寄生事実

寄生事実(パラサイト) プロローグ

わたしは今回の監視対象を選ぶため館の大広間にいた。

 業務用のノートパソコンを立ち上げて異能力者サーヴァントのリストが書かれたデータファイルを開く。


 誰にしよう。正直、どの異能力者サーヴァントもろくでもない人間しかいない。

 まぁ、自分の欲望を満たしたくて異能力アビリティを手にした者ばかり。


 少なくても誰かのために異能能力アビリティを手にした者なんて、わたしは知らない。


 いや、一人だけいる。わたしは”その方”の力になりたい。

 そう思って、わたしは監視体制プライベート・アイを手に入れた。

 いけない。業務中に私情を挟んでしまった。集中しないと。わたしは気持ちを切り替えてパソコンの画面と睨めっこを再開する。


 わたしが異能力者サーヴァントのリストを眺めていると、聞きなれた革靴の音が耳に入る。

 大理石の床をコツコツと軽快なリズムで鳴らしている。


 あの方がこちらに向かっている。

 わたしは振り返らなくても誰かすぐにわかった。


監視体制プライベー・アイ


 相互補完クラウド様。本日も美しい声をされている。

 あなたの声はなんてステキなんでしょう。寝る前にスマホに録音したあなたの声をずっと聞いているほどの魅力がある。


 ベットの中でこの声を聞きながら寝ていると、あなたがわたしに耳元で囁いている疑似体験が出来る。わたしの細やかな楽しみの一つでもある。


監視体制プライベート・アイ?」


「はっ! 相互補完クラウド様」


 思わず相互補完クラウド様に枕元で甘い一言を囁いて頂いている妄想をしてしまった。そのせいで相互補完クラウド様を無視してしまうなんて。わたしとしたこと。なんたる失態を。


「大丈夫ですか?」


「はい。申し訳ございません」


「最近、仕事ばかりで申し訳ない。そろそろ羽を伸ばした方が良いでしょう。天地創造クイーンにはワタシが言っておきますから……」


「大丈夫です!」


「しかし……」


「ご心配はいりません。わたしは大丈夫ですから」


「そうですか。でも、無理はしないでくださいね」


 相互補完クラウド様に心配して頂けた。幸せだ。

 それだけで私の心は満たされる。


監視体制プライベート・アイ。次の異能力者サーヴァントは誰ですか?」


 わたしは相互補完クラウド様の質問に答えるため、異能力者サーヴァントのリストに目を向ける。

 


 わたしが目星をつけている異能力者サーヴァントが一人いる。

 生理的に受け付けない異能力アビリティだ。


 この方にしよう。わたしは候補者を見つけると、パソコンの画面に表示する。


 画面には一匹のカタツムリが描かれているカードが映し出されている。

 しかし、そのカタツムリは異形である。目玉が緑に染まり、何かがうごめているようにも見える。


 気持ち悪い。この絵柄もそうだが、この能力自体も異常である。



寄生事実パラサイトです」


「そうですか」


 相互補完クラウド様に今回の異能力者サーヴァントをお伝えした。

 しかし、ご興味がなかったのか相互補完クラウド様はいつものソファに腰を下ろした。いつものように英字新聞に視線を移す。


「別の異能力者サーヴァントにいたしましょうか?」


「いえ、問題ありません。監視体制プライベート・アイ頼みましたよ」


「畏まりました」


 全く虫唾が走る。相互補完クラウド様のご命令でなければ、あんな異能力者サーヴァントなんて無視したいのに。


 相互補完クラウド様の許可も得たので、わたしは寄生事実パラサイトの観察日記が始まる。

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