⑤闇の中での生き方
鈍行に何十時間も揺られて気づくとオレは東京にやってきた。
まずはどこに行こう? 田舎者のように大都会東京を見渡してながら、ここで生きる方法を考えた。
オレは高校中退。最終学歴は中卒。まず一般企業へ就職するための条件は満たしていない。保証人もいないオレは部屋を借りることも出来ない。そんなオレがこの都市で生きられるとしたら、この世界ではない。夜の世界か、闇の世界の二択になる。
この二つは学歴関係なく、実力があればのし上がることが出来る。
そんな甘い考えで闇の世界への門を叩くことを決めた。闇の世界の住人は学歴関係なく、闇に染まる覚悟があればなれる。そんな固定概念がオレの中にあった。
まずそういう者達がいそうな場所へ向かうため、オレは新宿の歌舞伎町へ足を運んだ。実際歌舞伎町に踏み入れてみると、オレの印象を大きく塗り替える場所であった。
何かの抗争に巻き込まれた男が路上に蹲ったり、酒に溺れた女が自動販売機の前でつぶれていたりなど目に余る光景ばかりが広がっている。
オレの心臓の鼓動が恐怖で早くなっていた。
何を怯えているんだ。帰る場所がないオレには怖いものはないはずだ。 そう思っていたけど、闇の世界へ踏み入れようとするも足がすくんでしまった。
これ以上ここにいてはいけない。オレは心の危険視号に従って歌舞伎町から離れようと決める。
逃げる道中で歌舞伎町の実態がオレの目に飛び込む。
華やかな都市というイメージをぶち壊すように異臭とゴミに群がるカラスがたくさんいた。ゴミに群がるのはカラスだけではなかった。人間もだ。居場所を失った人間という形の獣が人目を盗んでゴミの中から食べ物を物色していた。
オレは吐き気に襲われて、その場で腹の中に溜まっていたものを吐き出した。
上京というキラキラ輝くイメージを与える東京は、まやかしだ。
強者が弱者からしぼりとったもので作り上げた弱肉強食を具現化した都市だ。オレは場違いなところに来てしまったのではないかとう恐怖に体が震え始めた。
落ち着き。思い出すんだ。オレがアイツから受けてきた仕打ちを。それから逃げられて生きているだけで、オレはやり直せる。
この腐敗した都市からオレは這い上がるんだ。アイツに台無しにされた人生を上書きするために。
オレは吐瀉物で汚れた口を拭って、ふらふらの体に鞭を打って歌舞伎町から逃げた。
***
オレは自分の考えの甘さを痛感した。
未成年が生きて行くには日本は都合が悪かった。
オレは気づくと浮浪者になっていた。公園で新聞紙で体を温めながら、昼間は地下通路で身を隠して、夜中は暗い公園か、河川敷の高架下に身を潜めている。軽蔑していた浮浪者と同じ生活を送っていた。
「ボウズ」
「どこから来た?」
「いい、話したくないなら何も言うな」
「前の生活と今の生活、どっちが好きだ?」
「……今」
「そうか。向こうの公園に行くと炊き出しが月・水・金でやっている。ゴミを漁るよりはマシな飯が食えるぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ボウズ。生きていれば良いことなんてない。だけど、死ぬな。死んだら確実に何もない。生きていたら、運が良ければ何かがある」
「はい」
オレは当時この浮浪者が何を言っているのか理解できてなかった。
この何十年後にこの意味を嫌と言うほど知ることになる。
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