⑥羽化出来なかった蛹(はが)
大人になってしまったわたしは急に羽賀くんに会いたくなった。
いつでも会おうと思えば会える距離なのに。
羽賀くんが引きこもってしまってから一度も訪れていない。
隣同士という近い距離のはずなのに。羽賀くんが引きこもってから妙に遠く感じていた。
いや、遠くなったんじゃない。わたしが無意識に羽賀くんと距離を取ってしまっていただけだ。羽賀くんが引きこもってしまったという事実を受け入れられず、わたしは
今日は羽賀くんと向き合わないといけない。ここで逃げてしまうと、もう羽賀くんと会えなくなってしまう。妙な胸騒ぎを覚えたわたしは羽賀くんの家を訪ねた。
***
「おばさん、こんにちは」
「マユちゃん、久しぶり!」
おばさんは何も変わっていなかった。
でも、仕事と羽賀くんの面倒を見るのが大変なのか、顔色が良くない
わたしに気を遣わせないように必死に笑顔を作っている。
「お久しぶりです」
「そうね。あの子が高校に行っていたぶりだね」
羽賀くんを引きこもるまでは普通に話が出来ていたのに。
時間が開いてしまったせいで会話が続かない。
玄関でわたし達は腫れ物に触らないようにお互いの出方を覗っていた。
「おばさん」
「何?」
「羽賀くんと会っても良いですか?」
おばさんはわたしに引きこもってしまった息子に会わせることに一瞬の迷いが生まれてしまったように見えた。おばさんはすぐに答えてくれなかった。
「えぇ、マユちゃんが良かったら」
おばさんは喉から言葉を絞り出すように答えてくれた。
わたしは家に招き入れられると、おばさんは羽賀くんの部屋へと案内してくれた。
羽賀くんの家来るのは久しぶりだ。
4年ぶりかな。何も変わってない。
羽賀くんの家がわたしの思い出と変わっていないことに、ほっと一安心した。
階段を上がり終えると、わたしは羽賀くんの部屋前に辿り着いた。この部屋に入るのも久しぶりだ。
「羽賀くん」
わたしが部屋のドアをノックするも返事はない。
もう一度ノックするも羽賀くんは応えてくれない。
「寝ているのかな?」
「この時間には、いつも起きているんだけど」
日を改めようか。そう考えたけど、今日を逃してはいけないという不安感がわたしの中から消えなかった。
「入るわよ!」
おばさんは羽賀くんの了承を得ずにドアを勝手に開けた。
「ほら、マユちゃんが遊びに来たわよ。いつまで寝ているのよ……」
「おばさん、どうしたの?」
羽賀くんはベッドの上で丸くなっていた。まるで蛹のように見えた。
「羽賀くん?」
わたしは羽賀くんに声をかけるも返事はない。
熟睡しているのかと羽賀くんを覗き込んでみると、わたしは驚きのあまり声が出なかった。
羽賀くんが白目を向いていた。慌てて呼吸を確認するも息をしていない。羽賀くんの脈を確認するために右手首を触ってみるが脈もない。
羽賀が死んでいる。その事実を知ったわたしの体はガタガタと震え出す。おばさんは必死に息子の名前を叫んでいた。
羽賀くんの死体は羽化に失敗した蛹のようにわたしの目に映った。
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