第7話
駐在所
秋山巡査長を文化船に案内する村上機関士、会話しながら港を歩く。
「この港は立派な造りですなぁ、」
「ああ、島で採れた良質な石で護岸を作ったからな、岡山の島の中では、ここが一番大きな港だ。古くは江戸の昔から風待ち潮待ちの港場でもあったし、大型船が停泊できる深さもある。。そして石も運んで行った」
「しかし、これだけの良港が、どうして我が帝国海軍には使われなかったのです?」「神戸から江田島までは、船だと半日で行ける距離だし、昔から一般の家が密集している港だったからだろう。」
と、秋山巡査長、幾つか停泊している漁船の向こうに文化船を見つける、
「あの船か、、」
村上機関士「そうです。」
「文化船、というのは、海に浮かぶ図書館なのか。」
「去年に広島沖の島々を巡っておりました。この夏からは、こちらも巡ることになりまして。」
「そりゃ嬉しいことだ。私も何か本を借りてみようか、、あ、そうだ、」
港の端、煉瓦造りの二階建ての建物にやってくる。建物の脇にかなり長い柱が建ててあり、その柱の先に、小さな木の屋根が付いたスピーカーが二つ付いている。
その建物の入り口の前で佇んで秋山が村上に言う、
「この港でわからんことがあったら、ここにいる爺さんに聞いたらいいよ、爺さん、ゲン爺さーん、、おらんのかのぉ?」
村上が建物を眺める、
「こんな田舎で、、けっこう年代物の煉瓦造りですなあ、」
誰も居ないようだが、人が住んでいることは見ればわかる。
裏を覗くと竹を割った破片の入った麻袋と洗濯紐に吊りさげられた底のない柄杓がたくさん見える。
「この港は、明治になって、神戸に行く外国貨物船が寄港していた時期があったそうだ、しかし、外国人は、島に揚げてもすぐには島民と接触させなかった。ここに入れて、外に出さずに見張っていたそうだ。」
「ああ、伝染病除け、、」
「うん、国際港の検疫所みたいなもんだな。それより昔のことは、わしは、よくわからん。島の歴史は学校の校長とゲン爺が詳しい。」
文化船の甲板に上がったとたん、甲板両脇の何かを取り外したような長い凹みと、前甲板に大きな丸い円形の、表面が何かに擦れてすり減った金属を見つける秋山巡査長。
「機銃の台座跡と、そこの長い凹みは、、こ、こりゃあ魚雷艇か?」
「そうです 沿岸警備艇を戦争開始後に、急いで高速魚雷艇に改装した船です。船体は普通ですが、エンジンがちょっとわけありで。」
「エンジンが、、なんだ?」
「どうぞ、船の後ろへ。」
文化船の後甲板の、周りが硬質ゴムで覆われたハッチを開ける、とエンジンが見える。
中の一部分を指さす村上機関士、油と煤の混じりあって汚れたエンジン表面にうっすらとベンツのマークが見える。
「ドイツ海軍の魚雷艇に載せられていた、ダイムラーベンツのエンジンですよ。」「ああ、思い出した! あれか、戦時中に潜水艦で日本に送った見本の、オレは書類だけしか見ていないが、その時のが、これか、」
「奇跡的です。船の中の大量の本はかなり重いですが、以前は重い魚雷を二本積んでの高速船ですから、そこいらの船の速さには、まだまだ負けません。」
硬質ゴムで周りを覆ったハッチも触る秋山。
「これで海水がエンジンルームに入って来ないようにしているな、しかし、あれから二十年、まだ朽ちていない。」
「そこは日本製です、ゴムは南方では豊富に採れましたから、それをドイツは欲しがっていました。」
「ああ、日本の潜水艦でゴムをドイツに送る命令書を大本営に打電したのも憶えとる。わしら軍人はすべて廃業したが、このエンジンは残ったか、虎は死して皮を残したか、、しかしなあ、、魚雷艇に橙(だいだい)色ってのは、いやはや、、。」
