第4話 めいんひろいんいもうと?

前回のあらすじ:二人目からの攻撃!ラブコメ指数が高くてヤバかったぜ……。ん?妹ちゃん?……それはアカンよなぁ!

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 本当に、ラブコメの神様なんてのが存在しているのなら、多分ソイツはどんな犯罪者よりも悪辣だろう。

 僕は心の中で大きく悪態をついた。

 異世界転生を目指す僕にとって、理不尽とも思える最低最悪な仕打ちである。

 さすがに今回のイベントは拒否ったほうが良いのだろうか?

 学校と違い、拒否したときのデメリットは少ないように感じる。

 学校では、他人からの印象や評判を操作し、好かれずとも嫌われないように接することを大切にしている。

 もしも学校でイベントを無理に回避しようとすると、「ノリが悪い」や、「女の子の誘いを断るクソ野郎」というレッテルを張られてしまう。

 良くも悪くも学校では目立たぬようにしている僕が、少しでも一部から悪い印象を持たれたら、その印象は白い服にこぼしたコーヒーのように浸透してしまうだろう。

 それを払拭するのは、非常に困難だ。

 そうして僕は、印象最悪の窓際クソ陰キャ野郎として、スクールカースト上位に校門に磔にされて石を投げられ、異世界転生どころではなくなってしまうことだろう。

 それだけは避けたかったため、学校では無理にイベントを回避せずに、対策を講じるしかなかったのだ。

 しかし、今回は学校で起こるイベントではない。

 つまりは、このイベントを事前に回避したとて、何ら問題はない……ハズである。

 ならば僕がラブコメイベントを食らう理由はない!やったぜ!

 そうと決まれば……


 「ごめん、僕は一人で寝たいから無理だよ。我慢して一人で寝てなさい」


 僕は絶対に、この危機を乗り越えるんだ!

 そう意気込んだ僕は、早速妹のお願いを断る。


 「は?なんで?いいじゃん別に」


 「僕は良くないの」


 「なんでよ~!お願い~!今日だけだから~!」


 「だから嫌だって!」


 お願いお願いと駄々をこねる妹を必死に拒絶する。

 実の妹とのラブコメイベントなんて地獄以外の何者でもない。

 しかも、罰ゲームだけでなく異世界転生の可能性も失われてしまうのだ。

 そしたら、僕の夢は潰えてしまうし、今までの努力も無駄になってしまう。

 山で異世界転生シミュレーションしてカッコよく技名を叫ぶ修行や、研究のために買いあさった資料(ライトノベル)、教室の窓際で肘をついて外を眺めていたり、トラックに轢かれかける子供を庇う修行(某大学並のタックル技術を会得した)だったりが全て無為に帰してしまう。

 それだけは絶対に嫌なのだ。

 僕の今までの努力が無駄になってしまわないように、僕は未だ食い下がる妹の口撃を避け、反撃する。


 「まず、僕とじゃなくてお父さんかお母さんと寝ればいいだろ!」


 「やだ!この年になって両親と寝るとか恥ずかしい!」


 「兄と寝るのも十分恥ずかしいだろ!」


 「でも私はお兄と寝たいの!」


 「僕は嫌だってさっきから言ってるだろうが!」


 どんどんヒートアップする兄妹喧嘩、妹なんかと寝たくない僕と、どうしても僕と寝たい妹。

 話はずっと平行線のまま、互いに譲歩せず。

 かくして兄妹喧嘩もとい口論は、全く関係のない話へと発展していく。


 「大体お兄はいつも私のお願いを断ってるじゃん!今回くらい私のお願いを聞いてよ!」


 「お前のお願いがロクでもないお願いばっかりだからだろ!」


 「うるさい!たまには私のわがままを聞いてよ!このアホ馬鹿ラノベオタク!」


 「誰がクソアホ馬鹿ド陰キャキモラノベオタクだコラ!」

 

 「そこまで言ってないもん馬鹿!」


 最早会話が成立してるかも怪しい、幼稚と表現するには幼児に焼き土下座で謝らないといけないレベルのレスバトル(笑)である。

 しかし、互いに冷静さを欠く口論で、それを指摘する者も生憎だがこの空間に存在しない。

 そうして、とうとう怒りが限界に達したのか、ズカズカと妹が僕に近づく。

 ふん!暴力に逃げるかクソガキめ!


 「キャン!」


 「うべふ?!」

 

 ——突如、躓いてバランスを崩した妹が、前のめりで僕に倒れ込む。

 反応が遅れた僕は、無抵抗に倒れる妹に対処できるはずもなく、案の定、妹の身体は僕にぶつかる。

 が、しかし——


 「うん?」


——手に伝わる違和感、普段は感じない変な感触。

 それを確かめるために、指を動かし、揉むような動作をする。


 「い、うわ、あっ、ひっ」


 指を開いたり閉じたりするたびに聞こえる、妹の変な声。

 ふむ、なるほどなるほど。

 どうやら、僕に取れる選択肢は限られているらしい。

 慎重に選ばねばな。

 ......よし、こうしよう。

 

 「えっ、あっ、えっ?」


 混乱している妹をどけてから、僕は行動を起こした。

 僕は床に膝をつき、手を床に添え、体を丸めるように前に頭を下げる。

 僕のとった行動、それは古来より日本に伝わる、最高位の礼もとい謝罪——


 「......誠に申し訳ございませんでした」


——そう、ジャパニーズ土下座だ。

 僕は......僕は、実の妹とアンラッキースケベを起こしたのだ!

 冷静に考えなくても最悪である。

 不慮の事故とはいえ、実の妹の胸を触ってしまった。

 妹に欲情するわけもなく、なんなら少々げんなりしていた僕と、ずっと俯いたままプルプルと身体を小刻みに震えさせて顔を真っ赤に染める妹。

 いきなり静かになり、その後、少しずつ気まずさが増していく。

 この空気は、はっきり言って割と地獄だった。

 とにかく、僕はジャパニーズ土下座の状態から体を起こし、妹の様子を探る。


 「え、えーと......だ、大丈夫?」


 「——いけない」


 「なんだって?」


 「——もう、お嫁に行けない!うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 泣き叫ぶ妹は、ダッシュで自室へと戻っていった。

 遅れて、「バコォン!」と扉を閉める音が聞こえた。

 まるで、銃を発砲したような音が家中に響き渡るが、それよりも僕がショックだったのは——


——ベタベタな王道ラブコメイベント「ラッキースケベ」の発生であった。

 性格が最っ高に悪いであろうラブコメの神様が、僕を指差して笑ってる気がした。

 もっと他に気にすることがあるだろう、という指摘も分かるのだが、僕にとっては妹の好感度なんかよりも、異世界転生の方が重要である。

 未だにすすり泣く妹の声が、家に木霊する中、僕はただただラブコメイベントと、異世界転生するはずの未来を憂うのだった。

 

 

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