寄生事実(パラサイト) エピローグ

天地創造クイーン様、どこにいるのでしょうか?

 館中を探しても天地創造クイーン様の姿が見えない。


天地創造クイーン様」


 天地創造クイーン様は階段から優雅に下りてこられた。

 その妖艶な姿に女であるはずのわたしも思わず見惚れてしまった。


「あら、アイちゃん。どうしたの?」


天地創造クイーン様にお手紙です」


「あら、ファンレターかしら」


 天地創造クイーン様は手紙を読んでいると、先ほどまで笑顔が消えた。

 恐らく思い描いていたものと違う内容が書いていたのだろう。


「ありがとう。次の予約は何時?」


「16時です」


「そう。次の予約までアタシは部屋で休んでいるわ」


「畏まりました」


 天地創造クイーン様は手紙を持って二階の自室へと向かった。

 あの手紙に一体何が書いてあったのだろう?


 わたしが天地創造クイーン様の表情が曇ってしまった理由を知るのは、もっと先の未来になるなんて。

 この時のわたしは知る由もなかった。


***


相互補完クラウド


「はい」


 アタシは相互補完クラウドを自室へと呼び出した。


「近藤くんが亡くなったわ」


「そうでしたか」


「72歳ですって」


「男性の平均寿命は全う出来ましたね」


「あなたは随分冷たいのね。もう数少ない友人じゃない」


「失礼いたしました」


「またアタシの友達が行ってしまった。もう50年前のアタシ達を知る人はほとんどいないわね」


 こうやって過去のアタシを知る人間がどんどん減っていく。

 目的達成のために都合が良い。それなのに心のどこかで寂しさを感じているということはアタシの中に人間らしさが残っている証拠なのかしら。


 ねぇ、相互補完クラウド。寂しいわよね。

 そう訊きたいけど、彼は窓からの景色を見ていた。


 外は雨が降り始めていた。

 まるで、人間らしさを失いかけているアタシ達の代わりに泣いてくれている。そんな気がしたけど、彼には言えなかった。


 アタシは共犯者クラウドの姿を見ながら、死んだ友の顔を思い出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る