第10話

    旅館 廊下


 十五分ほど経った。部屋の中、まだ話し合いが続いている。 

そっと抜け出し、外の廊下に立っている寺田漁労長と村長、寺田の部下の電球、、三人の居るところに部下の“鴎”がメモ用紙を握ってやってくる。

「新聞社に電話で聞きましたが、記事を書いた担当者が、お盆で今、おらん、言うんです、東京の省庁も、今は休みで、、」

寺田漁労長、

「、、そうじゃろうな、、お盆休みに霞が関がわざわざこんな所に来て、仕事なんか、すりゃあせん、、」

地方自治体に居る者たちは中央省庁からやって来た官僚や役人たちの事を、総じて、“霞が関”と言う。 

「あとから仲間が来るのを待っとるんじゃねえですかのぉ?」

寺田の部下、電球が言う、

「女将が言うには、この旅館で、今、一人客はあいつだけです。」

寺田

「今のうちに当たりを付けて、信用させた後に、仲間が島にやってくるかもしれん。 うちの島には電話があるから本土の警察と確認が取れますけど、電話のねえ小さな島だと騙されてるやもしれん。港は別の者に見張らせて、怪しい奴が旅館に来たら伝えろ。」

村長

「財政投融資、言うんは、郵政省からの借金ですからのぉ、低利ですが利子が伴いますけえど保証金をだせ言うんはおかしい、」

「うん、私もそう思う。」

「漁労長が前に言われたとおりになりましたな。詐欺じゃと、、」

頷く寺田漁労長にそっと呟く部下、電球。

「島から放り出すんでしたら、わしらが、今すぐにでも、、」

「お盆が終わったらわかる。静かに見張っとけ。駐在には私から知らせておくから。じゃあ村長、騙されたフリというのもなんじゃけど、よろしく頼みます、私は駐在のところに行きますんで。おい、行くぞ。」 

「へい。」「へい。」

階段を下りていく漁労長と部下二人。 

村長、説明の続きを聞きに、今居た部屋に戻っていく。詐欺の話は佳境に入り、自分の制作した偽書類を見ながらしゃべる、

「それではお教えいたします、一軒当たりの特別契約の保証金は、、」


   港近くの広場


 大きな木槌で、地面に木の杭を打ちこんでいる島の若い男たち、銀幕の代わりに、昔の船で使っていた大きな帆を張ろうとしている。 文化船から降ろされてきた映写機もリヤカーで運ばれてくる。その電線を引いてくる男たち、、筵や椅子をリアカーで運んでいる男たち。

「台風は九州に上陸せんかったけえ、予定通り、映画、観られますわ。よかったですのぉ。」

「ほんまに。」


  海岸から港へ続く道


 旅館に帰ろうとする若い海水浴客三人に寺田敏郎が漁船の上から声をかける。

「すいませーん、そこのかわいいお嬢さんたち~、ちょっと相談があるんだけども~、、」男に柔らかい声をかけられて、笑いながらそろって振り向く、

「♪なぁあーにーぃ?」

振り向いた女性たちが個性たっぷりある顔で、笑いをこらえながら、

「あのねえ、、船に一時間ほど乗るだけでお金を稼げる話があるんじゃけどのぉ、、」「!」「?」目を見張る三人、、。


   仲原の家


 押し入れの行李の中をごそごそ物色している仲原、「いてっ」頭をぶつけながら、鯉のぼりを手に持って出てくると、家に帰ってきた自分の母に見られる、

「なにゅうしょんで、あんた、そんなもの、今ひっぱりだして、、」

「ああ、あの、寺田が、ちょっと今度、祭りで使う、言うてな、、」

「祭りなんかで、そんなもの使うまあ?、ちょと、どこもっていくんで!」

母親の話を無視し、鯉のぼりをふたつ抱えて、プィっと出ていく仲原。


   アメリカ海軍 調査船  


 同じタイプの米艦船と比べ、艦橋廻りのレーダー群とアンテナ線が異様に目立つ船、甲板の上で水兵二人が海を見ながら話をしている。

“Where’s captain?” 

(訳) 『艦長は?』

手で酒を飲むしぐさをする同僚、

“He’s drinking again! He’ be a good commander if he didn’t drink.”