「最近は橙色と言わずオレンジ色というのですよ。」
エンジンルームから離れ、ベンチに座って、しみじみと語る二人。
「なあ、話は変わるのだが、わしはドイツにおって知らんかったが、日本陸軍が潜水艦を作っていたってことは本当か?」
村上「ええ、本当です。太平洋の島にとり残されていた陸軍部隊のために、物資を送ろうと建造した潜水輸送艇が三十数隻あったとか。」
「そのときに海軍は、協力したのか?」
「はあ、協力しようとしたのですが、陸軍は自分たちで独自に開発する!と言い、民間のボイラー会社の技術を使って、造っていったそうです。」
「ボ、ボイラー?へえ?、、で、そ、そんな潜水艦がきちんと就航したのか?」「いやあ、どうなんでしょう、造ってどこかの島まで物資を運んだと言う話は聞いたことがあるんですが、秘密裏の行動は、私も詳しいことはわかりかねます。海軍もそれを洋上で見つけたときには、どこの国の潜水艦かわからずに攻撃しようとしたそうで、、」
「無茶苦茶なことしていたんだなあ、、」
「まあ、それよりも、我々海軍も色々、無茶をしました、」
「そうだな、、」
まだ戦争が終わって十二年、、海軍当時の話は尽きないが、良い思い出はお互いあまり無いことがわかり、しんみりした顔でしばらく黙り込む。
「、、なあ、村上君、、わしらの居た海軍の事や、この魚雷艇などは、もう忘れ去られていく運命なのだろうか?」
「ええ、、どうなんでしょう、、」
「君は、なにかというとどうなんでしょうがだな、、ああ、言っておくが、お盆はこの船の中で寝んほうがいい。」
「この島に舟幽霊がやってくるのですか?」
「ああ。昔はこの島の寺の鐘の音を怖がり、島には来んかったそうじゃが、戦争の金属供出で鐘が無くなってから、お盆にうちの島にもやってくるようになってなあ。」
「、本当ですか?」
「わしらには見えんけど、なにかが海上をやってきている感じはせんことも無い。」「その舟幽霊がなにか、悪さをすると?」
「明治の日清戦争が始まる前、日本海軍が注文してフランスで建造されたばかりの巡洋艦「畝傍」が日本に着く前に、行方不明になった事件は、知ってとるか?」
「ああ、え、ええ、たしか、シンガポール経由で日本に来る途中にどこかで沈没したとか、」
「乗組員九十人もろとも、消えてしまったのだが、後になって、その船に乗っていた二人の水兵が瀬戸内で救助されてな、、実は、舟幽霊に襲われたのでは、という噂が流れたそうだ、、。」
目をぎょろっとさせる村上機関士
「はあ?ほ、本当ですか?」
「ここに着任した時に、ゲン爺さんからも聞いた話だ、生き残った水兵によると、水兵たちの体に乗り移って、勝手に船を動かそうとしたらしい、だから、海軍では夏の夜、特にお盆は、この辺を通らんことにしたそうだ。武器を積んどる船を欲しがっているというのは、元は侍だからな、わからんこともない。もしかしたら、まだ海底に行方不明になった巡洋艦は舟幽霊が乗っておるかもしれんのぉ、、」
「う、うちの文化船は襲われないですかね?」
「うん、やってきて、様子を観るかもしれんが、積んでいるのは本だけだから大丈夫だろう、、まあ、読書が好きな侍も居るかもしれんがな、」
冗談なのか本当なのか、良くわからない村上である。
と、子供たちが埠頭を走ってくる音がしてきた、、
「すいませんーー、本を見せてくださーい~! 」
揃ってしゃべる子供たち、
「船に上がっても、い、い、で、す、か~?」
「おお!上がれ上がれー」
「駐在さんこんにちは!」「はい。こんにちは。」「いつも暑いですね!」
