⑪寄生事実(パラサイト)発動

僕はじいさんから寄生事実パラサイトを手に入れた。

 天地開闢スキルマーケット異能力アビリティの契約をしてから一週間が経過した。


 僕は相変わらず引きこもり生活を送っている。部屋のベッドの上で、ただ時間を無駄に消費している。


 あれから天地開闢スキルマーケットから高額な金を請求されるんじゃないかという不安はあった。


 でも、金は請求されなかった。それどころか、あれ以来天地開闢スキルマーケットから来たのは一通の封筒だけだった。

 中には手紙とカードが一枚だけ。そのカードはビデオ通話の時に見せられた気色悪いカタツムリの画像と同じイラストだった。


 パソコンの画面越しでも気持ち悪かったが、実物はさらに気持ち悪い。 

こんなカードを送りつけてくるなんて天地開闢スキルマーケットは危ない連中だ。


 手紙には異能力アビリティの詳細とカードは大切に保管くださいと書かれていた。


 このカードが契約書ってことなのかな?


 ただの嫌がらせじゃなくて、ちゃんと意味があったのか。


「そういえば、寄生事実パラサイトの発動条件ってなんだっけ?


 僕は自分の能力を確認するため、天地開闢スキルマーケットから届いた手紙を確認してみた。


 手紙には寄生事実パラサイトの発動条件と禁止事項タブーが記載されていた。


「発動条件は異性と目を合わせる。禁止事項タブーは自分の見失う?」


 発動条件はじいさんの言っていた通り、相手と目を合わせるだけで良いみたいだ。なんて簡単なんだ。それだけで相手をコントロール出来るなんて本当なら凄い力だ。


 だけど、禁止事項タブーの自分を見失うという意味が理解できない。自分を見失ったら、どうなるんだ?


 禁止事項タブーによるデメリットがあるか手紙を確認した。


禁止事項タブーに触れたら、死ぬ」


 死ぬんだ。あまりにも現実離れしたことが書かれていて全然怖くなかった。


 まぁ、自分の現実を理解しろってことなのかな。

 それだけで大丈夫なら、特に問題はない。


 僕は寄生事実パラサイトの能力者になったけど、何の変化も感じられなかった。


 異性と目を合わせるのが発動条件なら、母親と目を合わせても発動するはず。


 でも、母親とは何も起こらなかった。まぁ、母親が初めての相手になる思うと寒気がする。寄生事実パラサイトが発動しなくて良かったと僕は、ほっとする。


 やっぱり僕は騙されているのか。そう思い始めるも、じいさん達を訴えること僕には出来ない。

 僕はじいさん達から何も被害を受けていない。

 ただ不思議な力を与えると言われただけ。金も騙し取られていない状況でじいさん達を訴えるのは不可能だ。


 これで何も起きなかったら、それでも良い。

 僕が天地開闢スキルマーケットは詐欺サイトという情報をネットに流せば良いだけだ。


 もしかして、ちゃんと目線が合っていないとダメなのか?

 母親と目が合ったのは一瞬だけだ。もっとしっかり目を見ないといけないのかもしれない。


 僕は寄生事実パラサイトが発動しなかった可能性を見つけて別の方法で試すことにした。


 僕はスマホを手に取って出会い系アプリを立ち上げた。

 だけど、ここは普通の出会い系じゃない。援助交際を支援するサイトだ。


 今、金に困っている家出少女が増えている。

 彼女たちは金さえ払えば何でもしてくれる。もちろん、本番行為も。繁華街の裏路地にもいるがネットの方が捕まりやすい。


 ネットの中には金に困った少女達が金次第で何でもしてくれると情報を拡散している。悪い大人に見つかっているとも知らないで彼女たちは今を生きるために体を捧げている。


 僕はそんな女の子とコンタクトを取ってみた。二万円渡すから会わないかと誘った。すぐに返事が来て会えることになった。


 僕は体がガタガタ震え始めた。

 四年ぶりに外に出て人の視線への恐怖。

寄生事実パラサイトの発動失敗への不安。その二つに押しつぶされそうになりながら、女の子を待った。

 

 念のために昨日の夜に親の財布から二万円を抜いてきた。

 ダメだったら、これを払えば良い。


「羽賀さんですか?」


「え?」


 突然、誰かが僕に声をかけてきた。

 恐る恐る振り返ると、僕は目を疑った。


 目の前には清楚という言葉が似合う美少女がいた。

 僕が想いを寄せていたマユにそっくりな女の子であった。


「はい」


「初めまして、ネットで連絡したマユミと言います」


 名前まで似ているなんて。運命的なものを感じてしまう。


「じゃあ、いきましょうか……」


 あれ? どうしたんだろう? この子の反応が可笑しい。

 まるで、好きな異性が目の前にいるようなうっとりとした目をしている。


 僕が彼女の変化に気づいた瞬間、彼女は突然キスをし始めた。


「が、我慢できません。早く行きましょう」


「は、はい」


 僕は状況を理解できないまま、彼女と新宿のラブホテルへと入った。

 

 その日、僕は大人となった。

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