第45話 立ち上がるアルフィアス!

「……ありがとう」


 もう1度小さく感謝を口にするアルフィアス。戦場へ視線を向けてゆっくりと歩き出す。エルレイスが折れてから剣をもっていないアルフィアスへ近づく兵士。兵士は捧げるかのように剣を差し出した。アルフィアスは1つ頷いて剣を一振り。


「うん、これなら……戦える!」


 キッと戦場を睨みつける。アルフィアスは剣を手に馴染ませるためにしっかりと持つ。そして剣を掲げて声を張り上げた。


「皆! 心配をかけた! もう1度……私も、戦う!」


 王の下へと行かせないように戦っていた者たちが安堵のため息を吐く。落ち込む王など誰も見たくはなかった。誰もが堂々としている王を見ていたいのだ。今の王を見て大丈夫だと強く感じた。


「避難がどこまで済んでいるか……わからない。それでも民のために……戦おう。守るために、皆! 奮起して欲しい!」


 皆がアルフィアスへ顔を向けている。その顔には期待の眼差しが。皆の顔を眺めながら期待の応えるべく、アルフィアスは剣を振り下ろした。王の声が……響き渡る。


「私に……続けぇぇぇぇぇぇ!」


 確かにアルフィアスは無理をしているだろう。大切な人を亡くすのは辛いものだ。立ち直れないかもしれなかった。それでもアルフィアスは立ち上がって戦う意志を見せてくれた。この場にいる皆が雄叫びを上げる。


「うおおおおおお! やってやる!」

「俺だって……やってやるんだぁぁぁ!」

「王を守れ! 何としてでも……皆で生きて帰るんだ!」


 あちらこちらで奮起していく皆。それを見ながらアルフィアスは前線へと躍り出た。向かう場所はセツヤの隣。


「待たせたわね!」


 セツヤの背に背を合わせて剣を構えるアルフィアス。セツヤは何も言わず……いや、言えずに剣を振るう。セツヤの体力は限界に近い。顔色も青白くな手織り、息も上がっている。


(私たちを守るように戦ってくれていた。でも限界のようね。ここからは……私たちが担ってみせる!)


 セツヤの動きが鈍い事に気づいたアルフィアスは剣を握る手に力が入る。対してセツヤは1人で考えていた。アルフィアスが落ち込んでいた事は知っている。横目で見たからだ。立ち直ったとはセツヤ的に見えないが、戦場の士気が上がったのはわかる。だが、それでも足りないと思っていた。


(このままじゃジリ貧だ……! 何か手を打たないと……俺の体力が持つ内に!)


 極度の緊張の中でいつも通りに振る舞っていたセツヤ。斬る力や避ける動作を繰り返して体力は底を尽きそうであった。


「セツヤ! 退いて! ここは私たちが受け持つから! 少し休憩しないと持たないよ!」


 レイが近くにやってきた。近くには傭兵や兵士たちの姿もある。3人で背を合わせていたが、セツヤが頷いた後に離れた。前線を離れていいのかと葛藤はあるが、ここはレイの言葉を信じて1度休む事にしたのだ。

 下がって水をもらうセツヤ。浴びるように飲んでいるとアルフィアスも下がってきた。どうやら周りから下がってくれと懇願されたようだ。ここは任せて後ろにいて欲しいと。


「皆は私が弱いと思っているのかしら?」


 頬を膨らませて不満を口にするアルフィアス。その顔を見て苦笑するセツヤは心の中で安堵していた。無理をしているのはわかっているが、立ち上がる事はできたのだと。さらに言えば、アルフィアスが立ち上がった事によって皆の顔に覇気が戻っている。確かにアルフィアスの顔色は優れないかもしれない。それでも奮起したアルフィアスの姿は皆を勇気づけた。


(やっぱアルフィアスは王……だな)


 セツヤはそう思いながら水を頭にかけた。冷たい水が頭をすっきりさせてくれる。考えがまとまらず、熱を持っていた頭が冷えていく。そしてさらに考える。何をすれば……勝てるのかを。このままではジリ貧である事はよくわかっていた。


(魔物はまだまだ元気だし……たくさんいる。こちらは交代で休んでいるとは言え限りがある。現に皆の疲労も蓄積されている。じゃあどうすればいい? どうすれば魔物の進攻が止まる?)


 必死に何か手が打てないか考えるセツヤだが……手が足りないと感じていた。打って出たとしても人数的に負ける。だが、どこかで出なければ負ける事もわかっていた。どうすれば押し返せるか、それだけを考えて……魔物を睨みつけながら歯痒い思いをしているセツヤであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る