「はい、暑いですね。ウハハハ!」
文化船の甲板で笑い声。
旅館食堂
百目鬼と保利村長、テーブルに座って、世間話をしながら二人、冷やし飴を飲んでいる。その近くの別の席で四人の漁師たちがわいわいとしゃべっている、
百目鬼
「新生姜の味が良く効いてますな。」
保利村長
「おいしいですのお。」
「大阪周辺では、夏場、冷やし飴をよくみかけますから、ここの板前さんはそっちのほうで修業したのでしょうかね?」
「ほぉ、そういうこともわかりますかぁ、百目鬼さんは探偵さんもやりなさるか、、」
「いや、そんなことは。」「ハハハ。」
と、旅館玄関にかけてある暖簾が、外から三人の男の手で捲られて、一人の和服の婦人が入ってきた。
この島の港の管理と、臼石島と周りの島の漁師を束ねている漁労長、寺田陽子だ。黒い紗の羽織に夏の着物を着た、品の良い四十代そこそこの美人の女性である。 胸元には、海の女性らしくそれがトレードマークの様に、首から革で出来たカバー付の小型双眼鏡が吊り下げられている。
中に入ってきただけでテーブルに座っていた漁師たちの酔っぱらった顔が、一斉にビシッっと緊張した顔に変わり、席を立って漁労長に頭を下げて挨拶する。
「漁労長、おかえりやす。」「寺田さん、おかえりやす。」「おかえりやす。」「おかえりやす。」
寺田の力量で、どれくらいの統率が出来ているかが良くわかる光景である。漁師たちを横目で見、頭をちょいと動かして挨拶した寺田漁労長に続き、暖簾を持っていた寺田家と書かれた半被と着物を着た部下たち三人も後から中に入ってきて頭をゆっくりと左右に動かし、中を窺う。それを観た百目鬼たちも一緒に立とうとするが、漁労長、、
「あぁ、客人は、そのままで、、」
漁労長、百目鬼に近づき深々と頭を下げ、笑顔であいさつする。今までの顔と違い、すばらしい笑顔である。
「はじめまして、この島で漁労長をしております、寺田陽子、と、もうします。このたびは臼石島へようこそおいでくださいました。」
深々と頭を下げる百目鬼、
「はじめまして。移動文化船『ひまわり』の館長をしております、百目鬼弘一と申します。このたび、この臼石島に寄港することになりまして、お盆明けまで、お世話になります。」
保利村長、館長に小声で説明する。
「漁労長いうんは、昔でいうところの、漁師を束ねる網元さんじゃ、ここいらの海で寺田の女網元言うたぁ、知らんもんはおらん。 昨日までほかの県の魚市場の視察に行っとって、今、帰ってきたところじゃ。」
寺田漁労長
「明日にでも船にお伺いさせて船の図書を拝見させていただきます。失礼します、村長、ちょっと、、話が、」
村長、何の話か、わかっている顔でうなずき、二人だけ旅館奥に消えた。寺田漁労長の部下たちは玄関の内外で立ったまま、待っている。
この物語の後半に出てくる三人の部下、いや、寺田陽子の用心棒、、を紹介しよう、、背丈は違うが三人とも日焼けし、鼻が低く、ぎょろ目、ほお骨の突き出た、個性的な顔の持ち主である。三人が一人だけで歩いていても、女子供はまず避ける顔だ。 島の誰も、この三人の笑った顔は見たことが無い。戦前の脱走兵では?という噂もあったが寺田陽子がその男たちをどこから連れてきたのかは誰も知らない。
一人のあだ名は”鈎(かぎ)”。魚市場で大きな魚や氷塊をひっかけて運ぶ時の先に鈎の付いた短い棒状の道具を、帯の後ろにいつも二本、交差させて刺している。
もう一人の部下のあだ名は”電球(でんたま)”。なぜかいつも港の街灯の電球替え用に使う、先に特殊な金具の付いた、長い細い棒を持っている。
遠目で見ると長い錫杖をもっているように見える。
