⑤羽化した蝶(マユ)

わたしは気づくと、大学の空き教室にいた。

 電気は点いてないけど、目が慣れて教室がよく見え始めた。


 わたしは大人になってしまった。望まない形で蝶野くんと結ばれた。

 想像していた程ロマンもなく、ただ男女が交わり合っただけ。


 わたしの好きなマンガにもそういうシーンはあったけど、ここまで汚らわしくなった気がする。


 わたしは好きな人とそうなりたいと思って今日まで生きてきた。

 だけど、そんな希望は簡単に失った。


 どうして好きでもない蝶野くんを受け入れたの?

 全く分からない。拒否しようと思えば出来たはずなのに。


 彼とキャンパス裏で羽賀くんが好きだということを話してから記憶が無い。気づいたら、ここにいた。そのまま蝶野くんを受け入れて、わたしは大人の階段を上った。


 下腹部に今まで感じたことがない痛みと違和感がある。

 これが彼を受け入れてしまった証拠なのだろう。


 蝶野くん、自分がしてしまったことの重大さを受け入れられなかったみたい。わたしを空き教室に置いて逃げてしまった。


 痛い。わたしは今まで感じたことのない痛みに耐えながら、ゆっくり起き上がった。


「羽賀くん……ごめん」


 わたしは好きでもない人としてしまった。いつか戻ってくる彼を受け入れるために大事に守ってきたものを守れなかった。


 こんなわたしを羽賀くんは軽蔑するかもしれない。


 わたしは逃げるように空き教室を後にした。

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