第3話 二人目のヒロイン……そしてもう一人……盛り込みすぎでは?
前回のあらすじ:ピッチピチの美人転校生のために学校案内をした。ラブコメルート突入率が異様に高いイベントだったが、何とかなった。よかったね!
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「えっ、あっ、はい、えっと、そうですかね」
ラブコメ的展開の後、仕掛けてきたのは向こうの方だった。
唐突な質問。クソが!なんで今日はなにもかもが上手くいかない!
今日の僕の情緒も含め、色々とマズイ気がする。
頭の中では愚痴をこぼしつつ、僕は少し焦ったように、たどたどしく質問に答える。
これは僕のラブコメ回避術の一つ(今思いついた)。
あえて質問にしどろもどろに答えることによって、他人との会話が苦手だという印象を相手に持たせ、人によっては「陰キャきっしょ」ってなってラブコメ関連のムフフなイベントへの派生を未然に防ぐことが出来る。
フッ、この技を発動したが、ここからどうやってラブコメイベントまで持っていく?
ラブコメの神様とやらも、きっと今頃大慌てで、悔し涙を流しながらハンカチを噛み締めているだろう……。
「そうなんですか!よかった……私以外にも、この作品を呼んでくれる同志が存在していた!これを知れただけでも、本当に嬉しいです!」
わっつ……?僕は確かにラブコメ回避術を使ったはず、それが搔い潜られた……?
僕は完璧なムーヴをしたはずだ!それを一蹴だと!ありえない、ありえない!!!
ここから一体どうする……。
直後、僕に電流走る……。
そうだ!これだ!この方法を使えば――
「そうですか僕も嬉しかったです本当にこの本を読んでたら時間を忘れてしまってあっもうこんな時間ですか僕これから塾がありましてえっとそのだからもう今日はもうお話できないというかなんていうかそのえっと今日はありがとうございましたではこれにて僕はドロンさせていただきますさようなら……」
――よっしゃ切り抜けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ちょっと待ってください!」
あ゛??????????
「えっと、別に嫌ならいいんですけど……その……」
……おっと?これはもしや……?
……いやいや、そんなはずがない。
僕は確かに「時間が押していて塾に間に合わないからトンズラするぜ!」って言ったはずなんだが……。
「また明日も、ここでお話できませんか……?」
デスヨネ……。
てか僕とコイツ全然会話してねぇだろ。なんだよ「明日も」って。
しかも希薄とすら言えない関係で、また明日もあってお話したいって?
そんな話するような間柄じゃねぇっていうか、それ以前なんだが?
「アッハイ、イイデスヨ」
こんなことを言われたら承諾するほか無くなる。
もしもここで断ったら、僕が悪い印象を抱かれるかもしれない。
誰かがいる気配は無いといえども、警戒を怠った結果見られたり聞かれたりするかもしれない。
それがなくとも、この女の人が「あの陰キャ私とのお話の誘いを断りやがったぞクソが」みたいな感じで広まっていくかもしれない。
事実と相反してしたとしても、一度でも悪い印象で見られたら、それを解消するのは難しい。というか不可能だ。
だから、僕はここで明日の約束を取り付けてしまった。
あー、マジで今後どうやって回避しよう。
僕は異世界転生しなきゃダメなのに。
このままじゃお淑やかな彼女が出来て積極的では無くとも少しずつ心を通わせていくとても焦れったい恋愛をして最終的に結婚して言葉にすることは少なくとも絶対的に僕を愛してくれる妻に自分も愛を募らせながら子供も産んで大変ながらも幸せすぎる家庭を築いてしまう可能性が微レ存!!!