もう一人の部下のあだ名は”鴎(かもめ)”。夜の漁では夜目が島の漁師の中で人一倍利き、島の縄張り内の潮目や、海の底の高低差まで知っている。
先の臼石島へ文化船を誘導した漁船の水先案内人はこの男であり、若い漁師たちの漁の指南役ででもある。
漁労長がやってきたので食堂の勘定を済ませ、そそくさと外に出ていった漁師たち。 仲居が出てきて片付けている食堂内の百目鬼、カウンターの向こうに居る板前大河内に挨拶する。
「冷やし飴、おいしかったです。ご馳走様です。」
「いいえ、どうも。昨日は酢橘酒の飲み方、ありがとうございます。」
と言いながら大河内、暖簾の隙間越しに玄関の外を歩いている男に目をやる、、旅館の表から裏の勝手口のほうに歩いていくのは、この島方程遠い孤島、飛島に住んでいる天尾である。ひとり歩いていくその先、東京から来た落語家笑ん馬が居る。
旅館裏手 勝手口 近く
火のついた煙草を指の間に挟んで、海風に当たって旅館の日蔭で涼んでいる三遊亭笑ん馬、落語『饅頭怖い』を小声でしゃべっている。
「なにが怖いって?ええ?饅頭、饅頭?ってっと、あの中に、あんこが入ってる、あれ?あの甘い、やつかい?えー?ほー、変わってるねえ、ええ?じゃあ、栗饅頭もかい?美味しいよ、白あんで、、もうやめてください、、ああ怖い!、、薄皮まんじゅうとかは?薄くて餡子が透けて見えているのが怖い、塩饅頭は?、甘いのか辛いのかわかんないから怖い、そば饅頭は、そばに寄るのも怖い、、なんだいそりゃあ、おかしいぞ、あいつたった、た、食べてる、怖い怖いと言いながら、むしゃむしゃ食ってるじゃねえか、どういうわけだこりゃ?」
身体と首を左右に動かしながらきちんと本寸法(ほんすんぽう)の落語を稽古している。本寸法とは、古典を古典通りに、時代が変わって言葉の意味が古くなっても直さず変化させずに語ることを言う。首を左右に動かすのは登場人物を換えてしゃべるときに、上手と下手も変えるのである。
すなわち、大家と店子、夫と妻、番頭と丁稚などの上下関係を顔の向きと体の動き、手の動きで観客にはわかるようになっている。話を記憶してしゃべることは素人でもできるが、このような芸が出来て初めてプロの噺家と言いう事が出来るのだ。
そこに天尾がやってきた。天尾、笑ん馬に近づく。
「お兄さん、東京の落語家さんだって?」知らない男に、いきなり聞かれたのでびっくりする笑ん馬、
「え、あ、、さようでございます、、よ、よくご存じで。」天尾「、ああ、稽古中だったか、済まなかったなあ、」
「いいえ、大丈夫です、、」
「お名前は?」
「三遊亭笑ん馬、と申します。」
「えんば?漢字でどんな字だい?」
「笑いの馬と書きます、二つ目でござんす。」
「ほぉ、、で、師匠は?」
「三遊亭歌笑です、、」
「かしょう、、おお、歌笑!、そうかい、歌笑さんは売れっ子だったよなあ、ラジオでよく聴いてたよ、好きだったなあ、、しかしなんだ、占領軍のジープに轢かれっちまってなあ、、、惜しいよなあ、、」
「ええ、、。」
昔のことを思い出して残念そうな顔をする、、話している天尾の首すじから頬にかけてうっすらと傷跡を見て、戦争に行ってのそれなのだろうなと勘繰る笑ん馬。天尾、「ああ、思い出させて、、悪かった、、すまんすまん。」
「ええ、師匠は、、あの、ご存じでしょうが、、眼が悪かったので交差点で信号を見落としっちまいまして、」
二人が話をしている旅館の壁際、その壁の内側は旅館の便所があり、換気で空けている横長の小さな窓の向こうから、二人の会話を、息を殺して盗み聴きしている詐欺師野口が居る。外ではまだ話が続いている。
