第2話 お馬さんに生まれ変わりました
今日も私はモリモリと飼葉を食べています。しっかり食べないと体が大きくならないですし、いっぱい食べてしっかり運動をする。これこそ生き残るための唯一の方法だと思うんです。
私が食べているご飯は、私しか潜れない場所に置かれているんです。結構お腹が空くので、仕方が無いので頑張って這ってご飯を食べに行きます。もう少し食べやすく考えて欲しいですね。
「ブルルルル」(でも、出来ればもっとニンジン食べたいなぁ)
馬になって思ったのは、ニンジンがあんなに甘くて美味しいとは思わなかったのです。
ただ、ニンジンは、時々ご褒美に貰えるだけなのです。飼葉を食べながら、ニンジンを思い浮かべて食べます。そうすると、若干パサパサして味気ない飼葉もモリモリ食べられる・・・・・・気がします?
まだまだ母乳がメインの食事が終わると、お母さんと一緒に放牧されます。
この放牧こそ私の未来への重要な第一歩なのです。たぶん?
「プルルルルン」(なるほど、トットコじゃなくタタタッ、タタタッなのですね)
私は他の馬達の後ろを走りながら、足の動きを研究します。
特にいつも先頭を走りたがる番長さんの走りは、とても参考になります。
番長ですか? いつも先頭じゃ無いと機嫌が悪くなるのを見て、私が名付けました。
「フンフンフン」(るんるんるん)
流石に私も馬なので、走ること自体は気持ちが良いので好きなのです。ただ、意識せずに走っていると、なぜかドタドタしたような走り方になってしまって遅いのですよね。軽やかに走りたいのですが、そうすると今度はぴょんぴょんした走り方になっちゃいます。
まさか馬になって走り方に悩むのは私くらいでしょう。
「う~~ん、トッコは相変わらず変な走り方してるわね」
「そうだなぁ、こないだ獣医の先生にも見てもらったが、どこかがおかしいとかは無いみたいなんだが。飼葉の喰いは良いし、良く運動はしてるからトモの形も張りもいいんだ、ただなあ将来を考えると厳しいぞ」
「ブヒヒン」(失礼な!)
思わず鼻息が荒くなっちゃいました。
私だって少しでも速く走る為の研究をしているんです。何と言っても命が掛かっているんです!
あ、あとはいつも通りあの緩やかな坂を上り下りします。坂を走る事で早くなるってこないだ言ってましたよね? 他のお馬さんの時にですが。
結構キツイけど、私は頑張りますよ!
「お父さん、・・・・・・何で前足後ろ足で動いてるの? 柔軟なのは良い事だけど、色んな所に負担が大きいわよね。すぐ故障するんじゃない?」
「遊んでいるんだと思うが、判らないな。ただ馴致でしっかりと直さないと、変な癖がついたら拙いな」
「ブルル」(え?)
この走り方は、テレビで見たチーターさんを参考にしたのです。ただ、確かに腰やら何やらが走った後はすっごく疲れるのですが、この疲れなんかは将来の為に良いと思って頑張ってたんです。ほら、筋肉痛とかのあとは筋肉が強くなるのですよね?
でも、故障イコールお肉の図式が頭に浮かびます。
「ブヒヒ~~~~ン!」(死にたくないよ~~~)
私の嘶きに、他のお馬さん達も何やらパニックになりました。お母さんは駆けつけて来るし、他の子馬達は母馬の所へと逃げ込んで、母馬達は神経ピリピリになっちゃいました。
お馬さんってみんな嘶きの声色で色々と判断するので、子馬の私の悲壮感漂う嘶きに大騒ぎになったみたいです。
「ブルルルルン」(ごめんなさい、大丈夫ですよ)
お母さんは私の首を覆う感じに頭を被せて来て、私を安心させてくれます。
うん、やっぱりお母さんなんですよね。今更ながらに母馬をお母さんなんだと思いました。
ただ、世の中とはなんと不条理なのでしょうか?
漸く私はお母さんと一緒に駆けっこしたり、駆けっこしたりと、自分は馬なんだ、お母さんの子供なんだとお母さんに甘えながら実感していたら、ある日突然お母さんから引き離されてしまいました。
「プルルルン」(お母さん駆けっこ楽しかったね)
「ブヒヒン」
お母さんも返事をしてくれます。きっとそうねぇと言ってくれていると思うのです。
お母さんの御蔭で、最近は漸く馬の走り方も様になって来たのです。牧場のおじさん達もこれにはホッとした様子でしたね。そんなにあの走り方って駄目だったのですか。
それで、問題はその翌日です。いつもの様に飼葉を食べて、そろそろ放牧かなと思っていたら、何故かお母さんだけが連れていかれました。
「ブヒン」(あれ?)
私は? お母さんだけ? あれ? わたしはまだですよ~、門閉めるの早くないですか?
連れていかれるお母さんの後ろ姿を見ながら、何となくお世話をしてくれている人達の様子が、いつもと違うような感じがします。
私と視線を合わせてくれません。
もしかして・・・・・・乳離れ? 早くない?
