第四章 背負ったものと、置き去りにしたもの 1


 数日後、シャルロットはオフィスの休憩スペースで課長のリシャを待っていた。


 ドミニクは意識が戻っておらず、復職はまだ見込めない。シャルロット自身もドミニクの悪性細胞を大量に浴びていたので、病院に担ぎ込まれ数日検査入院をしていた。無茶苦茶な魔力生成もしたが身体や臓器に特段の問題はなく、急激な負荷がかかったことによる疲労が殆どとのことだったので早々に退院できた。しかしドミニクは救急治療室に入っていたため、同じ病院に入院していても見舞うことはできなかった。


 錯乱状態で運ばれてしまったため、精神科や心療内科の受診を勧められたが──他人に話す事すら嫌だったので、黙秘を貫いて断り続けた。


 側では硬い表情を崩さない正嗣と普段通りのジオが待っていて、話を聞いたジェラルド達も続々と集まってくる。ローテーブルの上に置かれたタブレットの画面には、ベル・ディエムから長官のルクスフィアが映っていた。直轄の部下の話ということで時間を作り参加したらしい。


 報告書は入院しながら作って上げたが、どうなることか。


「ご苦労! 久しぶりじゃの皆の衆!」


 オフィスの扉が開いて、リシャがやってきた。背丈の低い彼女は鞄を己のデスクに置くと、嵌めていた義手を取り換える。普段と仕事で義手を使い分けているらしい。肩にもふもふした毛並みの猫を乗せているが、毛色は浅黄色で派手だ。彼女の使い魔なのだろう。


 ビデオ通話で見たのと同じ、赤い短髪に魔石の瞳。制服はオーソドックスだが胸元に勲章が一つ輝いており、ボトムはラップキュロットで動きやすさを重視していた。ベルトで腰に提げた馬上鞭の柄には魔石が嵌めてあって、彼女の得物であることが伺える。対策課の腕章は肩から羽織っただけのコートの袖につけられていて、背の低さを感じさせないほど威厳あるたたずまいだった。


「実際に会うのは初めまして……シャルロット・S・ソーンです」

「構わぬ。一度話しておるし、挨拶している場合でもなかろう」


 面と向かって会うのは初めてなのでソファーから立ち上がり挨拶をすると、義手を装備し終えたリシャは生身の手で制した。


「よくドミニクを制した。礼を言う」

「制するどころか、殺しかけましたけど……」

「我々が危惧していたのはアヤツの魔力で周辺が破壊される事よ。そうならなかっただけ、オマエは役目を果たしている。両方生きておるのだ、気に病むな」

「……そう、ですか」


 座れ、と言われて、大人しくシャルロットは着席した。


「さて! 報告書は目を通したが、やはり直接聞かねばな。話せるかシャルロット」


 パン、と機械の右手と肉の左手を合わせて合図すると、リシャは仔細を話すよう促した。

 何から話すべきだろう、ひとまず時系列準にまとめて、思い出しながらシャルロットは口を開く。


 研究施設は十数年は可動していて、直近は遺体を使って癌兵器の試作品を作っていたこと。


 連絡が取れなくなっていたのは、癌兵器が何かしらの要因で暴走し、所員を全て食い殺していたから。


 残っていた癌兵器と交戦したものの、沸点が異常に高く既存の棺と火入れでは燃やし切れず、ドミニクの機転で固有魔法を使用して納棺したこと。その際に──ドミニクが発作を起こして癌化し、現在意識不明であること。


 過去アウロラで起こった大規模な失踪事件に関わっており、被害者であるテオドリックが火葬されず存在していて、襲われて殺されかけたこと。


 ひとしきり話し終わって、シャルロットは膝の上で拳を握りしめた。父が殺された映像を見たことは言わなかった。


『任務ご苦労様でした。しかし大事になりましたね』

「そうだねぇ……ここで昔の件が出てくるか」

「サグス湖畔周辺に肥大化したキャンサーか…‥埋めたと記載してあったのだな?」

「はい……文書はドミニクさんが読んだんですけど、そう言ってました」

「あそこはラクナ・クリスタルの膝元じゃぞ? よくもまぁそんなところに埋めてくれたなテラサルースめ」


 多分これも嫌がらせなんだろうな、なんて思う。テオドリックを殺した男は死体蹴りをしていたから、元々何かしらの嫌悪感を持っていたのだろう。そうなると、父とテラサルースの間で接点があったことに──それも敵対的な関係になるが、シャルロットとしては全く心当たりがない。


