⑧寄生事実(パラサイト)の末路

わたしは寄生事実パラサイトの最後を見届けた。

 業務を終えて天地創造クイーン様の館に戻って来た。


 いや、なんて醜い最後だったのだろう。仕事とは言ってもあんな人のために時間を費やしたと思うと、嫌気が差す。


 もっと嫌なのはこの事実を相互補完クラウド様に報告しないといけないこと。寄生事実パラサイト異能力者サーヴァントである羽賀というクズ人間の情報で相互補完クラウド様のお耳を汚してしまう。


 なんて腹立たしいのだろう。あんな人がどこで野垂れ死のうがわたしには関係ない。


 でも、相互補完クラウド様はありのまま事実を知りたいと、いつも仰っている。


 心苦しいが事実をそのままお伝えしよう。


 わたしは大広間のドアを開けると、相互補完クラウド様はいつもの革製のソファに座って英字新聞を読んでいらっしゃった。


 見慣れた姿とは言ってもなんて凜々しいのだろう。

 このままずっと眺めていたい。


監視体制プライベート・アイ


「は、はい」


 相互補完クラウド様は英字新聞でわたしの姿が見えていないはずなのに。わたしが部屋にいると認識していらっしゃる。


 どうしてなのだろう!? こちらを一切見ることなく、名探偵のようにわたしの名前を口する相互補完クラウド様の行動は、わたしをドキッとさせる。


「どうしたんですか? 立ったままで」


 相互補完クラウド様は英字新聞からお顔出すと、わたしの方に視線を向けた。

あぁ、相互補完クラウド様、いつ見ても凜々しいお顔だ。


 いけない。今は仕事中。わたしは自分に渇を入れて気持ちを切り替えた。


相互補完クラウド様、ご報告です。寄生事実パラサイトが死にました」


「そうですか。彼もダメでしたか」


「はい。詳しい内容は報告書にてご報告致します」


「わかりました。よろしくお願いします」


 相互補完クラウド様に引き継ぎを終えると、わたしは大広間のテーブルの上にあるパソコンを立ち上げて報告書を作成する。


 わたしの報告を聞いた相互補完クラウド様は再び英字新聞を読み始める。

 新聞の裏で彼がどんなことを考えているのか、妄想しながらわたしは報告書作成に取りかかった。


***


 監視体制プライベート・アイ相互補完クラウドへの業務報告を終えて、館の大広間で報告書の作成を開始する。


 監視体制プライベート・アイは作業中に突然タイピングしている手を止める。監視体制プライベート・アイだけではなく、全ての物がネジを巻き忘れたブリキのおもちゃのように止まっている。

 静止状態ストップモーション監視体制プライベート・アイを余所に相互補完クラウドは革製のソファから立ち上がる。


 館の大広間は急に暗くなり、天井からスポットライトを思わせる光の柱が相互補完クラウドを照らす。


「皆さんはロイコクロディウムという名前をご存知ですか? 

 これは寄生虫の名前です。

 見た目は芋虫のような姿をしていますが、彼らは幼虫の集合体です。

 芋虫状の袋の中に約100匹以上の幼虫が潜んで生きています」


 相互補完クラウドは突然ロイコクロディウムという寄生虫の話を語り始める。どういう意図があるか、まだ提示していないが相互補完クラウドは何か狙いがあってこの話をしていると思われる。


「彼らは主にカタツムリに寄生しています。カタツムリに寄生し、そのカタツムリを食べた鳥に寄生。その後、宿主の鳥の糞に卵を仕込む。それを食べたカタツムリに寄生。彼らはこのループの中で生きています」


 相互補完クラウド寄生事実パラサイトのモデルとなっている寄生虫の特徴を事細かく語り始める。


「まさに寄生事実パラサイトはこのロイコクロディウムの生態を模倣した異能力アビリティと言えます。異能力者サーヴァントと目が合った異性は目の前に理想の異性がいると勘違いします。その相手を求めるようにキスをし、そのまま……」


 相互補完クラウド異能力アビリティの詳細を語り始めた口を一端止める。キスの後に訪れる行為があまりにも不適切な内容だと気づいて、語ることを止めた。


 相互補完クラウドは何事もなかったように不適な笑みを浮かべて革製のソファに腰を下ろして足を組んだ。


寄生事実パラサイトは異性に自分の意志を寄生させることで相手をコントロールすることが出来る。そして、別の異性と同じ関係を築けば多くの人間を操れる。

彼はこれを繰り返して異性との行為を楽しんでいました」


 相互補完クラウドは行為を楽しんでいる羽賀を想像をしながら、吐き気を催したようにズボンに入っていたハンカチを取り出す。口から嘔吐物が出ないようにハンカチで覆い隠す。


 しかし、相互補完クラウドは吐き気が納まったのか、何事もなかったように不適な笑みを浮かべる。


「しかし、彼は寄生事実パラサイト禁止事項タブーに触れました。それは現実の自分を忘れること。彼が様々な美男美女の姿になっても所詮は憎いクズ人間きせいちゅう。それなのに彼は自分が太った醜い無職という現実を忘れてしまった。彼が現実と向き合っていれば死ぬことはなかった」


 相互補完クラウドが羽賀を哀れんでいると、目の前に青白く光り輝く蝶が羽ばたいていた。蝶は一瞬で姿を消すと、天から注いだ光の柱が地面を照らす。


 そこには羽化に失敗したであろう昆虫の蛹が転がっていた。

 相互補完クラウドはゆっくりと近づいて蛹を見下ろした。


「彼は未来に羽ばたく蝶ではなく、誰かに寄生しないと生きられない寄生虫ダメにんげんだったということですね」


 相互補完クラウドが羽化に失敗した蛹を見下すと、彼を照らしていた明かりが一気に消える。相互補完クラウドは闇の中へと消えていった。

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