第8話 ひび割れた手

子供の頃の話。

とある宗教関連の集会で私は他所のお宅にお邪魔していた。


子どもが十数名集まり、子供向けの有り難いお話を聞く会だった。


会が終わり、おやつが振る舞われた後、親が迎えに来るまでの時間隠れんぼをして遊ぶことになった。


大きな古い家は隠れ場所の宝庫で、私も含めて子供達は夢中になって隠れた。


もーいーかーい?


お話をしてくれた先生の声が響いた。


当然誰も返事はしない。


私は押し入れの奥に身を潜めていた。


布団や座布団の隙間に身体をねじ込み、奥で息を殺していると押し入れの襖が開く気配がした。


心臓が飛び跳ねたが息を殺して先生やり過ごした私は、もっと奥へ隠れなければと思い立ち、さらに押し入れの奥深く潜っていった。


再び襖が開く気配がした。


別の子供の声でここに〇〇がいるよと言うのが聞こえてきた。


私は見つかると思い身を固くした。


その時だった。


布団の隙間からひび割れだらけの白い手がぬっと伸びてきた。


陶器のような白い手はまるで何かを捜すように手当たり次第に触れるものを掴んでは離しを繰り返している。


この手に触れてはいけない…


私はそう直感して心の中で神仏に助けを求めて祈った。


ガバッ…!!


突然布団が取り除かれて光が差し込んだ。

逆光の向こうでは先生が〇〇くん見つけた!!と笑顔をのぞかせている。


私は引き攣った笑顔を浮かべながら上手く力が入らない身体を引きずるようにして押し入れから這い出した。


もしあの手に触れられていたら…


そう思うと今でもぞっとする。

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