「あんな郊外からアウロラの市街地まで分体飛ばして、しかもそれが固有魔法使えるだなんて、ちょっとまずい気がするけどね」

「幻影やステルス迷彩はオマエが突破できるから問題ないとして、懸念すべきは大きさか……? 十数年ラクナ・クリスタルの近くで魔力を吸いながら力を貯めておったとすると、体力を人力で削り切れるかどうか定かではないわ。そもそも分体を魔法で隠しながら幻影を動かすなど並みのキャンサーではできぬ。ワタシとて使い魔をここからサグス湖畔にやって、視覚共有で見るくらいがやっとじゃぞ、戦闘行動などできぬわ」

「横から口挟んで悪ぃが、なんだってそんなデカブツが表に出ずにじっとしてたんだよ。これもこれでおかしいだろ」


 四方八方から考察が届いて、若干居たたまれない気分だった。


 テオドリックは未だにサグス湖畔にいる。大蛇は子供の頃に見ていた個体の色とそっくりで、『ずっと見ていた』と言うからには事実だ。散々ちょっかいをかけてきたしつこい蛇が、父が切り離した子機だったのだろう。


 動かすのは隠れやすくて小回りの利く小さな個体でよかった。埋められた以上は身動きがとりづらく、本体を出すには至らない──そんなところか。


「……必要なかったんだ、あいつには」


 ソファーに座り、腕を組んでじっと考え事をしていた正嗣が言った。


「死人が生者に手を出すべきでないことくらい、あいつなら分かっていたはずだ。だから今までは、見守ることしかしなかった」


 シャルロットはそっと首を撫でた。


 テオドリックに締め上げられた首が、まだ痛んでいる気がする。唐突に息苦しくなって慌てるくらいには、父の魔力の残滓が、まだ自分を殺そうとしている予感がした。


「──いろいろなことを差し引いても、あいつが危険すぎるキャンサーであることに変わりがない。テオドリックは……間違っても自分の子供を殺そうとする人間ではなかった。だが先日のあいつは……正気でシャルロットに手をかけた、かけようとした」


 テオドリックについて、この場で知っているのは娘のシャルロットと、同僚で友人だった正嗣だけだ。行動の謎は、過去の記憶から紐解くしかない。


「あいつは子煩悩だった……頻繁にお前を含めた家族の写真を見せてきて、のろけ話をするくらいにはな。逆に言えば──あいつは家族のために生きていた。それがいきなり誘拐されて家族と引き離されて、殺された挙句に癌化しながら地下で生殺しだぞ? 発狂しておかしくないんだ、普通は」

「私には言葉も姿も何も見えなかったけど、意識はちゃんとあったんだ?」

「シャルロットも、俺の事も覚えていた。もう十五年だぞ? 普通のキャンサーなら自我も理性もなくなって、ただの獣になっている」

「が、彼は……テオドリック氏はそうではない、と」


 シャルロットは話を聞きながら、再会した父の言葉を思い返した。


 心配だからずっと見ていた。一緒に帰ろう。父さんが守る。目の届くところに居てほしい。家族で一緒に暮らしたい。


「……幻影が消える直前、『僕もキャンサーだからどうせ殺しに来るんだろう』と言ったんだ、あいつは」


 言って、正嗣は大きく肩を落とし、両膝に腕をついてうなだれた。


「生前、あいつは何か抱えているように感じた。失踪する数か月前、俺に『もしものことがあったら娘の事を頼む』と言ってきてな。シャルロット、お前をどんな手を使ってでも守らなければならない理由があったんだ。家族が心配なら、わざわざ娘だけを名指ししない」


