第41話 オーガの大群
ニタニタと笑いながらオーガが攻めてくる。今から起こる惨劇を楽しみにしているようだ。ゆっくり、ゆっくりと歩を進めるオーガたち。街道を覆い尽くすオーガたちに弓兵が散発的に矢を放つ。だが、赤黒い肌に傷すらつける事ができない。矢が中っても弾かれている。オーガの筋肉は固く矢が刺さる事はない。腰布を付けているだけだが、鋼の鎧を着ているかのような防御力を持っていた。
「無理だ……こんなの防ぎようがない」
矢を放っている弓兵がガタガタと震えだした。その恐怖は他の弓兵にも伝播していき……矢を放つ事さえできなくなる。ただ茫然と進んでいるオーガを見ている事しかしなくなった。
オーガが門まで来た。門の中にある障害物を持っている棍棒で破壊していく。そして4体ずつ門を通って行く。門は2台の馬車が行き来するほどしか幅はない。そのため大きな身体が邪魔をして一気に攻めかかる事ができなかった。この事はアルフィアスたちには救いになるが、戦意が落ちている今はオーガを倒す事などできないだろう。
「ふぅぅ……ん、これでいいか」
セツヤは深呼吸した後に剣を拾う。抜けない剣で殴り殺せるのは弱いと言われる魔物くらいだろうとわかっている。オーガの相手には不足で剣が必要だと感じていた。落ちていた1本の剣を拝借してセツヤは数回振るう。そして……構えた。
なぜ右腰に佩いている剣が抜けないのかはわからない。今こそ抜くべき時だと思っているのだが、それでも抜ける気配がなかった。何かしら剣にも理由があるのだと思い、右腰に佩く。
「グルァァァァ!」
1匹のオーガが雄叫びを上げながら入ってきた。動きは緩慢だが、その咆哮に身が竦んでしまう者たちばかりだ。その中でセツヤは剣を構えて駆けだした。オーガの咆哮に身が竦みそうになったが、下唇を噛んで堪えた。
「お、おぉぉぉぉぉぉ!」
セツヤも負けないようにと雄叫びを上げる。オーガに肉薄してくセツヤ。オーガは1人の蛮勇だと嘲笑うかのように棍棒を振り上げた。
「セツヤ!」
アルフィアスの悲鳴に近い叫びがセツヤの背後で聞こえる。オーガの棍棒が振り下ろされて土埃が舞う。
誰もが棍棒によって叩き潰されたと思った。だが、予想に反して土埃を纏いながら棍棒の上を走るセツヤ。剣で1番柔らかいと思われる目を狙う。
「グォォォ!?」
オーガは棍棒に乗って駆けてくるとは思わず驚き、固まった。そのままセツヤはオーガの腕に乗り、目に剣を突き刺す。目から脳に達した剣に貫かれてオーガは絶命した。そしてやはり魔石になる。セツヤは目もくれず次のオーガへ向かった。
「よし! 次!」
オーガを相手に普通の戦い方は通用しないと思っていたセツヤ。名剣でもあれば別だろうが、今セツヤが持っている剣はそこらで買える物だ。ならば工夫して戦うしかないのだ。骨が折れる作業だが、やらねば……殺される。少しでも救えるように戦うだけだ、と気合を入れてオーガに肉薄していく。
「おい……俺たちはこのままでいいのか?」
1人の兵士がそう呟いた。近くにいた兵士たちが首を横に振る。自分たちは兵士だ。民を守るために訓練してきた。目の前で戦っているのはまだ成人したばかりで子供と言っても過言ではない。では大人の自分たちはどうだ、と。
「いい訳があるかよ……!」
「そうだ、俺たちは兵士なんだ……!」
「あいつが戦っているのに……!」
「……まだ子供だろ?」
「……くそ、くそ! かっこいいじゃねぇかよ!」
徐々に戦意が上がっている。アルフィアスも絶望していたが、セツヤの背中を見て勇気がもらえた。
(士気が戻った!)
アルフィアスは1つ頷いて自分もと剣を構えてオーガへ。1匹のオーガがアルフィアスに気づいて振り返る。セツヤを脅威であると思い、入ってきたオーガたちはそちらにばかり気がいっていた。
「さぁ! あなたの相手は私よ!」
オーガが吠える。ビリビリと大気が揺れてアルフィアスの戦意を挫こうとした。だが、アルフィアスは不敵な笑みを浮かべてオーガに斬りかかる。
「はぁぁぁ!」
裂帛の気合いと共にオーガを……斬る、つもりだった。
パキィィィィィィン!
と音が鳴って剣が中ほどで折れる。
「え……?」
剣が、エルレイスが折れた事に驚き固まるアルフィアス。このエルレイスは王の剣ではなかったのか、と疑問が浮かぶ。きっと名剣なのであろうと思っていた。それがどうだ。たった1回オーガに斬りかかっただけで折れてしまった。
固まったアルフィアスに致命的な隙ができてしまう。ニタリと笑ったオーガはアルフィアスを殺すために爪で切りかかってきた。
「アルフィアス様!」
エルトスが叫び……オーガの爪がアルフィアスに迫る。エルレイスが折れた事により身体の硬直のために避けられない。周りから悲鳴が上がった。王が殺されると誰もが思う。思わず顔を背ける者もいた。誰もが助けに行きたかったが……間に合わないとわかっている。
アルフィアスもそれがわかっていた。誰も助けには入れないと。呆然と迫る爪を見て……アルフィアスは思わず目を強く瞑った。
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