第48話 勝利の歓声
「勝った……勝ったぞぉぉぉ!」
傭兵の1人が感極まった声で叫んだ。剣を高々と掲げて泣いている。その姿を見た皆は勝利したのだと理解していき……大きな歓声が上がった。その歓声を聞きながらセツヤは座り込んだ。
「さすがに疲れたぁぁぁ!」
盛大な疲労の息を吐き出すセツヤにラルフリットは笑った。セツヤからはその顔は見えない。クスクスと手を口に当てて笑うラルフリットは剣を鞘に納めた。
「お疲れ様でした」
ラルフリットの穏やかな声にセツヤは頷く。そして手を差し出してくるラルフリット。その手を掴んで立たせてもらった。付いた土を払って伸びをするセツヤ。
「んー……帰ろうか」
「そうですね」
2人は皆の下へと歩き出す。皆が2人に気づいて近づいて行くと大きな歓声が上がった。
「英雄の帰還だ!」
「よくやってくれた!」
「お前ら2人で突っ込むから冷や冷やしたぞ!」
2人を称える言葉を聞きながらアルフィアスの下へと移動する。肩を叩かれたり、背中を思いっきり叩かれたりと手荒な歓迎の中でアルフィアスへの道ができる。皆もわかっていたようでサッと左右に分かれる。2人の姿を見たアルフィアスはホッと安堵のため息を吐いた。そしてセツヤとラルフリットの近くに行き……睨んだ。
「ちゃんと説明してから行きなさい! でも……無事でよかった」
目に涙を浮かべたアルフィアスを見て……2人は顔を合わせてから跪く。
「「申し訳ありません」」
息ピッタリな2人。それを見たアルフィアスの眉が一瞬だけ動いたのだが……2人は跪いているために見えなかった。本人も気づいていないほどの小さな動きだ。そこへレイが声をかけた。
「早く街に入ろうよ。避難した人たちも呼び戻さないと」
皆が頷いて街の中へ入ろうとする。遺体を集めるために何人かはその場に残ってくれた。それにお礼を言ってから門を潜り抜けた。そして――。
「え?」
中央広場に民が勢ぞろいしていた。中央広場に民が身を寄せ合って固まっている。それを守るように槍を持った老人たちが外側で構えていた。皆を見て安堵したのか、その場に座り込んだ。
なぜここに避難したはずの民がいるのかと疑問に思う。どうしてここにいるのか、問う前に答えが返ってきた。
「戦勝、おめでとうございます。疑問はもっともですが……代官によって街から出られなかったのです」
困った顔の年老いた民が代表して言う。この言葉に憤りを感じた皆は代官を捕まえるべきだ、と声高に告げる。今にも飛び出して行きそうな皆をアルフィアスは止めた。
「代官に憤るのは当然でしょう。でも民に犠牲者を出さなかった事を誇りましょう。この街を守れたことを喜びましょう。さぁ! 勝った我ら……高らかに宣言しましょう! 逃げた代官にも聞こえるように! 我らは……勝ったのだ! 雄叫びを、上げろぉぉぉ!」
「「「うおおおおおお!!」」」
民も一丸となって叫ぶ。勝った事への喜びの雄叫びを……生きている事への感謝の轟きを。精一杯に声を張り上げて空高く、遠くまで聞こえるように歓喜に打ち震えながら……叫ぶ。
代官子飼いの騎士2人はその後に捕まった。傭兵たちが東門に行った時に震えていたのを発見してそのまま捕獲される。まさか勝てるとは思ってもいなかったし、自分たちは代官の捨て駒だったとわかったからだ。その場を動いてもどうしようもないと判断して留まっていたのだ。
「こいつらはどうします?」
代官子飼いの騎士2人をアルフィアスの前へと連れてきた。2人の騎士は恐怖に染まっており、このまま処刑されてもおかしくはないと思っている。現に皆が睨みつけてどう処刑しようかと考えていた。騎士2人は何を言っても無駄だと思っており、項垂れている。
「解放しましょう。ただ……街からは出します。そして代官に会う事があれば伝言を。街に入る事は許さないと」
騎士2人は街から出されて代官を追いかけて行った。彼らは代官に出会えるのだが……遺体だった。実は誰も逃げられないように魔物は包囲していたのだ。この事は騎士2人だけが知る事となり、誰も気づく事はなかった。
結果的に、だが……代官は民を救っていたのだった。代官にそんなつもりはなかったのだが。
民や戦っていた者たちは納得がいっていなかったが、アルフィアスは言う。
「街を守った歓喜に水を差す必要はないわ。それよりも……」
アルフィアスは沈痛な面持ちで西門へ。皆わかっていた。この戦いで犠牲になった者たちが少なからずいる事を。
誰もが言葉を発さずに西門へと向かった。
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