 ぎゅ、と正嗣は組んだ両手に力を込めた。


「そんなの、心当たりが」

「そうだ、俺にも分からない。詳細は話せないようだった。だがそこまで心に決めた思いがあったなら、あいつの自我が残っていることに理由はつけられる」


 前置きをして、正嗣が顔を上げた。伏せた赤褐色の瞳を向けられて、シャルロットは僅かに背筋を正した。


「あいつは自分を人間ではなくキャンサーだと定義した。お前を守るために人間であることを辞めたんだ、自分の意志でな」

「なに、それ……」

キャンサーの性質はテオドリックも当然知っていた、葬儀官だったからな。火葬されない限り死なない──つまりほぼ永久の命を持つキャンサーに成ってしまえば、記憶も自我も失わないかもしれないと……そう考えたのかもしれない。あいつの事だ、躊躇いはしなかっただろう。やれることは何でもする男だったからな」


 あくまで憶測に過ぎないし、あいつにとっても賭けだったんだろうが。正嗣はそう結んで、話を終えた。


 現時点では、テオドリックがシャルロットに執着めいた親心を抱いていたことしか分からない。しかし家では温和で優しかった父の、意外な一面を垣間見た気がしてシャルロットは問う。


「……あの、おとうさ──父は、手段を選ばない人だったんですか?」


 シャルロットから見たテオドリックは、明るく、優しくて、よく遊んでくれる良き父親だった。だから好きだったし──そこまで思って、それだけしか知らない事に気付いた。


「俺としては、葬官より警官の方が合ってるんじゃないか、とは思ったな。テオドリックが任せられていたのは警察署や刑事たちとの連携や取次だったんだ、事件性のある遺体であれば、火葬を癌化ギリギリまで引き延ばして検死に出すこともままあった。生きている人のためになるんだ、っていつも押し切ってな」

「お父さん、そんな事を……?」

「あまりにも危なっかしいから、その時は俺やほかの対策課の人間が常に遺体を見張っていた──まぁ、確かに事件性のある遺体だと判明したこともあったし、あいつの言うことも無駄ではなかったんだがな」


 シャルロットであれば、父の行動は止めただろう。余裕をもって遺体を火葬しなければ安全を確保できない。癌化しかけている人間を解剖したところで、悪性細胞に変わりかけているのだから手掛かりなど見つかるはずがないのだから、行動に対してリスクがありすぎる。


 死んでしまった以上は問答無用で火葬する。シャルロットとは、真逆と言っていい思想だった。


「だから……テオドリックがお前を守ることに固執した場合、殺してキャンサーにしてしまえば死ぬことはない、と考えるかもしれない。キャンサーになっても無事でいられることは、あいつ自身が証明しているからな」

