第46話 援軍!Sランク傭兵ラルフリット

「遅れて申し訳ありません!」


 後方で休んでいたセツヤとアルフィアスは声のした方へ視線を向ける。フードを目深に被った人物が慌ててやって来た。セツヤよりも少し身長が低い少女だと思った。声の感じが凛としていて綺麗だと感じたからだ。声変わり前でもこんなに綺麗な声は出せないだろうと思ったので、セツヤは少女だと感じた。


「ラルフリット……参ります!」


 腰に佩いてある剣を抜き放ち、前線へ飛び込んでいく。セツヤは目を丸くしながらラルフリットを見ていた。何も考えずに突っ込んでいったように見えた。しかし、それは間違いである。ラルフリットは苦戦している場所を見極めて戦っていた。さらにセツヤは驚く。


(すごい……何て強さなんだ)


 オーガを一撃で仕留めていく。胴体を薙いで真っ二つにしていく。剣の性能も素晴らしいのだろうが、ラルフリットの技術も合わさっていると思った。現に力を入れているようには見えず、オーガは柔らかいものに感じてしまうほどの綺麗な切り口であった。オーガの筋肉をあんなに簡単に斬れるとは称賛ものだ。セツヤには無理であった。

 その姿は暴風のように荒々しく……しかし、ラルフリット自身は水が流れるかのような美しい舞を踊っているように見える。

 フードを目深に被って周囲からは顔は見えない。そのフードが死角を作っているはずなのに……ラルフリットからはどうやら見えているようだ。背後やフードで見えない場所からの攻撃も捌いていた。死角と言う死角を完全に見切っているようで、オーガの攻撃が中る事はない。どうやればあんなにやれるのか、疑問に思えるほどだ。


「まさか……?」


 休憩していた傭兵が小さく声を漏らす。エルレイスの街を中心に活動している傭兵だった。その傭兵は驚愕の表情でラルフリットを見ている。セツヤにはその呟きが聞こえていたので問う事にした。


「知っているのですか?」

「あ、あぁ……あれは、Sランクの傭兵だ。そうか、ラルフリットって名だったか。最近この街に来たみたいでな。会った事はなかったが、周りが小さいSランクがいるって言っていたんだ。Sランクなんてすごいなと思っていたが……あれは想像以上だよ。あれくらいすごくないとSランクにはなれないんだろうなぁ」


 Sランク。それは傭兵の中で最高ランクである。一騎当千の猛者だけがなれるらしい、とセツヤは聞いて納得した。今、目の前で見ている光景は蹂躙に近かった。それがたった1人でなされているのだ。周囲も驚き固まっている。それよりも――。


(これがSランク……!)


 誰もがラルフリットのすごさを理解した。すると周りの士気も上がっていく。雄叫びを上げながら戦いに戻る者が大勢いた。最高ランクの傭兵は伊達ではない。アルフィアスはラルフリットを羨望の眼差しで見ていた。


(私もあれくらいできれば……!)


 徐々に魔物たちを押し返していく。魔物もラルフリットを恐れてか足が下がっている。その隙を突いて門の外へと飛び出すラルフリット。門の外にはまだまだ魔物がいる。ラルフリットは少しだけ驚いたが、すぐに思考を切り替える。


(どうしよう? このままじゃ……駄目だ)


 門の外に出て戦うラルフリットは必死に考える。思っていた以上に魔物がいたのだ。すぐにこちらが負ける可能性を理解する。ラルフリットのおかげで今や魔物は門の外にしかおらず、戦場が外に変わった。押し切ったのだ。背後から皆がやってくるが、それでも足りないと考えが及ぶラルフリット。


(何かないかな? 何か打開できる手は!)


 周囲を見て、魔物の大群の奥を見る。このままでは負けるとわかっている。では勝利するための手があるとすれば――。


(敵の指揮官を……討つ!)


 それしかないとさえ思っている。魔物の全滅は現実的ではない。奥を探るが、手は止めない。暴風のように魔物を次々と斬り殺していく。だが、魔物を相手にしながらも合間に奥を何度も見て――。


(見つけた! でも――)


 1番奥に立派な鎧を着たゴブリンを見つけた。盲点だったとラルフリットは感じる。オーガもいるこの戦場でゴブリン、それも通常種よりも大きいゴブリンキングが指揮官とは思ってもみなかった。ではなぜゴブリンキングが指揮官とわかったのか、それは剣を振り回しながら必死に何かを指示しているのだ。あれが指揮官で間違いないだろう。ラルフリットは当たりをつけたが……そこまで行ける自信はなかった。ゴブリンキングを討てば終わりだとわかるのだが、それでもどう考えても手が足りていない。1人で突っ込んでもすぐに潰される。そんな未来しか見えない。


(このまま押したとしても……皆がついて来てくれる事はない。今ここで戦っている事だけで精いっぱいだ。それに疲労感が出始めれば、こちらの負けだ)


 今は高揚感で疲れを吹き飛ばしているが、それもすぐに足が重くなるはずだ。その時こそ、こちらの負けである。ではあの指揮官を殺せれば……こちらの勝ちが見えてくる。指揮官を失えば統率が取れなくなる。後は有象無象を倒していけばいい。

 では皆であの指揮官まで突っ込むのか。それはできなかった。殺される者が多くなるだけだ。途中でついて来られない者から嬲り殺しにされる。それに奇襲しないと、あのゴブリンキングはさらに奥へと移動するだろう。

 ラルフリットは焦る。冷静に考えているが、いい案は浮かばない。望ましいのは少数精鋭。でもこれはできないだろう。動けば察知されそうだ。


(後一手……届かせる事ができれば!)


 それでも勝つため、ラルフリットは戦いながら必死に考えるのであった。

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