⑦オレを救うマリア様!
「気がついた?」
オレは目を覚ますと、視線の先に知らない天井があった。
アイツから逃げ出して2年間、空の下でしか生活していなかった。
無情に広い空から解放されて、天井という制限があることに安心感を覚えた。それにいい匂いがする。甘い香り。お菓子のような甘みを連想させる香りがオレの鼻へと入ってくる。
ここはどこだろう? 地獄にしては心地よい。もしかして、何かの手違いで天国に来たのかな? オレは現状を確かめるようにゆっくりと起き上がった。
「きみ、大丈夫?」
「え!?」
オレは驚きのあまり擦れた声が漏れた。目の前にさっき出会った女神がいた。どうして女神がオレの目の前にいるんだ!?
この状況を理解できずに震えているオレを女神は何も言わずに抱きしめてくれた。
「よしよし、大丈夫よ」
温かい。生まれて初めて人の温かみを感じた気がする。オレは母さんにも抱きしめてもらえなかった。なのに、今は女神様に抱いてもらえている。
生きていて良いんだよ。女神がそう言ってくれている気がしてオレは子供のように泣いた。
他人の前で泣くことは恥ずかしいはずなのに、オレは涙を堪える事が出来なかった。
「つらかったね。もう大丈夫」
聖母マリアが現実に存在するなら、この人のことを言うのだろう。
***
「落ち着いた?」
「あ、ありがとうございます。ここは?」
「アタシの部屋よ。きみ、名前は?」
「ひ、檜山」
「檜山くんか。お腹空いたでしょ。ご飯にしよう。」
「あ、あの……」
「遠慮しないで。行くとこないんでしょ?」
女神の核心を突いた一言にオレは何も言えなかった。
ただ黙って頷くことしか出来なかった。
女神には見透かされているようだ。
このまま警察か、保護施設に送られるだろう。
「そっか。じゃあ、ここにいなさい」
「え?」
「狭い部屋だけど、外で暮らすよりはマシでしょ?」
「で、でも」
「ここで出会えたのも何かの縁。それにアタシは神様があなたを導いてくれた気がする」
女神は慰めで言っているんじゃない。本心でオレを救ってくれると言っている。この人なら信用しても良い。いや、信じたい。オレはそう思って首を縦に振った。
「よろしくね。あ! アタシの名前はマリアだから」
マリアさんか。この人は聖母マリアと同じ名前なんだ。聖母マリアは実在したんだ。オレは嬉しさのあまり涙が浮かんだ。
「今は我慢しないで泣きなさい」
マリアさんの胸の中でオレは、また泣いた。
母親からもらえなかった愛情をオレはマリアさんからもらえている。
その安心感でオレは満たされていく。
「あ、いけない。お店に電話しなくちゃ!」
オレを抱いていたマリアさんは何かを思い出したように慌て始める。 そして、カバンから携帯電話を取りだして誰かに電話をかけた。
「もしもし、近藤くん? ごめんなさい。急にあの日が来ちゃったみたい。本当にごめんなさい。ご予約のお客様に伝えておいて。次はたくさんサービスするからって。ありがとう」
マリアさんは電話を終えると、台所へと向かう。
「ごめんね、お腹空いているでしょ!? 近藤くんとの電話も終わったし、今度こそご飯用意するね」
「あ、ありがとうございます」
「そうだ。ご飯出来るまでお風呂入っていて」
風呂か。家を飛び出してから入ってないな。今日まで公園の水道水や河川敷の水で体を拭くしか出来なかった。
あれ? 服が……。オレが家を飛び出した格好からピンクのジャージに変わっている。
マリアさんの服だよな。良い匂いがする。洗濯したばかりの服からする太陽の匂いがした。
「ごめんね。男用の服ないからアタシのジャージ着て貰った。檜山くんがアタシの服着れて良かった。あの服は捨てておくね」
「はい」
服まで貸してくれるなんて。ありがたい。じゃあ、お言葉に甘えて風呂に入らせてもらおう。
2年間、溜まった
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