「私を、生かすために殺す必要があった、と」

「目的と方法が矛盾しているが……あいつは夢中になると視野が狭くなる、気づいていないだろう」


 脳裏に、微笑みながら首を絞める父の顔が蘇った。一切迷わず首に掛けられた手の力を思い出して、シャルロットは再び己の首をそっと撫でる。


 父がいかに手段を選ばない人間だったとしても、人を躊躇いなく殺そうとする人にはなってほしくなかった。


「──ひとまず、今ある情報でみても我らで手に負えんな。ドミニクが復帰してからでなければ火力が足りぬ。正嗣、キサマは火葬に出向けるのか」


 それきりシャルロットも正嗣も黙り込んでしまったので、見かねたリシャが深くため息を吐いて話を戻した。彼女として、テオドリックの素性は特段問題ではないようだ。


 いや、当然か。個人を知らぬキャンサーは、討伐すべき悪鬼に他ならない。


「難しいだろうな……場所がサグス湖畔でなければ同行できたが」

「ほう?」

「懸念なのはラクナ・クリスタルだ。あれはアウロラ周辺の天候に影響を与える。そんなものに莫大な魔力量を持つテオドリックが干渉してきたら、ただ事では済まない」

「ラクナ・クリスタル地下の魔力も使用しかねんと? 大問題ではないか、どうするのだ」

「制御を俺がやるしかないだろうな。あいつのことだ、絶対やるぞ」


 それを阻む必要はある。正嗣は言った。


 シャルロットとしては要領の得ない話だった。ラクナ・クリスタルは自然にできた魔石のはずだが、その魔力放出を制御などできるのだろうか。


「あのー、ラクナ・クリスタルってそもそも制御できるものなんです?」

「……俺の家系は、昔ラクナ・クリスタルの管理をしていてな。その時のノウハウが伝わっている」


 ぼんやりと誤魔化された気がする。正嗣にとってはあまり追及されたくない話だろう。


「だからまぁ、現地には行くが、戦闘には同行できない」

「ドミニクが復帰するまで……それまでキャンサーが動かねばよいが」

「待っていると言った。迎え撃つつもりだろうから、こちらから行かなければ待つだろう」

「だといいけどねぇ」


 今後の方針は固まった。ドミニクが復帰するまで体制を整えつつ、期が熟せば打って出る。


「その、ドミニクさんなんですけど」


 まだ意識が戻っていないから、しばらく時間はあるだろう。そこでシャルロットはもう一つ聞いておかなければならないことを思い出して、終わりかけていた作戦会議を引き留める。


「ドミニクさんの発作、あれなんなんです? 自己崩壊症の発作にしては規模が大きすぎるし、息はあったし、何が何だか分からなくって」


 検査入院中に看護師に聞いたところ、重度の自己崩壊症の発作で治療を受けている、とは聞いた。けれどそれだけだ。どうして全身が悪性細胞に覆われていたのか、そもそも鋼鉄のキャンサーを蒸発させるほどの魔力を何故放てたのか、何も聞いていない。


 どう考えても普通じゃない。シャルロットが問うと、同席していた他の課員は揃って口を噤んだ。知っているが言うべきか迷っている──そんな雰囲気だ。


 気に入らない。隠し事でもしているのが丸分かりだ。


「……何、やっぱり皆さん知ってたんですね。だからあんまり慌ててなかった」

「……そうだね、知ってるよ」

「教えられないんですか。それとも、教えるべきではないんですか」


 重ねて問う。自分だけ知らなかった疎外感で、シャルロットは口をへの字に歪めた。


「ルクスからは聞いておらぬか」


 ちらりとルクスフィアの映るタブレットに視線をやる。彼女はまるで見極める様に目つきを鋭くしてシャルロットを見ていた。


 それが覚悟を試しているように感じられたから、シャルロットは怒気を強めたまま言う。


「聞いてませんよ。封印指定のキャンサーをほとんど火葬した人ってだけ。その場にいたから知ってますよね、正嗣さんも」

「そうだな……そうだな、お前は何も聞いていないな」

「……あんなところ見せられて、私には知る権利がないとでも?」

「落ち着けよ、なんか怒ってねぇか」


 煮え切らない返事に誤魔化すような言葉が重なって、シャルロットは声を荒げる。


「落ち着いてますよ! 教えられないなら教えられないって言えばいいのにそっちが迷ってるからでしょう⁉」


 あの時、本気でドミニクが死んでしまうのではないかと怖かった。その恐怖と心細さを回避できたかもしれないのなら、当然そうしたかった。自己崩壊症を患っているとは知っていても、まさか瀕死に陥るほど重篤な発作を起こすとは思わなかったのだ。


 ギリ、と歯を噛み締めながらシャルロットは同僚を見つめた。自分の手の届かないところで事態が進行することは腹立たしかった──覚悟すらさせてくれなかったのが、お前には受け入れられないだろうと思われているようで嫌だった。


「……ルクス、どうする」

『──構いませんよ。いずれは伝えなければならない話です』


 ずっと黙って話を聞いていたルクスフィアが、リシャからの問いに一言で答えた。


「ハァ……オマエが決めたなら、ワタシは口を出さぬ」


 リシャが小さく肩を落として言った。


「仕方あるまい。ドゥーシャ、タブレットを出せ」

「……知りませんよ? 僕だってあり得ないと思ったのに」

『シャルロット、今から話すことは知っている全員にかん口令が敷かれている情報です。まずはサインを』


 ルクスフィアの声色がワントーン下がった。機密であるからバラせば殺す、暗にそう言っているようだった。


 一気にひりついた空気になったのに構わず、アンドレイが金庫の中から出した端末を操作してシャルロットに手渡した。受け取って書面に目を通すと、情報開示に際する誓約書だった。


