第2話 青春ラブコメが始まったらダメじゃん

前回のあらすじ:美少女転校生が入ってきたよ!異世界転生の望みが薄くなっちゃった!やっべぇ!

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「あ、えっと、よろしくお願いします」


 件の美少女転校生が挨拶してきた。隣の席の人にわざわざ挨拶するなんて律儀だなぁ。


「うん、よろしく」


とりあえず挨拶は返した。しかし、ここからどうするか......。これ以上の会話は無いようにしよう。関係値を上げなければ、きっとラブコメルートに突入することは無いだろう。


「ごめん、まだこの学校のことよく分かんなくて......。えっと、君さえ良かったら、学校を案内してくれないかな?」


向こうから仕掛けてきたっ!ここで無視するのは......さすがにダメか、いじめっ子破滅ルートにそれてしまう。じゃあどないせえっちゅうねん!ここはなんて答えようかなぁ。......まあ、関係値なんてそうそう上がるもんじゃないし、きっと案内程度なら大丈夫だろう。きっとそうだろう。そうに決まってる。


「えーと、まあいいよ」


「やった! ありがとう!」


やや大げさにガッツポーズをする美少女転校生。案内程度で普通そんな喜ばない。まあ、向こうが喜んでくれるなら悪い気はしないな。


「じゃあ放課後よろしくね?」


「分かったよ」


なるほど、放課後か。いつもは山奥に直行するか図書室に行って異世界転生の資料(ライトノベル)を読んでいたけど、今回は転校生ラブコメルート回避のための特例だ。仕方ない。願わくば、これ以上フラグが立ちませんように。


                  ☆


 チャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。もう昼休憩の時間だ。授業と授業の合間の休み時間にフラグが立つことは無かった。まあ転校生だから、だいたいクラスの陽キャが彼女の周りを囲んで質問攻めしていた。僕は正直、これ以上フラグが立ちそうになくてホッとした。ここでフラグ破壊管理を怠ったら、即ラブコメルート突入で異世界転生がさよならバイバイしてしまう。


「おーい一郎、俺と一緒に飯食おうぜ!」


フラグ破壊のための対策を考えていたら、耳心地のいい男の声が聞こえた。声のほうに視線を送る。その男は僕より背が少し高く、金髪がイケメソセットされている。顔はいい感じに整っており、あふれでるイケメソパワーが周囲の女子の視線を奪う。ちなみにコイツは彼女持ちで、校内屈指のバカップルの彼氏のほうと言われている。僕にも公衆の面前でイチャイチャできるその度胸を分けていただきたい。どうでもいい情報だが名前は「久樹ひさき 友近ともちか」である。コイツはなかなか気前がいいやつで、気づいたら勝手に親友ポジみたいな感じになっていた。しかし、僕はどうしても今コイツとは会いたくなかった。彼女持ちでイケメンで主人公の親友ポジのキャラがでるジャンルといえば......そう、どう考えてもラブコメ。どう見てもラブコメ主人公の親友キャラ。これはラブコメルートに突入してしまう可能性が高い。


「悪い、今日はパスだな」


僕は気まずげな顔を作って、なんとか久樹から離れようとする。


「えー、なんでだよー。まあ仕方ねぇし、別のやつと飯食ってくるわ」


久樹は不満そうだったが、食い下がることもなく、すぐに引いてくれた。よかった。危うくラブコメルートに突入して彼女ができて結婚して幸せな生活を送るところだった。近所のおばさんにおしどり夫婦なんて呼ばれることになるかもしれない。僕は足早に教室をでて、屋上に向かった。あれ?屋上?僕はある事実気づいてしまった。すぐにUターンして教室に戻る。なぜなら、ラブコメキャラは屋上で飯を食うからだ。ラブコメキャラみたいに屋上で飯を食ったら、きっと彼女ができて結婚して(以下略。危うくトラップにかかるところだった。危ない危ない。


                  ☆


 飯を食ったあと、しばらくして授業が始まった。いつもどおり異世界転生系主人公の前世ムーブをかましながら、授業を聞き流した。するとチャイムが鳴った。このまま終礼をして解散という形になる。いつもはウッキウキだったが今日は違う。転校生の道案内イベントが控えているからだ。美少女転校生の姿を確認した僕は、彼女に近づいて声をかける。


「えーと、海端さん、案内するね?」


「あ、えーと......」


「一郎だよ」


「あ、一郎さん、お願いします」


そういえば名前を言っていなかった。美少女転校生こと海端さんは、申し訳なさそうにしていた。僕が名前を教えなかったのが悪いんだけど。まあ関係ないので申し訳なさそうな顔にさせておく。僕は極力、海端さんと会話したくのだ。それと、どうでもいい話になるが僕の名前は「望月もちづき 一郎いちろう」だ。ちなみに僕は、異世界転生するのにこれ以上マッチする名前はないと思っている。なんたってスマホを異世界に持っていってデスマーチするのだ。自分でも言ってて意味が分からない。名前の情報を頭の中で、適当に発信していると海端さんに声をかけられた。


「えっと、ここは?」


「あ、えーと、ここはこの学校の旧棟に繋がってる廊下だよ。もともとは自由に行き来できたんだけど、不良が事件を起こして通るのに制限が設けられたんだ。だから基本的に、用事がないときは通らないでね。まあみんな勝手に使ってるけどね」


「はい。わかりました」


海端さんの質問になるべく丁寧に答える。質問追撃されて会話量を増やされれば、ラブコメルート突入のリスクが増すからだ。ここでも天才的な思考能力を見せている僕はやはり異世界転生するに相応しいな。

 そんなこんなでフラグが立つこともなく学校案内を終わらせることができた。ラブコメルートに突入する危険性は未だにあるが、それでも第一関門は抜けたと言っていい。上々の結果だ。僕は満足感を胸に抱き、今日は山奥へ行かず図書室で異世界転生の資料(ライトノベル)を読むことにした。うちの学校の図書館はラノベまで充実している。素晴らしい。今日は頑張ったので、資料を読むだけで十分だろう。


                  ☆


 僕は嬉しさでホクホクした表情のまま図書室へ向かった。そうしてライトノベルのコーナーへ行って、異世界転生モノを手に取ろうとする。すると……手と手が触れたような感触がした。否、よくよく見ると実際に手と手が触れていた。


「あ」


「あ」


お互いに間抜けな声が聞こえた方向を見る。僕は図書室に来たことを後悔した。僕の視界に写ったのは、深緑の髪を短く切りそろえ、驚いたような表情をしながら独特な黄色の瞳を向けてくる美人さんだった。よくみると少し頬が赤くなっている。これの意味していることはつまり……。


「あ、すみません」


美人さんは謝罪して焦ったように手を引っ込める。ああ、そうだ。この流れから導き出される答えは一つしかない。


「えっと、あなたもこの本を読むんですか?」


美人さんが上目遣いでこっちを見ながら質問してきた。本当に今日はツいていない。ラブコメルート突入しそうになったあたりから最悪な流れになってしまった。ラブコメの神様よ、僕が何をしたというのです――


――あきらかに二人目のヒロインじゃないですか!

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