(訳)『酒を飲んでいる、あの人、酒を飲まなきゃいい軍人なんだがなあ、』 


岡山香川の海上警察関係には、米海軍管轄の海洋調査船が十日間停泊し瀬戸内の海中海底の調査をしている、との連絡があった。しかし、甲板には大きなカバーをかけた設備があり、それが何かは海上近くから観察してもわからない。 船の甲板では、常時五,六人の見張りの水兵がM=1カービン銃を肩から掛け、歩いていたり双眼鏡で海上を眺めていたりしている。 

艦長室では、五十歳代半ばの体の大きな艦長がバーボンウイスキーの瓶から漏斗を使って金属製のちいさな水筒に移している、水筒がいっぱいになった後、瓶の残りのウイスキーを金属カップに入れ、クッと一気に飲む。 食虫植物のハエとり草の小さな植木とハサミがテーブルの上に見え、米軍のCレーション(戦闘用携帯食料)の中に入っているビーフジャーキーを細かく切って水に浸したものを植木の土の上に置いてあり、その匂いでハエが来る仕掛けだ。ハエが来なければ、それを細かく切ってハエとり草の口にいれてやるため、小さなピンセットも置いてある。 

後ろのテーブルにはSPレコード蓄音機、その回転盤に置いたままのレコードに針を乗せる艦長、、戦時中のアメリカ軍歌”真珠湾の歌”の音楽が流れる、壁に備え付けのマイクのコードを、マイクごと近くに引っ張り、蓄音機のスピーカー近くに寄せる、と艦内外のスピーカーからいったん大きな雑音が響いた後、音楽が流れていく、、水兵にはいつもの騒音である。


「♪History - in every century,  

records an act that lives forevermore.

We'll recall - as in to line we fall,

t  he thing that happened on Hawaii's shore.


♪Let's REMEMBER PEARL HARBOR -

As we go to meet the foe -

Let's REMEMBER PEARL HARBOR

As we did the Alamo.


♪We will always remember -

how they died for liberty,

Let's REMEMBER PEARL HARBOR

and go on to victory.」


訳 『♪いつの世紀にも歴史は永劫に残る事柄を記録する、

我々は一致して思い起こす、ハワイの海岸で起きたことを。

さあ真珠湾を忘れるな、仇敵に見えんと征く時のように

さあ真珠湾を忘れるな、かつてアラモをそうしたように、

われらはいつも思い出すだろう、自由に殉じた者の最後を、

さあ真珠湾を忘れるな、そして勝利へ 進もうぞ!“』


甲板の水兵たち、またこの曲が始まった、という嫌な顔をし、耳を塞ぎ、見張りをやめて船の中に入る。甲板には誰も居なくなった。 

その船の近くの海上、不気味な赤い目が、いくつも見えている。


  旅館  曲師と落語家、部屋の中


 手鏡を見ながら桃花が化粧をしているそのすぐ後ろで、見られないように小さな黒い手帳になにやら書いている笑ん馬。

桃花

「あのね、お客さんの財布が旅館の部屋の中で無くなったんじゃって。」

「ふーぅ、、ん、」

と、じぶんの持ち物を確かめる笑ん馬、、異常はない。

「いまさっき仲居さんから連絡あって、貴重品があったら下の帳場で預かっとくって。」

「ほお、」

「どっか行くんじゃったら、私の巾着、貸すけど?」

「うん、、じゃ、ちょっと行ってくる、飯は向こうで食べて来るから下で一人で何か食べといてくれ、で、帰りは明日になると思うから、、先に寝といてくれりゃあええけえのぉ、、ありゃ、岡山弁が、うつったかのぉ、。」

「ほんまじゃ、うつっとるうつっとる、ふふ。」

苦笑する、桃花。


   旅館の階段、桃花から借りた巾着を手に下げ階段を降りていく笑ん馬、降りる途中、「あいっ」、うっかり手すりの角に手を当てて巾着を階段に落とす、小さくゴトッと重い音がする、中を見る、小型拳銃を入れたホルスターがちらりと見えた、階段の上と下を見る、誰も居ない、、巾着の中を見て安心する顔をし、降りていく笑ん馬。 食堂に降り、帳場に挨拶をしながらその上にある掛け時計を見る。自分の草履を探し、履いている途中に、下駄箱の横に貼ってある笠岡の港で配っていた「男女二人組の強盗」のチラシを見つける、きちんと読んだあと急いで港に出て行く笑ん馬。  

