第40話 前哨戦

 アルフィアスの檄とセツヤの奮闘に勇気をもらう事ができた。自らを鼓舞するかのように雄叫びを上げながら槍を突き出して倒していく。壁からは弓兵が射る。

 それらを横目で見ながらセツヤはさらに前へ。皆、セツヤの背中が大きく見えた。セツヤは所々に傷を負っていたが、まだまだ動けると剣を振るう。

 疲れた者は下がり、元気な者が交代して前に出る。また疲れたら下がり交代。その繰り返しで魔物よりも少ない兵力でやりくりしていた。


「セツヤ! 疲れたら下がりなよ!」


 レイが後ろから声をかけるが、セツヤからの反応はない。セツヤはわかっていた。少しでも魔物の数を減らす事が皆の余裕を持たせる事だ、と。ここで無理をしてでも戦うべきであるとセツヤは感じていた。レイも薄々だが感じているので強くは言えない。

 さらに朗報がここで来る。


「待たせてすまない! 俺たちも戦うぜ!」


準備を終えた傭兵たちが続々と到着していた。その数は増えていき、500人は集まる。元々の兵力が3000ほどだったので傭兵の助力はありがたかった。傭兵たちはもっと来てくれると口々に言ってから戦闘に入る。


「俺たちも戦うぞ!」


 民兵もどんどん増えている。この街の人口が13000人ほど。そのうちの戦える者たちが続々と来ていた。戦えなくても手伝いくらいはできるとやって来る者もいる。これには理由があり、代官によって逃げる事ができなかったからだ。どうせ死ぬなら戦って死のうとさえ思っている者もいる。その事を話す事はない。この場の多くは住民が逃げたのだと思っているからだ。水を差す訳にもいかなかった。

 戦力が増えて誰もがこのまま行けば勝てる。勝てなくても退かせることができるのでは。

 そう思ってしまう。弛緩まではしないが、希望が見えた気がしている。さらに言えば、皆の空気もよかった。高い戦意を維持したまま助け合っている。怪我人は出ているが、ここまで死者は0だ。


(よし、いい雰囲気だ。このままだと勝てる!)


 歴戦の騎士であるエルトスでさえそう感じていた。士気は高く、傭兵たちの練度もいい。このまま魔物の数も減っていく。誰もがそう思っていた。

 唯一数を知っている弓兵だけが緊張している。まだ狼型の魔物は前哨戦で奥に控える魔物たちが一斉にやってきた場合……負ける可能性もると思っていた。

 見れば見るほど理解したくない魔物もいる。あれらが攻めてくる事……考えたくもなかった。


(どういう事だ?)


 傭兵たちは疑問に思う。次から次に魔物を殺しているが……魔石になっている。魔物の自害が魔石になるなんて聞いた事がない。普通は魔物の死骸から取り出す物だ。その手間がないのは嬉しいが――。


(魔物の死骸を障害物にできないのは厳しいな)


 その辺に転がしているだけで魔物の進行の邪魔になるはずだ。それができないのだ。これは少し厳しい戦いになるか、と勘のいい傭兵たちは思った。


「王様! 何かがおかしい」


 傭兵の1人が下がってアルフィアスへ進言する。このおかしな状況を全員に共有しなければ、と思っての行動であった。


「魔物を殺したら魔石になる。これは明らかに怪しい。何かしら手を打たねぇといけない気がするぞ」


 アルフィアスも気づいていた。魔物を殺したとして魔石になる物なのか、と。それが違うとなれば……アルフィアスは思案する。


(何かしらの罠がある? でもどんな?)


 狼型の魔物の数が減ってきた。考えるなら今だ、とアルフィアスは必死に思考する。周囲も安堵の空気になっていた。狼型の魔物を退けた、と。

 そこへ――。


「「「グルォォォォォォ!!」」」


 耳を覆いたくなるほどの咆哮。全身から嫌な汗が噴き出るほどの悪寒。そして――遠くからでもわかる威圧感。


「次! オーガ……来ます!」


 壁の上にいる弓兵が叫んだ。

 オーガを相手にできるのは傭兵や騎士のみ。兵士や民兵には荷が重く、殺される可能性の方が高い。一撃一撃が死に至るほどの膂力を持っている。圧倒的な膂力で押してくる魔物だ。慣れた傭兵ですら殺される可能性があった。

 しかし、油断さえしなければ1匹を傭兵4人で殺す事ができる。そんな魔物だ。


「数は!」


 数さえわかれば対処できる。そう思った傭兵の1人が弓兵へと叫んだ。だが、弓兵はすぐには答えを返せない。目の前の絶望的状況を話していいのか、判断に迷ったからだ。


「早く言え!」


 すぐに答えない弓兵に苛立った傭兵が怒鳴る。すぐに弓兵が顔を出して答えた。言わない方が瓦解する。むしろ早く言った方が覚悟を決めさせる事になるだろう。そう判断した。


「数えきれねぇよ!」

「は……?」


 絶望的だ。

 傭兵はすぐにそう思った。思わず間の抜けた声が出るほどには理解したくない。オーガが数えきれないほどいて、それを殺せる者の方が少ない。これを絶望と言わず何と言う。

 頭を抱えたくなる傭兵たち。その姿を見ていた民兵の顔が青ざめる。士気が下がりだしていた。誰もがこのまま蹂躙される未来しか見えないでいる。

 オーガたちが突撃してくる。

 これを防ぐ手立ては……ない。


「悪夢だ……!」


 傭兵の1人が思わず呟いた。

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