⑩寄生事実(パラサイト)の誕生
僕は
しかし、初対面の相手と会う勇気は僕にはなかった。
指定場所も高級住宅街。僕のような引きこもりが足を踏み入れるには覚悟が必要だ。
管理人は僕の要望を素直に受け入れてくれた。
僕は
管理人と会う当日、予定時刻の五分前に
メールを開くとオンライン通話用のURLが添付されていた。
ここから入れってことか。
僕は添付されていたURLを開くと、ビデオ通話アプリが起動した。
「羽賀様。ワタシのお声は届いていますでしょうか?」
ビデオ通話が繋がると、画面上には灰色の髪の老人が映った。
誰だ、このじいさん?
もしかして、この人が
こんな真面目そうなじいさんがふざけたサイトを運営しているなんて信じられない。
一体どんな目的があってサイト運営なんてやっているんだろう。
「羽賀様?」
「は、はい。聞こえています」
「ご確認ありがとうございます。ワタシはこの
「はい」
やっぱり、このじいさんが管理人のようだ。
それともネットのクラウドサービスのことを言っているのか?
なんてセンスのないハンドルネームだ。
「羽賀様、今回お時間を頂きありがとうございます。早速ですが、羽賀様のお問い合わせ内容について確認致します。
羽賀様は現在をご自宅から出られず、お仕事もされていない。
しかし、女性と行為をしたい。このままでは死ぬまでにその要望が叶わないことに不安を覚えて当サイトにお問い合わせを頂いた。お間違いないでしょうか?」
「はい。そうです」
じいさんは僕の問い合わせ内容をオブラートに包みながら、確認してくれた。本当は手っ取り早く童貞を卒業する力が欲しいと書いた。
こんな恥ずかしい内容を音読する必要なんてないのに。
「なるほど。そうなりますと、相手をコントロールする力などいかがですか?」
「相手をコントロールする力?」
いきなりラノベのような展開になってきた。このじいさんは異世界転生をしたラノベ主人公を救う神的な存在なのか。
冗談だとしてもそんな便利な力がもらえるなら、ありがたい。
だけど、相手をコントロールするだけで童貞を卒業できるのか?
僕がじいさんの提案を疑っていると、画面の向こうで何かの本を捲る音が聞こえる。
画角の外で見えないが、じいさんは何かの本を捲っているようだ。
ペラペラと本を何ページか捲ると、じいさんは何かを見つけたようだ。
「羽賀様、このカードの画像映っていますか?」
「はい。見えています」
じいさんは僕に一枚の画像を共有してきた。
僕のパソコン画面には一匹のカタツムリが描かれているカードが映し出されている。
でも、気味の悪いカタツムリだ。なぜか透明なはずのカタツムリの目玉が緑であった。しかもその目玉の中でが何か芋虫のようなものがうごめているように見える。
気持ち悪い。
「気持ち悪いと思いましたか?」
え? じいさんは僕の心の声が聞こえるのか。僕が想ったことを代弁した。
「このカードに描かれているカタツムリが羽賀様にお渡しする能力を象徴しているものです」
僕に渡す能力?
「能力名は
他人に寄生することで操るみたいなことかな。
「その通りです」
え!? このじいさん。僕の頭の中を読んだのか?
「この
じいさんは能力の説明を中断してにやにやしながら、こっちを見ている。まるで、後はご想像にお任せしますと言いたげだ。
キスの後に繋がるのか!? そう考えると凄い能力だ。
「羽賀様、いかがですか?」
「凄い能力ですが、本当にそんな力があるんですか?」
「疑うのは当然です。人は美味い話には裏があると疑う性です。
生きる抜くための本能です。素直に信じる者は生き残れません」
じいさんは僕を無理矢理信じ込ませようとせず、距離を置き始めた。
大体の宗教や詐欺商法は自分たちの正当性の押し売りをしてくるが、この人は僕の立場になって話している。
これはあなたのことを思っていると錯覚させるための作戦かもしれない。
「しかし、あなたが欲している力はこういう能力じゃないですか?」
「え?」
じいさんは確信に迫ってきた。
確かにこんな簡単に童貞が卒業できる能力があるなら手に入れたい。
しかし、そんな美味い話が本当にあるのか?
僕はじいさんの話を半信半疑で聞いていた。
「簡単に異性との行為をしたいという性欲を叶えるのはこの力しかないのではないかと、ワタシは思います」
じいさんは営業マンのように口調で僕を引き入れようとしている。
ここで簡単に騙されるほど僕もバカじゃない。
「でも、お金掛かりますよね?」
「仰るとおりです……1億くらいですかね」
やっぱり。典型的な詐欺だ。こんな美味い話が存在するわけがないんだ。早く、このビデオ通話を切らないと。
「冗談です。お代は入りません」
え? 僕はじいさんの話を聞いて接続解除のボタンを押す指が止まった。金がかからない。そんなバカな。ほとんど詐欺集団が美味いことを言って高額な料金を請求してくるもの。
「でも……」
「やめましょうか」
「え?」
「羽賀様がこの能力に興味がないようですし、不要なものをお渡しするのはご迷惑ですよね」
じいさんは一気に引き始めた。いや、ここで引いたら僕は後悔する。
今のままじゃ、僕は一生童貞のままだ。
この状況を変えられる力かもしれない。
そのチャンスを手放してはいけない。
「ま、待ってください」
「羽賀様、どうされました?」
「こ、この力をください」
「なんですか? よく聞こえません」
じいさんは嫌らしい言い回しで僕を煽ってくる。
本当は聞こえているくせに。僕はじいさんに踊らされることに腹を立てている。
でも、今この能力の話を無視することは僕にとって大きな損失になる。根拠はないけど、そんな気がして仕方がない。
「僕にこの力をください!」
「畏まりました。契約成立です」
こうして、僕はじいさんから
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