旅館二階、笑馬の部屋で一人きりの桃花、窓近くから笑ん馬が港にそそくさと歩いて行くのを見送りながら呟く、

「♪~遠くで見るほど、いい男、って言うけどね、、。」

まだすこし明るさが残る空、蝙蝠が数匹、パラッ、パラパラッ、、と飛んでいるのを見つつ、思い出した端唄を謡う。


「♪こうもりがぁ、、出てぇ来た浜の、夕涼み~、川風さっと吹くぅぅ、牡丹、、

、荒い、仕掛けのぉ、、色男ぅぅ、♪いなさぬぅ、いなさぬぅ、いつまでも浪花の水に映す姿えぇ、」

しばらくすると外から自分の本名を呼ぶ声がする、

「きょうこちゃーん!」「守屋さん~。」「きょうこちゃん、来たよー!。」

島の同級生が旅館の下にやってきて叫んでいるのだ、窓の下をみる、懐かしい顔の、名前を思い出そうとする篠山桃花、、えっと、あれ?誰だったっけ?

「あー!久しぶりぃ!ここ、上がってくりゃあええが!」

「そこの部屋にいー?」「今一人じゃけえ、、ええよー!二階の桔梗の間じゃー。」

上がってくるまでに名前は思い出すじゃろ、と思っている。

そそくさと笑ん馬の、少ない荷物を押し入れに隠そうとする篠山桃花。


   港の広場


 古船に使われていたマストを地面に穴を掘って二本立てられ、倒れないように四方からしっかりとロープで引っ張り支え、その間に、大きな帆船の帆を張った、急ごしらえのスクリーンが出来上がっている。 そこから離れた距離に置いてある二台の映写機、両方のレンズから光だけをスクリーンに当てているのが見えている。村上機関士と澤村司書、それを手伝う島の若い男が二人。帆に映る、二つの映写光のフレームが、フィルムチェンジの時にきちんと合致するように調整している。

「もうちょい上、、もうちょい、もうちょい、ハイ、重なった。じゃあフィルム廻すぞ。」

先にやってきて一番前のいい場所の御座の上、胡坐をかいて陣取る島の子供たち、

「あーなんか映った!」

「まだじゃ」

「あ、また映った!」

「光だけじゃ」

「数字が映った!」

開始の秒読み数字がスクリーンに映り、それを読んで合唱しだす子供たち、

「ごお、よん、さん!、にい!、いち!」

「あー、また消えたぁー」

物珍しい映写機の近くにも子供が集まっている。近くでは詐欺師野口が、子供に外国製のガムをにこにこしながら一枚ずつ配っている。もらって喜んで食べている子供、、その親たちもあとからやってきて詐欺師に挨拶している。島の大人たちに、ええ人じゃ、と思わせている野口。その野口の様子を離れたところから気づかれないよう見張っている寺田の部下“鈎”だが、後ろの方にやってきた別の二人の動向も気にかかっている、寺田漁労長の息子、敏郎とその連れ、仲原だ。


  臼石島の港 貨物船の埠頭


 今、着いたばかりの小型貨物船の甲板の上、寺田の部下“電球”と漁師たちが釘抜きで大きな木箱のふたを開けている。普通のお寺のそれよりも一回り小さい、大人の腰の高さくらいの新しい梵鐘が見える。 埠頭の上で見ている藤原尼と村長、懐中電灯でそれを照らしながらしゃべっている。村長「はぁー、やっと、順番が回ってきましたなあ、戦前の金属回収の時に前の鐘を寺から港までの坂を、ぎょうさんの男たちで担いで運んだのを思い出します、、二十年ぶりですかなあ、ナンマンダブ、マンマンダブ、」 

