第12話 階段

仲の良かった友達Fの家には嫌な階段があった。


いつもどんよりと薄暗く、歩くと気味の悪い音が聞こえた。


Fの家は当時では珍しい3階建てで、運の悪いことにFの部屋は3階にあった。



ある日遊ぶ約束をしたので私が昼過ぎに訪ねていくとFは家にいなかった。


Fの母親いわく、お菓子を買いに出かけたらしい。


Fの部屋で待つように言われた私は、独り不気味な階段を登ることとなった。


ギッ…ギッ…ギッ…


階段の軋む音が響く。


ギッ…ギッ…ギッ…

スリ…スリ…スリ…


階段の軋む音に混じって衣擦れの音が聞こえた。


今登るのは良くない…


直感的にそう思った私は、しばらくじっとしてをやり過ごすことにした。


するの壁の中を小さな何かが、コトコトと音を立てて駆け上がっていく。


白い壁紙をじっと見つめて気配を伺っていると、私が立っているすぐ下の階段がギッ…と音を立てて軋んだ。


ヤバイ…


そう思った私は、慌てて上に登ろうと手すりを掴んだ。


その時だった。


手すりを掴んだ私の手を、他の誰かの手がガッチリと掴んだのだ。


壁の中ではコトコト、コトコト、コトコト、コトコト、コトコト、コトコト、コトコト、コトコト…と何か激しく登り降りを繰り返す音がする。


私は後先のことは考えず、思い切り階段を踏みしめた。


バリバリと凄い音がして薄い階段の板が破れた。


すると音を聞きつけたFの母親が慌ててやってきて、青ざめた顔をしている。


私は滑って足を踏み外したと嘘をついた。


弁償するので赦して欲しい旨を伝えた。


Fの母親は青ざめたまま何度か頷いて、弁償はいい。それより怪我は無いか?と尋ねてきた。


怪我は無いと伝えると、Fの母親は今日は帰るようにと言い、私を連れて一階に向かった。


背後でまたしてもギッ…と階段の軋む音がした。その途端…


「五月蝿い!!」


Fの母親が凄い顔で階段に向かって叫んだ。


するとそれを嘲笑うかのように、全ての階段がギシギシと音を立て、壁の中をコトコトが這い回った。


私はFの母親に追い出されるようにして、その家を後した。


それから1年ほどしたある日、Fは何処かに引っ越してしまった。


理由も何も言わずに突然消えてしまった。


引っ越しとあの階段が関係あるのか、もう私に知るすべはない。

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