第49話 葬儀
西門には遺体が並べてあった。その内の1つであるエルトスの下へとアルフィアスは向かう。エルトスはとても満足しているように笑みを浮かべたまま亡くなっていた。
グッと唇を噛むアルフィアス。どうしてそんな安らかなのか、自分を庇って亡くなったのにどうして恨むような顔でいてくれなかったのか。アルフィアスはそう思ってしまう。恨む顔ならばアルフィアスも納得できたのかもしれない。むしろそうでなければアルフィアスはどうすればいいのかわからない。恨まれていればどれだけアルフィアスの気持ちが楽だったか……。
「王よ……皆様の魂を空へと――」
神父がやって来て、辛そうな顔をしているアルフィアスの肩を優しく叩いた。それに頷いてみせたアルフィアス。神父は今のアルフィアスにかける言葉はないとわかっている。これはきっと王として必要な事だと神父は思っている。微笑んだ神父は聖典を広げた。
遺体の前で神父が葬儀を始める。神父の話を聞きながらアルフィアスはエルトスの遺体をジッと見つめていた。そこには何の感情も見えない。いや、見せないように無表情を維持している。その姿を見てレイが涙を流しながらアルフィアスの肩を抱いた。
「アルフィアスが無事で、よかった……!」
父を失った悲しみとアルフィアスを失わなかった喜びとが合わさってぐちゃぐちゃな感情を抱いていたレイ。葬儀で本当にエルトスが死んだのだと理解して涙が溢れた。それでもアルフィアスの身を案じているレイはアルフィアスの肩を借りてずっと泣いていた。
アルフィアスはレイに責めて欲しかった。父を失ったのはアルフィアスのせいであると。だが、レイはただ悲しみと安堵が混ざった涙を流し続けるだけだ。アルフィアスは心が苦しくなっていく。
(……どう声をかければいいのか)
セツヤは少し離れた所でアルフィアスの横顔を眺めていた。どこからどう見ても無理をしているようにしか感じない。だが、セツヤが何かを言った所で取り合わないだろうと言う事はわかっていた。
神父の言葉が終わって遺体を燃やしていく。これは遺体が魔物になって襲って来ないようにするためだ。1つ1つ遺体を燃やして遺族へ遺灰が渡される。
エルトスの番になって魔法で燃やされていく。レイが膝をついて泣き崩れた。アルフィアスはそのまま無表情で……セツヤは何もできない事に辛さを感じていた。ここにエルトスがいてくれたら何と言ってくれていただろうか。そんな事を思ってしまう。
エルトスの遺灰をもらうアルフィアス。小さな壺に入れられた遺灰を抱きしめてアルフィアスは下を向いている。その姿に誰も声をかける事ができなかった。セツヤの隣にいるラルフリットも心配しているが何も言えないでいる。ラルフリットは自分は仲間ではないと思っていたから。自分が何かを言える立場にないと思っている。
遺灰の入った壺を大事に持ったまま街を出ようとしたアルフィアス。その後ろをついて行くセツヤは拳を強く握ったまま悔しさでいっぱいであった。もっと自分が強ければ……そんな思いも出てくる。レイは涙を流しながらもついて行く。そんな3人の背中を眺めながらラルフリットは街の中へ。するとそこへ――。
「待ってくれ」
傭兵の1人が呼び止める。視線を彷徨わせて何か言いにくそうな顔をしていた。それも一瞬で……傭兵は言った。
「悲しい気持ちのまま街を出るのは駄目だ。それにもう少しすれば陽も落ちて暗くなってくる。辛いとは思う。それでも一緒に戦勝の宴をしないか?」
アルフィアスは振り向かず、その場に止まった。背中しか見えないセツヤはどう自分が答えるか考える、今のアルフィアスには酷な事だろうと思っていた。そして遠慮しようと口を開こうとした。だが、そこへレイが涙を袖で拭いてから笑みを浮かべていった。その顔は辛そうではあったが、元気を出そうとしている事はわかった。
「いいね! 皆で騒いで亡くなった人たちも笑顔になるようにしよう!」
アルフィアスが振り向く。無表情を装っているが、どこか憤っているように見える。どうしてそんな事が言えるのかと、レイへ視線を送っている。こんなに辛いのにどうして、と。だからこそ、セツヤはレイの言葉へ乗る事にした。
「そうだな! 皆を笑顔にして送り出そう! アルフィアスもいいよな?」
この皆にはアルフィアスも含まれるのだが、気づいていない。アルフィアスは口を開きかけて――。
「……そうね、そうしましょう」
悲しげな笑みを浮かべたまま了承した。こうして宴に参加する事になる。
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