第10話 あっかんべぇ
小学校低学年か中学年くらい頃の話。
学童保育に預けられ放課後の校舎に残された私は、他の児童とともに鬼ごっこや隠れんぼに興じていた。
ひとり、またひとりと、子ども達が帰って行く。
とうとう私はひとりになった。
何とも言えない郷愁めいたものが胸に湧き上がったが、見栄やら虚勢が込み上げてきて、私は夕暮れに染まった物悲しい遊具で独り遊ぶことにした。
登り棒からふと見ると、校舎の渡り廊下に子供の姿が見えた。
誰そ彼時の薄闇に、ぼんやりと浮かぶワイシャツの白い影。
「おい!!もう校舎から出なアカンねんぞ!!」
私はとっさに凄んでみせた。
少年らしき人影は笑い声をあげて校舎の中に走って行った。
「待てや!!」
私は怒っているような声をあげながらも、内心まだ他の生徒が残っていたことに喜んでいた。
このまま追いかけっこを始める魂胆で、私は登り棒から降りると、件の渡り廊下へと走った。
下駄箱を抜け、階段を登り、渡り廊下に出る。
おかしな事に例の少年とはすれ違わなかった。
教室は全て施錠されており、隠れることのできる場所などは殆んどない。
私は先程少年がいた場所から校庭を眺めた。
すると登り棒のところに薄ぼんやりと白い少年の影が見えた。
「お前どこ隠れとったん!?」
私は少年に向かって叫んだ。
少年はまたしてもキャハハと笑ってスルスルと登り棒を降りていく。
「そこにおってよ!!」
私はそう言ってもと来た道を引き返そうとした。
ドン…
振り向きざまに何かにぶつかった。
見ると今しがた登り棒にいた白い少年が背後に立っていた。
少年は両手の指を全て使って、顔中にある目玉の下瞼を引き伸ばし、あっかんべぇのポーズをとってニィと笑っていた。
「ひょおおあああ…」
情けない小さな悲鳴をあげて私は意識を失った。
暗くなっても戻らぬ私を心配した学童の先生に発見され、私は手酷く叱られた。
なぜか本当のことを話すのが怖くて、私は隠れんぼしている内に眠ってしまったと嘘をついた。
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