかは違う人が騎乗するんですよね? 騎乗する騎手さんが、突然に別の人になると、私もヒヨリも混乱しそうです。
「一昨年のレースを流すね。これも、ファイアスピリットが勝ったレースだよ」
私の問いかけとは関係なく、鈴村さんは一昨年のレースを流してくれます。
「ブフフフフン」(実況だけの方がいいなあ)
映像は映像で、こんな感じなんだなって初めて判ったんです。判ったんですけど、実況を聞いてイメージしてた時の方が、何となく印象に残ります。もっとも、実際のレースとは大きく違うんですけどね。
私は前の方で走るし、後ろの状況を見ても意味は無いかな?
最後の直線で、追い込みのお馬さん達が一気に上がって来る。それさえ判っていれば、とりあえずは良い様な気もします。
それより、やっぱり気になるのは、タンポポチャさんと一緒に走れるかですよね?
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