第13話 あーあ。

 近くで事故があった。


 見通しの悪い山道のカーブだ。


 にも関わらず、隣の県に抜ける主要道路となっているため、走行する車のスピードは早い。


 交通整理の為にお巡りが立っている。


 急いでるのに……


 ふと悪態が胸に湧いた。


 やっとこちらの車線が動く番になった。


 イライラしながらもお巡りの目を気にしてゆっくりと前を通過する。


 その時、ふと覗き込んだ藪の中。


 私は息が止まりそうになる。



 女だった。


 

 血に塗れ、だらしなく舌を垂らし、片方の目は潰れて眼窩が血溜まりと化している。


 馬鹿な…!?


 そう思ってもう一度見ると、そこには青いシートがかけらており、女の死体など見えなかった。



 見間違い。


 妄想が現実に重なっただけ。


 連日のストレスもあるかもしれない。



 結局仕事に取り掛かるころには、そんなことは綺麗サッパリ忘れて、夕刻私は家に帰った。



「おかえり」


 妻が出迎えと同時に言った。


「朝、事故あったんでしょ?」


 その言葉で今朝見たものが蘇る。


「迷惑な話だよな」


 しかし私はその記憶を塗り潰すように、事故への悪態を口にした。


 夕食を終えた頃、携帯が鳴った。


 嫌な予感がしたが出ないわけにはいかない。


 私は覚悟を決めて携帯を手にした。


「Tさんが酔いつぶれてる。家近くだろ?迎えに来てやってくれないか?」


 なんで俺が……


 そう言いたいのを飲む込んで、私はTさんを迎えに行くことになった。


「気をつけてね」


 妻が何故がソワソワとそう言うのが気に掛かる。


 「大丈夫だよ。二、三十分で戻るから」


 そう言って家を出た。



 下り坂、見通しの悪いカーブが近付く。


 対向車の明かりが路面を照らし、私は無意識に速度を落とした。


 例のカーブに差し掛かる。


 それなのに、それだというのに、いつまで経っても対向車は来ない。


 このままでは、あのカーブですれ違う羽目になる。


 仕方なく、私はノロノロとカーブに入った。


 おかしい……


 対向車が来ない。


 光はいつまでたっても近付いてこない。


 

 背筋にゾクリと冷たいものが走った。


 反射的に振り返りそうになったその時、けたたましいクラクションが鳴り響いた。


「あぁああっ…!!!!!?」


 間抜けな声が出た。


 見ると猛スピードで対向車がすれ違っていく。



 心臓がバクバクと音を立て、おかしな震えが手足を襲う。


 思わず車を止めてため息をついたその時、背後で女の声がした。



「あーあ」

 

 

 逃げ出したかったが、私は事故現場に手を合わせるために外に出た。



 そこにはすでに真新しい花が備えられていた。



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