藤原尼、男たちに叫ぶ。

「今日はもう遅いですから、引き上げて運ぶのは明日でよろしゅうございますよ。」船の男たち

「そうですかあ、、トラックが来るいうとったけど、まだ来んからあとは明日にしとこ。」

「尼さん、いっぺん突いて、鳴らしてみたらどうじゃろうか?」

「そうですなあ。」

埠頭から舟に乗り込む藤原尼。貨物船に据え付けている小さなクレーンで鐘を吊り下げる漁師、最初の経を唱え、付属されていた撞木を二人の漁師に持ってもらい藤原尼も手を添えて、漁師の掛け声、「っせえので、」鐘を撞く、


    ♪ゴォォォォオオ~~ン


笑顔を見せる村長と島の男たち、「いやあ、久しぶりですなあ、鐘の音。わしら子供の頃には、よお聴いてましたわ、、」村長「舟幽霊も久しぶりに聴く音でしょうな、逃げ出しますかな?」 

尼、笑。「ははっ。」いったん箱の中にそっと戻される梵鐘、、

海上、その様子を観ていた舟幽霊、、その赤い目はだんだんと細くなり、水の中に消えていった。


   映画上映の港の広場  


 島民が、一人一人、自分の家の椅子や座布団を持って集まってきた。椅子を持ってない人は、手に団扇。 

「お~、晩飯、済んだんか」

「子供、連れてきとるんけー」

「嫁さん来んのけー」

「めえ(前)のほうにおらぁ」

「もうそろそろかのー」

「島で活動、見るん久しぶりじゃのー」

「そうじゃのー」

「怪獣映画じゃあ言うてたけど、ゴジラなんか?」

「違うで、今日のは空飛ぶ怪獣じゃあ、ラドンいうんじゃ」

「おめえ見たん?」

「今年の正月、福山で見た。」

「おもしろかったけ?」

「カラー映画じゃったけえのぉ、ぼっけえ迫力じゃったわ。」

そういう声の中、詐欺師野口が小さな鞄を大事そうに持って真ん中付近のよく見えそうな席に早くから座っている。次々とやってくる廻りの島民に気前よく挨拶する野口イサオ。

「こんばんは、暑うございますなあ。こんばんは、お暑いですなあ。」

「そうですなあ」

「ちょっと風が吹いてくれりゃあのぉ」

「そうですなあ」

「あんまり強ええ風が吹くと、あの帆が揺れてあぶねえですけえ、」

「そういやあそうじゃ、」

他の島からも二百人は集まったかの広場、後ろから澤村司書、精一杯の大きな声! 「そろそろ上映いたしますので―」

村長の声も聞こえる

「皆静かに!静かに!始まるでぇ!」

懐中電灯で映写機を照らし、スイッチを入れる澤村司書。フィルムの廻る映写機の音に続いて、スクリーンが明るくなる、、拍手の音と共に東宝の大きなマークがカラーで映り、映画「ラドン」が始まる。東宝が、特撮シーンだけに当時の三億円分の資金を使って製作した怪獣映画である。港からすこし離れた海上、赤い目が数十人分、浮かんだり沈んだりして見えている、島の連中は映画に注目して、誰も気が付いていない、、臼石島近くの舟幽霊たちも、夜、大きな音と光を放つ映画上映に、興味があって集まったのかもしれない、、


   旅館食堂 宵の口 


 板前見習いの柴田や仲居、他手伝いの女性も映画を観に行き、カウンターの中は誰も居ない。 外には笠岡の港から来た屋台が幾つか。かき氷機の回す音、イカ焼きの醤油の香り、綿菓子機からは焼けたグラニュー糖の香ばしい香りがしてきたり。百目鬼と寺田漁労長、カウンターに座って、酢橘を絞った日本酒を飲んでいる。少し離れて寺田の部下、電球、が映画の灯りが反射して明るくなったり暗くなったりしている観客たちの席を見つめている。

寺田漁労長、今日の映画会に、天尾たちが来るという話を百目鬼から聴いていたので、今日はいつもと違って、夏に合う露芝模様の着物、帯には年代物のトンボ玉の帯留めをつけている。いつも首にかけている小型双眼鏡を取って映画上映が始まり、映画のセリフが少し聴こえる外をうかがいながら百目鬼に尋ねる寺田。

「あ、百目鬼さん、映画は手伝わなくて、よろしいの?」笑顔で答える百目鬼、「ええ、うちの村上と河村の仕事です、あと、島の人たちが手伝いしてくれるそうで、ありがとうございます。明日からは、私も部下も夏休みを取ります。船のほうは閉めますが、学校の講堂のは島民の人が係りをしてくれるそうなので、午前中だけ開けて、すいません、もう数日ここにお世話に、、。」