「そうかい、好きだったなあ、歌笑の純情詩集、流行ったよなあ、」
「ですねえ、私ゃ『豚の夫婦』ってのが一番好きで。」
「おお、憶えてる!憶えてる!」
一緒に口ずさむ二人。
『♪ブタの夫婦が のんびりと 畑で昼寝をしてたとさ。 夫のブタが 目をさまし 女房のブタに言ったとさ。
♪いま見た夢はこわい夢。オレとおまえが殺されて こんがり カツに揚げられ て みんなに食われた夢を見た
♪女房のブタが 驚いて あたりのようすを見るならば、
いままで寝ていたその場所は キャベツ畑であったとさ。』
天尾と笑ん馬、お互い懐かしんで笑いあう。「わっはははっは!」
「いやいや、旦那、驚きました!」
「戦争前はな、しばらく東京に住んでいたから時間があったら寄席通いをしたもんだよ、まだ古い寄席はあるかい?」
「え、数は少ないですけど焼けた寄席もいくつかは再開しまして。」
「そうかい、また東京に行って、寄席で観てえんだけどな、、神楽坂の演芸場、、四谷の喜よし、銀座の金春、上野の鈴本、、うん。、話は変わるんだが、どうかなあ、明日の夜は時間空いてないか?何だったらウチの家、ああ、ここの島じゃなく、もうちょっと先にある飛島ってところに住んでんだが、よけりゃあウチに来てもらって、落語や東京の寄席の話を聞きてえんだがなあ、、んやあ、他にどこかの旦那に呼ばれているんだったら、いいんだけど、、」
あわてて早口でしゃべる笑ん馬、
「いえ、、こっちは仕事で来てるんじゃござんせんで、へぇ、東京に帰る、四、、いや、五日間、こっちで過ごして空いておりやす、大丈夫でございます、」
天尾、嬉しい顔。
「そうかい、じゃ、明日の夕方、あそこの文化船の近くで待っといてくれ、迎えの船をよこす。晩飯は用意しておくから。最近の東京の様子も、ゆっくり聞きたいねえ、、。」
「ええ、そりゃあどうも旦那、ありがとうございます。」
天尾
「それと旅館の泊まりの代金はあとから使いを出して亭主に渡しておくから、二人分。」
「えっ?、、いえ、旦那、そりゃあ悪うございます、それくらいは困っちゃおりませんので、けっこうでござ、」
「まあ、いいじゃねえか。」
「いえ、そこまでしていただかなくても、、」
「大丈夫だ、ここの経営者は俺だ。」
「は?、はあ、そうですか、、それじゃあ、遠慮なく、ありがとうございます、あの、旦那、お名前は、、」
「天尾、伸彦。ここでは、天尾さん、と呼ばれている、。その、なあ、恥ずかしいから旦那っての勘弁してもらえねえかなあ。」
笑ん馬、頭を深々と下げて頭をあげる、と、天尾と臼井、もう遠くを歩いている。
片腕の袖が風にたなびくのを観ている天尾を見送る笑ん馬、天尾、すでに、二人で泊まっていることを知っている。独り言をしゃべっている笑ん馬、
「 こんな田舎で江戸弁って、、どろいたねえ、、、こりゃあいい旦那だ、だいじにしなくちゃ。まあ、向こうから誘ってくれたんだ、うなぎの幇間のようなこたあないだろ、、」
町で会った知らない男に飯をおごらせようとする太鼓持ちが反対に騙されて鰻屋で食い逃げされる噺の事を喋っているのである。、、しばらくして旅館の壁の向こうで便所の戸が小さくコトンと閉まる音がした、話を全部盗み聴きした野口イサオ、部屋に帰っていく。
旅館 玄関
それぞれの浮き輪を持った若い女性三人が派手な格好の水着にタオルをかぶって駆けていく。
「行くわよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよっ。」
通りがかった島の若い男、寺田敏郎と老漁師の関口が見ている。
