⑦カッコウの生き様

わたしは他力本願カッコウの結末を相互補完クラウド様に報告に館へ戻ってきた。


 とても悲惨な最期だった。相互補完クラウド様のお耳に入れるのも嫌なくらいに他力本願カッコウの最後は醜かった。


 館の大広間の定位置に相互補完クラウド様は座っていた。いつものように英字新聞を読んでいるお姿はとても凜々しい。


相互補完クラウド様」


 相互補完クラウド様は、わたしがお呼びすると英字新聞を読むのを中断して視線をこちらに向けてくれた。


監視体制プライベート・アイ、どうしました?」


 わたしは相互補完クラウド様に一礼すると、上着のポケットから手帳を取り出して広げた。相互補完クラウド様に他力本願カッコウの最後をご報告しないと。


他力本願カッコウのことですが……」


 わたしの報告を聞く前に相互補完クラウド様は大広間の壁に視線を向ける。

 壁には異能力アビリティをイメージしたタロットカードのようなものが入れられている額縁がかけられている。

 

 約二十枚近くのカードが均一に納められている額縁には不自然にカード一枚分のスペースが空いていた。そこには他力本願カッコウを暗示するカードが入っていた。他力本願カッコウのカードがない事実を確認すると、相互補完クラウド様は全てを察したように笑みを浮かべる。


「なるほど。ダメでしたか」


 相互補完クラウド様は他力本願カッコウの結末を理解すると、すぐに英字新聞へと視線を戻す。


「托卵を見破られてしまったようですね。あの方は他力本願カッコウを使いこなせなかったようですね。報告ありがとうございます。

監視体制プライベート・アイ、このまま他の異能力者サーヴァントの監視をよろしくお願いします。詳しいことは報告書にお願いします」


「畏まりました。では、報告書の作成を開始します」


 わたしは相互補完クラウド様への報告を終えると、大広間のテーブル席に腰を下ろした。業務用のノートパソコンを起動させて報告書の作成を開始する。


***


 監視体制プライベート・アイが報告書を作成している手の動きが急に止まった。

ストップモーションのように全ての物の動きが止まる。

 館の大広間が開演の前の劇場を思わせる程の暗闇に包まれる。


 その中で相互補完クラウドが座っていた皮製の椅子が置いてあった位地に一筋の光が差した。相互補完クラウドはスポットライトを浴びた役者のようであった。


「みなさん、いかがでしたか? 実にあっけない最後だったでしょう。わたしが他力本願カッコウをあの方に託したのは一年前になります。営業成績が悪く、いつクビになっておかしくない。

そんな生活から楽に脱したいと、わたしが運営するサイト天地開闢スキルマーケットに問い合わせがありました」


 相互補完クラウドは子供に昔話の聞かせるような口調で鷹野に他力本願を授けた経緯を語り出す。


「その陳腐な文面を見て、ワタシはこの方にカッコウがぴったりだと思いました。

 カッコウという鳥は進化の過程で子供を育てる能力を失い、他の鳥の巣に卵を産み落として育てさせる托卵をしています。

 鳥の姿形が違っていても一度見たものを子供と誤認してしまう習性を逆手に取ったこの方法」


 相互補完クラウドは紅い辞書くらいの厚さがある本を捲りながら、托卵について語り続ける。


「しかし、この托卵も確実に成功するとは言われていません。

他の鳥にカッコウの卵を見破られた瞬間にカッコウの子供は生き残ることは出来ません。このカッコウの禁止事項タブーは誰かに異能力者サーヴァントであることを見破られてはいけない。見破られた瞬間に死ぬという制約があります」


 相互補完クラウド他力本願カッコウ禁止事項タブーを語り終わると、紅い辞書くらい厚い本を閉じた。


「あの方は上手く托卵が出来たつもりですが、身近な人間に托卵を見破られた。

 やはり、生き残るためには努力が必要なのでしょう。

しかし、カッコウのような彼は生き残る努力を忘れていました。そんな彼に他力本願カッコウを使用する以外に生き残る方法があったのでしょうか?」


 相互補完クラウドは何かを思い出しながら、暗い天井を見上げた。

 まるで、天国へ旅立っていく鷹野の姿を目で追っているようであった。


「おそらくなかったでしょう。他力本願カッコウを使わなければ、彼が死の間際までの良い人生を体験することは出来なかった。

彼はもう少しで巣立てるという時に見破られた哀れな敗北者カッコウだったのです。さて、次はどんな異能力者サーヴァント物語じんせいが見られるのでしょうか」


 鷹野を蔑む表情を浮かべながら、相互補完クラウドは不適な笑みを浮かべながら、光とも姿を消した。

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