⑦未来に羽ばたく蝶(マユ)
羽賀くんの死後、おばさんは息子の死を受け入れられなかった。
真実が知りたいおばさんは羽賀くんの遺体を死亡解剖に回した。
死亡解剖の結果、羽賀くんは心不全という診断が下された。
でも、羽賀くんは健康体だった。引きこもってから太ってしまったけど、数値などの異常は無いらしい。
おばさんがお医者さんに再度原因究明を求めても原因不明としか答えてもらえなかった。
羽賀くんの死因にわたしとおばさんは納得できないまま、羽賀くんのお葬式は終わった。
羽賀くんの葬儀中、涙が止まらなかった。もう一生分の涙を流した気がする。彼がお骨になったのを見て、わたしはショックのあまり気を失ってしまった。
羽賀くんがいなくなった翌日、わたしは彼の遺影の前にいた。
「羽賀くん。わたし、羽賀くんのことが……好きだった」
わたしは羽賀くんの遺影に向かって想いを伝えた。
返事はもらえないけど、伝えずにはいられなかった。
どうしてもっと早く言えなかったんだろう。
わたしは羽賀くんに想いを伝えられなかった後悔で、また涙が流れた
もう涙なんて流れないと思っていたのに。好きな人に先立たれるのはこんなに辛いのか。
今なら、ロミオを失ったジュリエットの悲しみが理解できる。
こんなに悲しいなら死後の世界でも会いたいと思える。
「羽賀くん、わたしも羽賀くんの所に………」
わたしは死のうと思った。もう羽賀くんのいない世界で生きていける自信がない。死ねば、すぐに羽賀くんに会える。
そう思うと心の中にあった不安が消えた。
羽賀くん、わたしも行くね。
マユ。まだ来ちゃダメだ。
「え?」
羽賀くん!? 羽賀くんの声が聞こえた。わたしが振り返ると誰もいない。
幻聴? 羽賀くんに会いたい想いが強くて幻聴が聞こえるなんて。
わたしもやばい状態になっている。
そうよね。悲しいけど、羽賀くんの分まで幸せに生きないと。
羽賀くんに怒られちゃう。
「羽賀くん。わたし、あなたの分まで生きるよ」
わたしは前に進まないと。自分という繭を破って羽ばたくんだ。
羽賀くんが安心して見てくれるような人間になるために。
「あ、そういえば」
わたしは羽賀くんのお葬式に知らない人がいたことを思い出す。
黒髪で銀縁のメガネをかけた二十代後半くらいの女性。
美人秘書というイメージが頭を過るくらい美人だった。
しかし、わたしには悲しい雰囲気の葬儀場で彼女は異物のように見えた。
お葬式なのに彼女は喪服ではなく、燕尾服を着ていた。お葬式に燕尾服を着てくれるなんて非常識だ。
それに羽賀くんの遺影を蔑むように見ていた気がする。
本当に羽賀くんの知り合いだったのかな?
そう思った一瞬の間に彼女は姿を消していた。
「あの人は誰だったのかな?」
お葬式に現れた謎の女性について考えていると、窓の外に一匹のアゲハ蝶が見えた。
わたしに頑張れとエールを送るように一生懸命に羽ばたいている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます