女王様と麗しの王子【フリー台本】

江山菰

女王様と麗しの王子

*登場人物

王子・・・20代前半くらい。女王の息子で次期国王。途轍もなく頭が悪いのに知的ぶっているイケボ。

女王・・・アラフィフくらい。王子の母。容赦ないツッコミ役。


*演技・編集上の注意

・作品ジャンル:コメディ

・漫才やコントのようにテンポよく演じて下さい。

・イカした声と三枚目声、自己陶酔、絶叫など、メリハリをつけてください。

・BGM及びそのフリー音源を指定していますが、あくまでも例示・参考程度です。変更可です。

・フリー音源のBGMやSEをご利用の場合、音源提供元の定める利用規約を必ずご確認ください。


*以下、本文



BGM:モーツァルト『ロンドンの音楽帳』KV.1c

フリー音源:https://windy-vis.com/art/download/piano_midi_mp3_files.html

 ページ下部「その他の作曲家」の欄から


女王「いきなりやってきて何の用なの? じゃまなのよねー、これから女子だけのお茶会なんだけど」


王子「ちょっと母上に相談したいことがあるんです」


女王「なあに? 手短にお願いね」


王子「母上が連れてきた女のことなのですが」


女王「ああ、一週間前お前に引き合わせた子のこと? あの子がどうかしたの?」


王子「あの女、小間物屋の娘だそうですね! 母上がお忍びで街を視察に行って、適当に気に入った女を連れ帰ってきたとか」


女王「そうよ。ちゃんと最初に言ったじゃない。聞いてなかったの?」


王子「母上、よりにもよってそんな下賤の者を王子たる私とくっつけようなどとはご無体もご無体、ひどいではありませんか」


女王「えー? 素敵な子じゃない。お前にはぴったりだと思うわ?」


王子「全く余計なお世話です!」


BGM:ブルグミュラー「アラベスク」

http://classical-sound.seesaa.net/article/253402861.html


王子「ご覧のとおり、私は美の神に祝福されたイケメンの中のイケメン。この世のどんな花も恥じ入り色を失う、この私の輝かしい美しさ! さらに古今東西の詩人ですら裸足で逃げ出す豊かな感性と列聖されてもおかしくない慈愛の心を持ち合わせたこの私は、いつ神に召し上げられ、天に輝く星座にされてしまうか、正直恐れを抱(いだ)いてしまうほどです」


女王「はあ……(小声で)我が息子ながらマジきもいわ……」


王子「(うっとりと)年端も行かぬ少女から大年増の人妻まで、私の愛を勝ち得るために紅を差し、しなを作る。私は公人、誰のものにもなれず、泣いてひれ伏し私の愛を乞う女たちに一夜きりの愛の雫を降り注ぐだけ……ああ、何も言わないでください、私だってわかっているのです。一人に定めて愛を与えてやれぬこの王太子という立場……それが私をがんじがらめにする……私も辛いのです。ああ、なんと罪な男だろう、この美しい私は」


女王「私が働いてる間そーゆーことばっかしてるわけね。知ってたけど」


王子「アンニュイで退廃的な日々……私の今まで浮き名を流した女の中には、我が国のバラと呼ばれる名高き踊り子も、名だたる画家が競って描く麗しき令嬢も、めじかのごとく瞳優しき聖女もいたのです。それぞれに美しいという評判の女ばかり。まあ、美しいと言っても私ほどではありませんでしたけど」


女王「私の教育が激しく至らなかったというところまでは理解できたわ」※傍点部分を露骨に強調


殿下「母上がそんな私に合いそうな娘を連れてきたとか言うから会ってみたら……もう、何なんですかあの女。どっちかっていうとブサイクですよね」


女王「ええ? 可愛いと思うんだけど」


BGM:サティ『グノシェンヌⅠ』

http://classical-sound.seesaa.net/article/200477890.html



王子「(非難の口調で)母上どころか召使からあのいけ好かねえ宰相まであの女を推しちゃって? それってなんか異常ですよ? だいたいあの女ってぷっくぷくのわがままボディですよね? どこ触ってもふんわふわでマシュマロみたいってアピールしてますよね。手とかも何あれ。アカンボみたいできめとか毛穴とかなくて、口にいれてモグモグしたらやんわらかくて気持ちよさそうで、あんなの犯罪ですよね、犯罪だったら牢に入れなければ」


女王「なに言ってんの?」


王子「(非難の口調で)爪なんか、全然磨いたりとかエナメル塗ったりとかしてなくてその辺の海に落ちてる桜貝みたいで、薄い飴細工みたいな繊細な歯触りがしそうじゃないですか?」


女王「……お前、さっきから表現がキモいんだけど」


王子「いえ普通だと思います。黙って聞いてください。あの女の目! くりくりっとしていきいきして? 朝露に濡れた黒スグリみたいで? あー、唇もぽてっとしててさぁ……ろくに化粧もしてねーのに穫れたてのさくらんぼっぽくて、どう考えてもおかしいんですよ。鼻もまるまっちいし顔の産毛も剃ってねーし、なんか……もぎたての桃みたいなみずみずしさなんですよ……食い物で遊ぶなって言いたいのを我慢するのが大変です」


女王「女の子を食べものに例えるのってほんと、独特のいやらしさがあるわね」


王子「母上、いやらしい人間こそ普遍的なものにいやらしさを見出すのではありませんか? 私は平常心ですけど?」


女王「私、言葉の通じない生き物産み育てちゃったのねえ……知ってたけど。(深いため息)とにかくお前は、あの子が気に入らないの?」


王子「いや、気に入らないってわけじゃあ……」


女王「じゃなんなの?」


 少し戸惑っているかのような間。


王子「いや、ほら、さぁ……。あいつ今までにいないタイプで……なんか、どうしたらいいかわからねーんだよなぁ。なんかさぁ……こう、胸の辺りがむずむずすんだよなあ」


女王「……急に喋り方がみつを風になったわね」


王子「あの女が目に入ったときの焦げるような胸やけと動悸のせいかもしれません」


女王「それって恋じゃない?」


王子「は? 常に恋い慕われる側である、美しい私が? まさか!」


女王「はいはい、恋じゃないならお前はただのビョーキ持ち。治すためにあの子を宮廷から下がらせるってことにしましょうか」


王子「(怒鳴って)そういうことじゃねーんですよ!」


女王「(めんどくさそうに)もう、じゃあ何なのよ」


間。

BGM:ショパン マズルカ op.59 No.3

https://windy-vis.com/art/download/piano_midi_mp3_files.html


王子「(悲しそうに)母上、前に私のことを王の器じゃないって言いましたよね」


女王「(すこし寂しそうに)言ったのは認めるわ。(気まずい間のあと、溜め息をついて)でもね、決してお腹を痛めて産んだ我が子に言いたい台詞ではなかったわ。それはわかってほしいの」


王子「わかっています。自分自身が一番知っているんです、私には見かけ以外いいところがない、空っぽの人間だって……」


女王「(しみじみと)ええ、そうね」


王子「仮にも母親でしょう、否定してくださいよ」


女王「自分で言ったくせに」


王子「まあいいです。ともかくですね、あの女と目が合っただけで、その……不思議なんですけど、なんだかちょっとだけ自分がましな人間になれる気がしてきて、……自分の空っぽな頭蓋骨がおがくずか何かで満ち満ちてくるっぽい感じがしたんです。なにかこう、心があったかくなるような」


女王「そうなのよねえ。人だけじゃなくて、犬も猫も、鳥もあの子にすぐ懐くの。あの子、どんな相手でも気持ちを和ませちゃうのよ。将来の国母たる器があると皆認めているわ。だからゆくゆくはお前の妃に……」


王子「(不貞腐れた子どものように遮って)そこがやだ」


女王「え?」


王子「それって、母上の思うつぼでしょう」


女王「いけないの?」


王子「いけませんよ! 私は母上の実子ですから母上のやりそうなことくらいわかります! 私があの女を気に入ったら偉そうにして、回数とかチェックしに来るでしょ?!」


女王「何の回数?」


王子「……夜のスクワットとか?」


女王「あー、スクワットならコンプライアンス的にOKね。なんで回数聞いちゃダメなの?」


王子「母上の関与を感じたら萎えちゃうでしょうが! ただでさえ、自分でも気づいてなかったドンピシャなタイプを母親が当ててきたってのだけでショックなのに」


女王「(笑いながら)マジで? 萎え萎え?」


王子「(絶叫)笑うなー!!!!!」


女王「要するに、お前はあの子のこと気に入ってるんだけど、ママの干渉が嫌で葛藤してるツンデレちゃんってことね。あー言葉にするとすんげーめんどくせえわー」


王子「繊細だと言ってください」


女王「私が干渉しない、って約束すればいいの?」


王子「これまで母上の政治手腕見てきたんで、約束なんてその場しのぎだっていうのはぼんくらな私にもよくわかってます」


SE:高そうな時計が三時を告げる音

BGM:ドビュッシー「ベルガマスク組曲」第4曲「パスピエ」

http://classical-sound.seesaa.net/article/322588915.html

 終曲部分を終劇に合わせ、長すぎる場合はフェイドインで曲の頭をカット。


女王「あの子をお茶に誘っといたから、そろそろ来るのよね。BL話で盛り上がりたかったけどいいわ、お前も同席しなさい。私、途中で席外してあげるから、自分で何とかして。女慣れしてるんでしょ?」


王子「ちょっと待って、無責任じゃないですか母上! 二人っきりだと、何話せばいいかわかんないじゃないですか!」


女王「私が関わってると萎える、一人でどうにかしろと言えば無責任だとか言う。どうしろっていうのよ」


王子「(絶叫)私にもわからねえんですよ!!!!!!!!!」


SE:ノックの音


女王「あ、来たわ」


王子「うわあああああ!!!! どうしよう! 心の準備が! この美しい私が下賤の女に言葉をかけるなどありえない! しかしお話したい! イチャコラしたい! どうしよう母上!!」


女王「聞こえちゃうでしょ! 躾がなってないにもほどがある! 黙りなさい!」


王子「だって、あの下賤の女は」


女王「(遮って、凶悪に絶叫)うるせー!!!!」


SE:殴り飛ばす音、倒れる音


王子「……うぐっ!!!」


SE: もう一度、ドアを控えめにノックする音


王子「(呻く)う……う、う……い……いちゃこら……(気絶)」


SE:王子のうめきに被せて、ドアを開ける音


女王「(荒い息で)待ってたわ、お入りなさい。そこに我が家の恥部が倒れてるけど、気にしないでお茶を楽しみましょ」


――終劇。



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