「そうですか、どうぞ、ゆっくりしていってください。ああ、今日のお昼、文化船の中も覗かせてもらったわ、ほんとに図書館ねえ。あの船には何冊くらい置いていらっしゃるの?」

「今回は三千冊です、もっと多いときもあります。それと映画フィルムをいくつか。」懐かしくなって自分の若いころのことを語りだす寺田漁労長。

「あれだけの本を見ていると、東京の女子大に通っていたとき、海軍の将校さんと付き合っていた頃のことを思い出したの。懐かしいわ、付き合っていた人、映画や本が好きでねえ、、戦前の映画館は男と女と席が別けられていたので、つき合えなかったけど、町の図書館や神田の古書店で待ち合わせをしたり、、戦争が始まって、お互い手紙で連絡は取っていたけど、十九年の夏から返事が来なくなって、わたしももうこっちに帰っていて。戦争が終わってすぐに、天尾って人が軍の払い下げの小型船や艀(はしけ)を何隻か使って、笠岡で海運業をやりだした言うのは、誰かから聞いて、知っていた、、ある仕事のことでうちの島に挨拶に来た時、 今言った、私が東京で付き合っていた人じゃった、お互いびっくりしたの。でも、昔と名前を変えていたわ、、どうしてここに?と、尋ねても何もしゃべりゃあせん、、後で、後でここに来た理由が二つあるってわかって、私が、ここに居るのを知っていて来たんじゃないってことも、、わかって、、。付き合っていた頃は、豪放磊落で、気風(きっぷ)も良くて面白い、ええ軍人じゃったけど、戦争終わって会うたら、なんか、人が変わっとった。まあ、あの戦争でお互い生き延びたということがわかったことだけはよかったけど、たぶん色々嫌な経験したんでしょうね、戦争は人の心を錆びさすわ、、」酒杯に残った酒を勢いよく飲み干す寺田、

「ぷぅ~っ、、。けど、さすがに、、頭のいい人やったから、大阪や東京の復興に、早くから、この島から建設資材の石を沢山運んで成功して、、島の学校や、旅館を買い取って綺麗にしたり、、尼寺を再建、ここの島まで電話を敷いてくれたり、この旅館の板前さんも、あの人が連れてきたわ、、いい腕していて、、一番感心したのは、この先の飛島に大きな家を立てて、戦争孤児を育てたことだったわ、あれから十年は経ったから、もう立派な立派に育って、巣立った子たちもいて、うん、そういうところは、、あの人らしいと思ったし、、そうか、、もしかしたら、百目鬼さんの文化船?あの図書館の船を、こちらでも始めたのは、天尾さんかもと、思うたんじゃけど、、。」

「ええ、そうなのです、岡山県では、学校がある離島は、広島ほど、たくさん無いから、いうことで見送られていましたが、それが急に決まり、その時にはもう船が出来て、用意されていまして、、私は何の説明も聞かされないままでして。」「あ、そう、その船は、もしかしたら、天尾さんが作ったのかも、、自分の造船所で、、」「そのへんはよくわかりませんが、、」

寺田漁労長、しゃべっている途中、何度も双眼鏡で外の様子を見ている。

「来んなあ、、天尾さん、、、」

漁労長、その首の双眼鏡を首から外して百目鬼に見せる。 何年も使いこんでいるので、握りの部分の塗装がすり減り、真鍮の黄色の地肌が見えている部分もある、

「東京で付き合っていた頃、急にあの人、私のいる学生寮にやってきて、誕生日の贈り物、って、私を外に連れ出して、なにくれるのかしら、って、箱、開けてみたら、これよ、、、はっ、、若い女性へのプレゼントによ?こんな、重たい双眼鏡、英国製じゃあ、いうとったけど、女には、小さな花束でいいの、んん、、花一輪でいいのに、、。」

心の中に、、長くしまいこんで、今まで誰にもしゃべったことのない自分の過去を、初めて語る寺田であった。酔っぱらっていても外からやってきた百目鬼になら秘密を喋っても大丈夫と思ったようである、、。

 

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