第9話 玄関ポスト
派遣というか、日雇というか、自分がポスティングのバイト?をしていた時の話です。
集合住宅ってあるじゃないですか?
自分がしてたポスティングって、全部配り終えないといけないタイプのやつだったんで、とにかく集合住宅狙いで数を稼がなきゃ一日では終わらないんですよ。
田舎なので一軒家のポストって庭を横切った奥にあったりして、効率が悪いんですよね。
そんな理由で自分はとにかく集合住宅やアパート狙いで数を稼いでたんです。
その日もいつもの集合住宅にチラシを投函しようとしたんですけど、どうも先客があったらしく、不発に終わってしまいました。
困ったなと思って、別のアパートを探してフラフラ自転車を漕いでたんです。
そしたら薄汚れたアパートが目にとまりました。
あれ?こんなとこにアパートあったんだ。
他の建物の死角で分かりづらいアパートでした。
これはイケると思い、早速そこに向かうことにしました。
駐車場を囲むようして三棟がコの字に建てられた二階建てのアパート。
ポストは鉄の玄関扉に備え付けられたタイプのものでした。
一階のポストに配り終えてさて二階のポストに向かうかと階段の前に立つと異様な気配がします。
まず不気味だったのが階段の傾斜です。
異様な急斜面の階段は酷い威圧感を放っていました。
嫌な予感を脇に押しやってその階段を登ると、向かい合うように二つの扉が設置されています。
左のポストに投函してから反対の扉に備え付けられたポストに振り向くと、なぜか全身に鳥肌が立ちました。
名札の無い部屋はどうやら空き部屋のような気配でした。
人間というのは不思議なもので、怖いと思っていても好奇心が湧いてくるようです。
やめておけばいいのに、自分はそのポストの隙間から中を覗きこみました。
どうしても気配の正体を知りたくなったのです。
中はやはり空き部屋のようで家具などは一つも無く、ガランとした部屋のフローリングには薄っすら埃が積もっていました。
ふぅ…
自分は安堵と同時に少し残念な気持ちを抱えてポストにチラシを突き刺しました。
その時です。
まだ自分がチラシを手放す前に、凄い勢いでチラシが中に引きずり込まれました。
バクンバクンと心臓が跳び跳ね、全身に鳥肌が広がり、自分は大慌てで急な階段を駆け下りて自転車に飛び乗りました。
不思議なことに、後日もう一度あのアパートを見に行こうと思い探したのですが、結局アパートを見つけることはできませんでした。
あれは何だったのか…
本当に実在するアパートだったのか…
今となっては解りませんが、時々夢を見ます。
例のポストの隙間から若い女が自分を見つめていやらしく嗤う夢です。
脳裏に浮かぶ細い隙間からは見えるはずのない紅い唇。
そして自分を見つめる美しい切れ長の目。
その紅い唇と切れ長の目が、自分はとても恐ろしいです。
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