ヤク地蔵 - 2

 夜の、雪が降る、見通しの利かない林中。


 ざくざく雪を踏み、ごっつん木にぶつかり、マーティンは行きます。逃げるための前進、行先のない前進です。


 マーティンは振り返りました。追ってくる懐中電灯の明かりが二つ見えます。


「くそ、くそ、くそ!」


 悪態を付き、雪に足を取られつつ、マーティンは進みます。すると向こうに微かな橙の光が見えました。


 彼は追われていることを忘れ、光へ誘引されました。近づくにつれて暗闇に山小屋の輪郭が見え始めます。光は小屋の窓から漏れるものでした。


 山小屋から甘い大麻の匂いがします。


 マーティンが窓から小屋を覗き込むと、七人の猟師が煙管をふかしておりました。一人の猟師と目が合ってマーティンはしゃがみ身を隠します。


「どんと、びー、あふれいど」


 良い奴だ、マーティンは直感で悟りました。


「ニホンゴ、スコシわかる」


「わかった、少し待て」


 小屋の扉が開きます。

 燻らせた煙管を咥え、水平二連の散弾銃を握る猟師が姿を現しました。

 猟師の手、その肌は花崗岩のようでした。


 懐中電灯を掲げた警官二名が小屋に辿り着き、マーティンを照らします。


「黒人のお前! 大人しく――」

 

 ずどん、ずどん。


 猟師は躊躇なく警官を射殺しました。

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