 該当人物の情報を収得する事に際し、関係者以外への言及を禁じる──つまりは、ドミニクについて、これから知る事は他人に話してはならないクリティカルな事象である、らしい。


 恐らくはオフィスに集った悪性新生物対策課の全員が知る必要のあることだ。今回は、きっとタイミングが合わなかっただけ。


「上等ですよ、何が来ても受け入れますから」


 文書にしっかりと目を通して、最後の署名に名前を記し、指紋を押印する。


 判まで押したのを確認したリシャが手を出したので受け渡す。合間にオフィスの鍵を内側から閉めたジオを、シャルロットが真顔で目を細めながら待っていた。


 作業が終わったのか、リシャがタブレットの画面をシャルロットに向ける。


「まずはこれを見よ」


 リシャは言って、表示された動画を再生し始めた。



 *



 葬儀監督署の勤務記録のために撮られた動画だろう。ヘッドセットの側面に取り付けたカメラ映像は、灰になった島の上で大型のキャンサーとリシャ達が交戦している様子だった。


 キャンサーが放出する魔力の影響で陽炎による揺らぎが酷いが、全容は把握できる。黒色の鱗に覆われた巨大な翼を有する巨竜のキャンサーが口からレーザービームのような熱線砲を吐き、強靭な腕で振り払い、翼爪を振りかざして容易く命を奪おうとしている。


 対する対策課の人員は、リシャと正嗣と──恐らくはカメラの持ち主であるジオだ。彼の視点で撮られているため、映像の端には常に対物狙撃銃の銃身が割り込み、時々大きな発砲音を出しながらキャンサーを銃撃している。


『二人とも無茶しないでよ⁉ 私はいいけど、ちょっとでも出力が上がったら焼け死ぬよ!』

『分かっておるわ! しかしの、これは──ッ』

『先遣隊が全滅するわけだ……納棺できないとは、厄介すぎるだろう──!』


 リシャが使い魔の巨人を操り、巨竜のキャンサーを力づくでねじ伏せつつ、できた隙を正嗣が全力の居合で斬り払うも、強靭な鱗に阻まれ肉を裂くには至らない。映像に映っている魔力や魔法は撮影者のジオには見えていないだろうが、状況は分かっているらしい。致命傷に繋がる攻撃をジオが狙撃で止め、リシャと正嗣が強力な魔法をで放つものの、これも全身を覆う魔力で威力が薄くなっている。


 シャルロットは見せられた動画に目をくぎ付けにされていた。


 黒い鱗のキャンサー。身に宿す暴力的な青白い魔力も、ドミニクが放つそれと同じだった。


『ちっ……弾が切れる、これ以上は無理だ! どうするの⁉』

『一か八かコアを摘出する! 棺が破られるならそれしか方法がない!』

『正嗣! コアは背中だ! 翼の付け根の間にコアが埋まっておる! しかし──キャンサーコアに視えぬぞ⁉』

『精査している場合か! 背中を雷で打ち砕く、頼んだ!』


 映像は止まらず続いていく。暴れ狂う巨竜のキャンサーは、棺を破ったために火葬ができないようだ。正嗣が下がって魔法の詠唱を開始したところで、巨竜のキャンサーが魔力の動きに気づいたのか大きく翼を広げた。放出するばかりだった魔力が一度巨竜のキャンサーに吸収されていって、両手と翼爪を地面に突き刺し、前傾姿勢を取る。さながら反動に備えるようだった。


 昼間だと言うのに、夜が訪れたかのように光が失せる。巨竜のキャンサーに光が集まりすぎて、相対的に空が暗く見えていた。


『正嗣、避けて!』


 空のマガジンを投げ捨て、リロードしていたジオが声を張り上げる。巨竜のキャンサーが光を湛えた口を大きく広げると、濃密すぎる魔力で魔導機器に影響が出たらしい。一瞬で激しくノイズが走った後、画面が真っ白に染まり──録画はそこで途切れていた。

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