寺田敏郎は、漁労長、寺田陽子の息子である。
関口
「あぁ?、なんならありゃあ、、、世も末じゃ。アプレ、アプレ、、。」
戦後世代のことをアプレゲールと言っていた時代である。
寺田敏郎
「はぁーー、大和撫子も、あったものじゃねえのお、、」
そこに寺田の幼馴染、仲原がやってきた。三人を見つめている寺田を見て、娘たちを、ひっかけようか?というような顔で指さすが、やめとけ、という顔をする寺田。
詐欺師 野口イサオの部屋
部屋の片隅に置いた二枚の紙が広げられている。港にある店の看板を観察し、島に逗留中に丁寧に描き出来上がった、大きな商店街の予想図、その隣には瀬戸内海の海図。海図を観て、飛島を見つけ、竹製のコンパスで臼石島からの距離を測る野口イサオ、、タバコをふかしながらメモ帳を見ている、連絡船の出港時刻、次に行く予定の島の名前と共に、自分だけわかるように書いた数字や文字を書いてある暗号の横へ、便所で聞いた話を書き足す野口、
「ヒシマ、アマオ、大型船、金持ち、落語、」
なにか別の悪巧みを考えている。
落語家と曲師の部屋
「明日の夜、飛島に行くよ」座っている笹山桃花の背中にしゃべりかける笑ん馬。「飛島?いま飛島って言うた?」
素っ頓狂な声を出した桃花
「ああ、明日の夜に、、なんだ、どうした?」
「うーん、、この島のもんは、お盆の飛島は、きょうてえけえ行かんのんよ。」「き、きょうてえけ?」
「、、きょうてえ。岡山弁で怖い、と言う意味。私が高校までここに住んどった頃の飛島は、誰も住んでなかったけど、今誰か住んどるん?」
「あ、天尾さんって人と今日会って、住んでると言っていたから、、行けるだろぉ?」
「私は行かないわよっ。」
「なんだい、お袋さんのとこれぇ、オレがついて行かなかった当てつけか?」
「そうじゃないわよ、」
「、、なんか出るのか?」
「うーん、言っても信じないでしょ、」
幽霊の手のしぐさをする桃花
「子供の頃から、お盆は昔の瀬戸内の戦で死んだ侍の幽霊が飛島の入り江にはいっぱい出るのよ、、舟幽霊って聞いたことない?ここでは、お盆に、海岸で盆踊りを踊ってその霊を弔う風習があるの。もう何百年も前からやっとるわ。」
「ふうん、、で、飛島、のほうも、かぁ?」
だんだん声が低くなってくる桃花、、怖がらそうとしている、
「飛島は、大きな入り江があって、お盆の夜だけ、出るのよ、、入り江の海の底は、瀬戸内の戦いで死んだ源平の侍たちの骨だらけって、、、それが、キャー!」
「アー!、、なんだぁあ?」
「、、って、こどもの頃、母に驚かされたわ。」
「あー、、心臓止まるかと思ったよ、、このやろぅーー、、」
「まあ、田舎は色々迷信が残ってるわよ。信じない?」
「うー、、ん、、落語の中にはいろんな幽霊や化け物が出てくる噺あるからなあ、信じないってこともねえよ。」
「そうでしょうね。」
「ん、、まあ、おれは霊感ねえから、観たことねえけどな、、」
「あっそ。」
窓枠に凭れかかって外を見る笑ん馬、、近くの道の上地元のお母さんたちと子供が集まっている所で一人の男が笑いながら子供たちに自分が持ってきたガムを一枚づつ配っているのが見えている。
すいませんと笑っている母親たち。微笑ましい情景だが、笑ん馬が見ている男は詐欺師の野口イサオである。島の子供に愛想を振りまき、島民を安心させているのだ
真面目な顔で野口を凝視する笑ん馬、、この男の正体はわからないが、宿の廊下であった時から、うさん臭さを感じ取っている。
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