第38話 来る!
西門にエルレイスの街を守ろうとする者たちが集まっていた。次々に来てはエルトスの指示に従っている。
「先ずは槍で攻撃する! 槍を扱える者は集まれ!」
槍を持って来た者たちがエルトスの近くへ。弓兵は壁に上がって魔物が来るのを見ている。その中でセツヤはジッと森の奥を見つめていた。
「騎士様、ここは我々に任せて下で指揮を……」
弓兵の1人がそう言うがセツヤは無言のままだ。弓兵たちは顔を合わせて肩を竦めた。そして自分の仕事をするために移動する。
「門の前には何でもいい! 家具を置くぞ! それだけで時間稼ぎになる!」
エルレイスの街の門には戸がない。そのため閉じて迎撃することができないのだ。魔物の侵入が容易く、それを防ぐために家具などを置いて壁にする。
家具などの壁を破壊したとしても門から入れる魔物の数は限られる。そのため門の前には槍兵を配置して中に入ってきた魔物を殺す準備を進めた。
剣の調子を見る者に弓の弦の張り具合を見る者、槍を一斉に突き出す練習をしている者たち。様々な者たちが生きるために、街の住民を守るために最善を尽くそうとしていた。
「アルフィアス様、士気を上げるために一言よろしいでしょうか?」
エルトスは兵たちが緊張している事に気づいている。奮起を促すために王からの言葉を賜ろうと考えた。
周囲にいる者たちはエルトスの言葉を聞いていた。アルフィアスを期待の眼差しで見つめている。アルフィアスも緊張していたので深呼吸の後に立ち上がって剣を掲げる。
「皆! 我々の背後にいる者たちを考えよ! 愛する者、友人、家族。何でもいい……己の譲れぬ者を抱け! その者たちを守るのは自分たちなのであると! 心に刻み……奮い立て!」
喉を鳴らしてこの場にいる者たちが武器を高らかに掲げる。そして――。
「「「うおおおおおおおお!」」」
闘志を宿した雄叫びを発する。その姿を満足そうに頷いたエルトスは門を見た。着々と準備が進んでいる。それなのに……不安が拭えない。
(……何かが、あるのだろうな)
鋭い眼差しで門の先を睨んだエルトス。そして未だ静かなこの状況に不安感が増していく。それは誰もが感じている事で。心の奥底にある不安を勇気でかき消している。不測の事態があれば……瓦解しかねない。そんな状態であった。
「本当に来るんだろうな?」
門の上に陣取っている弓兵がそう呟く。その呟きは近くにいた者たちに聞こえて。
「来ないなら来ないでもいいじゃないか」
「そうだぞ。まぁ俺としては来てほしくないけどな」
「ははは、とにかく警戒だけでもしておこう」
門の上にいる者たちから緩い空気が漂いだす。ここまで準備しているのに魔物の姿が見えないでいた。本当に来るのだろうか、疑問に思う者も出だしている。
そんな中でセツヤは空気が変わった事に気づく。頬を撫でる風に生暖かさが混じり、嫌な予感がひしひしと身体を駆け抜けていた。背中は汗で濡れて額から一筋の汗が流れる。
カチャリ。
セツヤの右腰にある剣が動いた。思い込みとかではなく、剣が鳴いたのだ。
「……来た」
セツヤは目を見開いてそれだけを呟いた。すぐに下へ行くために階段を目指す。急に動き出したセツヤに弓兵たちは驚いていたが――。
「お、おい! あれ……!」
1人が気づいた。その指で示されている方向をい一斉に見る弓兵。
「て、敵襲! 敵襲! ま、魔物の……氾濫だぁぁぁ!」
弓兵は魔物が森の奥から現れて来るのを視認した。
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