第47話 以心伝心!
Sランク傭兵ラルフリットが押し返した。
これに沸いた者たちが外へと出る。セツヤも休めたと思い追いかけた。高揚しているのはセツヤも一緒だった。先頭で戦うラルフリットを見ていてセツヤは気づく。
(ん? どこかを、見ている?)
チラチラと魔物たちの奥を見ている。さらに言えばラルフリットは前に出ようとして、躊躇っているように見えた。何度も隙を窺う姿が見られたのだ。
(……まさか?)
セツヤはラルフリットが何かを狙っていると感じた。何か策があるのだと。ならばセツヤができる事は――。
(もうひと踏ん張り、かな)
完全に疲れが取れている訳ではない。今はラルフリットの奮戦に気分が高まっているだけだ。それでもラルフリットが何かを狙っているのならば、それに付き合えるのは自分だろうと思う。なぜかはわかっていないが。不思議に感じたセツヤだったが、気合を入れなおす。そして疲れた身体に鞭を討って駆けた。
「セツヤ!?」
アルフィアスが驚いていたが無視する。最前線のラルフリットの下へ。それでも背後からアルフィアスが止めようと声を張り上げていた。
「セツヤ! 待ちなさい! 何を思いついたの! 戻って!」
それを無視してラルフリットの背に付いた。背中合わせで戦うセツヤ。背後を守るように戦うセツヤにラルフリットは驚いていたが、すぐに意図を察した。
一瞬。
ほんの一瞬、ラルフリットは剣の切っ先を奥へと向けた。セツヤはそちらを見る。剣の先を確認できたセツヤはニヤリと笑った。2人は同時に頷いて――周りがギョッと驚く事を仕出かした。
「セツヤぁぁぁ!」
アルフィアスの悲痛な叫びを背中で聞きながら……2人は突っ込んでいった。
「ちょ! さすがに無謀――」
「追いかけろ! あの2人がやられたら――」
「何をやって――」
背後は大混乱。
皆の慌てる声を背に受けながら駆ける。
止める間もなく駆ける。
相手にする魔物は一部だけとでも言いたげに。
魔物たちのど真ん中を突っ込んでいった。
(ははは! すごい! 何だこれ!)
互いに守りながらグングン進んでいく。
セツヤにきた攻撃をラルフリットが防いで。その魔物をセツヤが斬り殺す。ラルフリットの背後を狙っている魔物をセツヤの刺突が。ラルフリットは裁縫の動きでセツヤの刺突を避けると魔物の眉間に刺さった。
互いに魔物の攻撃をものともしない。そんな息の合った攻撃と防御に魔物たちは狼狽えていた。2人の狙いがわかっていなかったのもあるが。さらに言えば味方ですら驚き固まっていた。
(すごい! 彼の動きが……わかる!)
ラルフリット自身も驚いていたが、口元には笑みが浮かんでいる。フードの隙間から見えた笑みにセツヤも笑う。
(ラルフリットの動きがわかる。きっとこうして欲しいんだろうなって……わかる!)
2人は互いにどう動けばいいのか、わかった。なぜかはわかっていないが、今この時ばかりは助かっていた。
「これなら――」
「――いける!」
ラルフリットとセツヤが笑い合いながら斬り進んでいく。魔物の指揮官と思しき魔物を狙って突き進む。
魔物の指揮官であるゴブリンキングは必死に2人を止めるように指示を出していた。一斉に襲いかかっても全てを躱された。むしろ攻撃されて次々とやられていく。何が起こっているのか、誰にもわからない。
ただ暴風と爆炎が合わさったかのような勢いで2人は楽し気にゴブリンキングに近づいて行っている。
これに沸いたのはアルフィアスたち。何を狙っているのかはわかっていないが、全戦力を持って突撃を開始した。少しでもアルフィアスたちに目が向けば、2人の勢いも増すと思っての事だった。
この時にゴブリンキングは自分が狙われているのだと理解した。とても焦って壁を作らせる。このままでは殺される。確実にあの2人の刃は届きうると感じ取っていた。
最短距離を突き進んでいる2人を止められないと悟ったゴブリンキング。恐れをなして逃げ出そうとしていた。だが……。
「う、おおおおおお!」
セツヤが飛び掛かる。ゴブリンキングは驚いた顔で固まった。しかし、それを防ぐためにオーガが割って入る。
「邪魔だぁぁぁ!」
オーガの首を斬り飛ばして着地するセツヤ。ゴブリンキングはニヤリと笑った。大量の汗を掻いて息も上がっているセツヤに気づいたからだ。着地したセツヤに魔物たちが襲いかかる――が。
「やっと隙を見せてくれたね?」
ラルフリットは静かにゴブリンキングに詰め寄る。ゴブリンキングは驚愕の表情で背後にいるラルフリットへ振り返った。なぜ背後にいるのかわかっていない顔で――。
「これで……終わりだよ!」
ラルフリットの剣閃が煌めき……ゴブリンキングは目を見開いたまま空中を首が舞う。血を噴き出しながらゴブリンキングの身体が倒れた。その瞬間、魔物たちは固まって……指揮官が死んだ事を感じ取った。
魔物たちは周囲を見て互いに顔を合わせて――蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。中には消えていく魔物もいた。どうやって消えているのかわかっていないが、数が少なくなるならいいかと放置される。戦おうとする魔物はおらず、セツヤもラルフリットも安心して魔物たちの逃走を見ていた。
こうして犠牲者を出しながらも……魔物の氾濫を退けたのであった。
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