妻と娘が出来たら黄色い空間に突き落とされそうなので嫌だ。
こうして、悶々と異世界転生に対する一抹の不安を抱きながら、僕は帰宅するのだった。
あ、分かってるとは思うけど、塾があるってのはその場凌ぎの嘘だよ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ただいまんもす……」
ちょっぴりテンション低めに帰宅する。
なぜなら、先程まで、ラブコメルート回避の方法をずっと考えていて、結構絶望的なラブコメ率の高さを思い知ってしまったのである。
そして、他にも一つ理由がある。
それが――
「おかえりんごりらっぱんつ……あれ?どったのお兄、いつもよりテンション低いじゃん」
――妹である。
中学三年生の妹、それが今、僕にとってとても気がかりだった。
本来ならば、妹など気にならない。
世間的に見れば全然仲良し兄妹だし、僕も妹が嫌いなわけでは無い。
しかし、だ。
よく考えてみてほしい。
僕が今放り込まれている負の連鎖、エンドレスラブコメスパイラル。
このサイトで現実逃避のために良くラブコメを見ている人なら察せたと思う。
現代日本のラブコメにおいて、かなりの高確率でヒロインとして扱われる存在。
ヤンデレ気味だったり、ツンデレだったり、もちろん色々種類があるのだが。
さて、ここまでヒントを出したのだ。その上この話の流れ。
大体お察しの通りである。
そう――
――今までの状況から察するに、妹との接触でも、ラブコメルートに突入してしまうかもしれない。
そんなことがあってたまるか……。
実際、妹と恋愛する余地なんて一ミリも無いと僕も思っている。
決して妹が嫌いとかではない。
顔はとてもよく整っているし、中学三年生という年で堂々とツインテールをかまし、歩く姿は見る人によっては庇護欲をそそられるだろう。
とても愛くるしい見た目。ああ、そうさ、僕の妹はとても可愛い。
それこそ、イケイケのサッカー部の部長に告白されるレベルでは。
しかし、だ。
残念ながら、どんなに妹が愛くるしい見た目であろうとも、僕は妹と恋愛をしたいなんて思わない。
ていうか実の妹に恋愛的な感情を抱いたり、興奮したり、〇〇〇〇(自主規制)して抜いたり出来る人の感覚を疑う。
妹がどんな存在であれ、「家族である」というフィルターが介在するのだ。
妹を嫌いになることはあれど、恋愛的に好きになったりはなれない。
義妹なら別かもしれないが、僕と妹はしっかり血縁関係がある。
そのため、どう考えても恋愛することは無いとは思うのだが……。
「いや、いつも通りだぞ」
「ええー、ほんとぉー?全然いつも通りに見えないけど」
「だから大丈夫だって」
「嘘つき、私には分かるんだからね」
「あーあーはいはいそうですか……」
「はぁ?!人がせっかく心配してるのにその態度なに!うっざ死ね!」
「うるせぇお前が死ね」
中学生と高校生の会話にしては、あまりにも幼稚な罵り合い。
良かった。これならラブコメルートに入る予感はなさそうだ。
ちなみにフラグではない。
フラグではない!(大事なことなので二回いった)
ムスッとしながらリビングに戻る妹を後目に、階段を上り自室へと向かう。
ひとまず一旦休憩を取って、明日の作戦を練らなければ。
作戦を練ったら資料(ライトノベル)を読み進めないといけない。
今日はやることてんこ盛りだぞ……。
「じゃあ早速作戦でも考え――」
コンコン、部屋をノックする音。
ノックのリズムに呼応するように、僕の心臓は大きく跳ねる。
「お兄、入ってもいい?」
妹の声。
妹は僕の部屋に入る承認を求めている。
「いいよ」
ギィ、と、いつもより控え目な音を立てて扉が開く。
少し表情を暗くした妹が立っていた。
それにしても、僕になんの用があるんだろうか。
さっきの罵り合いのことでは無いと思う。
あの暴言も僕たちの中では平常運転のため、わざわざ謝りに来るとは考えにくいのだ。
じゃあ本当になぜ?
数瞬の逡巡を経て、妹から答えを教えられる。
「えっと、心霊番組見てたら怖くなっちゃって……だから……その……今日は、晩ご飯の後、一緒に寝て欲しいの」
僕はありえないと思っていた。さすがに妹とラブコ゚メ的展開になることはないだろう、と。
しかし、この状況は何だ。
一緒に寝るイベント、しかも、僕の部屋にはベッドが一つしかない。
つまるところ、避けられない添い寝。
こういうのはASMRで十分なのに……。
ラブコメの神様さぁ――
――君ってば、本当にロクでも無い野郎だな……。
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