まだ記憶を取り戻してから5ヵ月くらい? 何となく暑さが和らいできたかなって時期ですが、もう乳離れですか? お母さんと本当の親子みたいになって3ヵ月くらいですよ? え? マジですか?
「ブヒヒ~~~ン!」(お母さ~~~ん)
ちゃんとお母さんとお別れも出来てないのに、ショックが隠せません。
しばらくお母さんを呼びますが、しばらく聞こえていたお母さんの嘶きが聞こえなくなっちゃいました。
ぐっすん、お母さん、元気で暮らしてくださいね。もしかしたら今生の別れになっちゃうかもです。
下手したら馬肉ですもんね。デビュー上手くいかなければ数年で馬肉さんになっちゃいますもんね。
出来たら、今一度お母さんに会いたいものです。会えたらありがとうって言うのです。
「トッコは意外と落ち着くのが早いな」
「元々大人しい子ですから」
むぅ、しばらくして現れたおじさん達がそんな事を言っていますが、ちょっとイライラしたので敷き藁をブンブン飛ばしてやりましたよ。
はぁ、それにしても、私は競走馬としてはどうなのでしょうか? 馬肉は嫌なのです。お母さんにまた会う為にも少しでも頑張らないとですよね。
そして始まる同級生との共同生活?
同い年の馬達ばかりで牧場内を駆けまわっています。ただ、おじさん達の会話を聞いている限りだと、この子達と競っているくらいだと生き抜くのは厳しそうな気がします。
「トチワカバの子が良さそうだな。まず1勝はしてくれそうだ」
「そうですね、常に先頭を走りたがりますし、スピードも当歳にしてはそこそこありますね」
おじさん達の会話を聞いていると、あの先頭の栗毛さんは良いのかな?
ただ、大きなレースが勝てるとは言わないですし、大きなレースを勝てないと繁殖牝馬にもなれなくてお肉なんですよね。
私は、こうなってくると大きなレースを一個でも勝つことが目標ですね。
そうなると、やっぱり自主練が必要なんだと思います。でも、基本的に何をすれば良いのかが判りません。
そんな試行錯誤をしながら、牧場を自由に駆け回る日々を続けています。
馬鹿の一つ覚えかもしれませんが、この緩やかな坂を上ったり下りたりと繰り返しています。そんな毎日ですが、秋ももう終わろうとしているみたいです。
「ブルルン」(寒くなって来たなぁ)
恐らく北海道なんだと思うのですが、ここ数日で一気に寒くなってきました。
牧草はまだ生えているのですが、これが枯れてしまったらお腹がすいちゃいますよね。
馬になって思うのですが、楽しみの大半は食事なんです! ニンジンやリンゴが貰えた日には数日はその思い出で幸せな気分になれます。そんな私にとっては牧草は重要な要素なのです。
「プルルルルン!」(あ、誰かがこっち来た)
遠目に人の姿が見えました。おやつが貰えるチャンスかもしれません。数に限りがあるので早い者勝ちなので急いで人のいる方へと走って行きます。
「プヒン?」(誰?)
人影に近づくと、いつものおじさんと、見たことの無いおじさんが居ます。
フンフン、フンフン
なんと! おやつの匂いがしないのです! 思いっきり期待が裏切られたのです!
「キュイーーン」(おやつ下さいよ~)
ここで怒るのは論外です。私は学んだのです。こういう時は可愛くおねだりすると後で貰えたりするのです。プンプンと怒っても何にも得にならないのです。
「ほう、この子馬は可愛いですね。当歳でここまで人に慣れているのも珍しい」
「トッコは人一倍人懐っこいですね。特にこうして愛嬌を振りまけば、おやつが貰えると学習してしまったみたいで」
おじさんはそう言って私の首の部分をトントンと叩いてくれます。
昔、お母さんがよく首の所からハムハムしてくれたのを思い出すので、このトントンも大好きです。
「ふむ、トモもしっかりしていますね。当歳牝馬とすれば馬体も悪くないですし、母馬は?」
「GⅢ馬も出していますサクラハキレイです。うちの期待の一頭なのですが、御覧のとおりちょっと変わった馬でして、庭先での取引では売れ残りまして、来年のセールに出す予定です」
「ほう、まだ所有者が決まっていないのですか。何かありましたかな?」
あれ? もしかして私を買ってくれるのかな? セールという所で売りに出すとか言われてたけど、売れ残ったらやっぱりお肉ですよね?
この際だから、華麗なステップとか見せた方が良いです?
おじさん達の会話を聞いて、私も自己PRをした方が良いのかなと移動をしようとしたのですが、私の様子を見ていた牧場のおじさんが何か慌てだしました。
「そ、それでは事務所でお打合せで宜しいですか?」
「え? はい。構いませんが」
キョトンとした表情を浮かべておじさん達は事務所の方へと歩いて行っちゃいました。
私の自己PRが出来なかったよ! 華麗なステップとか、色々とマスターしているのに。
あ、そういえばおやつも貰えなかった。 あとで持って来てくれるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます