ヤク地蔵

ヤク地蔵 - 1

 雪深い県、年の瀬の夜。


 雪氷でつるつるの山道をミニバンが駆けます。車のテールもつるつる滑りました。サイレンかまびすしいパトカーに追われる黒人のマーティンにスリップへの恐怖はありません。


 黒人のマーティンは米国でをしておりましたが同業者に仲間を殺されて逃亡らいにちしました。


 彼のの種は米国製です。

 花穂バッズは紫混じりの緑で甘い香り、丁寧に手で刈込トリムしたもの。トビが違うと評判でマーティンのはよく売れました。


 だから商売仇は警察サツに彼を売ったのです。


 時速八十キロでスリップ。ミニバンは独楽のように回転、側溝に引っかかって車体が横転し、車の屋根と路面は擦れて火花が飛びました。

 ミニバンは小さなお堂に衝突して停止します。


クソかよ!Holy shit! 俺は日本でやり直すつもりだったのに!」


 花穂バッズ入りのポリ袋をひっつかみ、マーティンはドアを蹴り開けて車から這い出ました。


 マーティンの目に、お堂の石像七体が映りました。この石像は寒くて寂しそうだ、追われて異国に逃亡した俺ならわかる――そう思いました。


 パトカーが停止して警官が降ります。


 くそ、、よいお年を!

 マーティンはポリ袋を破って花穂バッズを石像の前にばら撒き、駆けて、お堂の裏の林に飛び込みました。

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