第11話 ヤネウラサン

母に折檻され、押入に閉じ込められた。


私は悪くないのに。


子どもながらに強くそう思ったのを覚えている。


怒りが鎮まり冷静さが戻ってくると、狭い暗闇が恐ろしくなってきた。


出ようと思い襖に手を掛けたが、支え棒でもされているのかビクともしない。


蹴破ろうかとも思ったが、母の恐ろしい顔が浮かんで思いとどまった。


そんな時だった。


コツコツコツ…。


押入の屋根裏から音が聞こえた。


コツコツコツ…。


「誰かいるの?」


私は小声で呼びかけた。


コツ…。


小さな音だが、それは確かに返事だった。


「何処にいるの?」


私がそう尋ねると激しく音が返ってきた。


コツコツコツコツコツコツコツ

コツコツコツコツコツコツコツ


屋根裏に何かいる。


それからはどうにも良からぬ気配がした。


したが、どうやら出られないらしい。


私は孤独を紛らすために、ソレと話をすることにした。


他愛もない質問をすると「はい」は一回、「いいえ」は二回、コツと音が返ってくる。


「ヤネウラサンも閉じ込められたの?」


コツ…。


「じゃあ私と一緒だね」


コツ…。


「早くここから出たいな」


私がそう呟くと声がした。


「ダシテクレタラ、ダシテヤル」


鳥肌が立つような無機質な声。


私はソレと会話したことを深く後悔した。


それから押入が開けられるまでの時間、私はひたすら口を噤んで耐えていた。


その間ずっと壊れたテープのような声が延々と屋根裏から聞こえてきた。



「出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ出せ」



ココカラダセ


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