第33話 異変
それはアルフィアスたちがエルレイスの街に着いた頃だった。
街道を進む商人の護衛をしている傭兵が気づく。街道の右側にある森が静かな事に。何も聞こえない森が不気味に感じて――。
「なぁ、鳥の声……聞こえるか?」
共に護衛している傭兵仲間に問う。だが、その傭兵仲間は気づいていなかった。首を傾げながら怪訝な顔で言われた。
「あ? ここは街道だぞ? そこの森からは少し離れている。鳥の声なんか聞こえてくる訳がないだろう?」
「俺も気になっていた……静か、だよな?」
1人の傭兵仲間が恐る恐る口を開いた。どうやら彼も緊張しているようだ。今回の商人の護衛は5人。その内の2人が違和感に気づいている。だが、他の3人は首を傾げて本当かとどこか小馬鹿にしているように見えた。
最初に違和感を覚えた傭兵は静かすぎる森を訝しげに見ていた。
「……おい、やっぱり何かおかしい。魔物の気配すらしないぞ」
「はぁ? そんなのこっちとしては楽でいいじゃねぇか」
警戒するが他の3人はわかっていない。今回初めて組んでいるので警戒している傭兵を見て3人は肩を竦めていた。あいつは臆病者だったなと思い出しながら口を開こうとする。だが、警戒している傭兵2人は視線を合わせて頷いた。そして商人へ急ぐように進言する。
「急いだ方がいい。俺の勘だが……嫌な空気を感じる。何かが起こりそうだ」
「わかった。君がそう言うのなら何かありそうだ」
商人は傭兵の勘を信じた。その傭兵は勘がよく、いつも生き残っていると有名だ。傭兵の中では臆病と言われるが、命あっての物種で。
今回で言えば護衛だ。承認を無事に街へ送っていくのが優先である。魔物と戦闘になって商人が死亡すると金がもらえなくなるのだ。慎重を期した方がいい。
「ん? 何だ?」
最初に違和感を覚えた傭兵は自分の手が汗まみれである事に気づく。それは危機が迫っている時に生じる傭兵の無意識な身体の警告だ。気づいた時には唾を飲んで叫んでいた。
「……走れ!」
心臓が早鐘を打つ。肌を突き刺すような緊張感が押し寄せてくる。叫ぶと同時に背後から生暖かい風が吹いた。その直後だ。
「……マジかよ!」
背後の街道から数えきれないほどの魔物が現れる。どうして背後なのかと考える時間はない。傭兵5人で戦ってどうにかできる訳がないほどの数で……さらに言えば、いろんな魔物が混ざっている。
「商人の馬車に乗れ! 急いで逃げるぞ!」
傭兵5人は馬車に乗せてもらい、全速力で逃走を図った。背後を警戒しながら見ている傭兵たちは違和感に気づく。
「追って、来ない……?」
ニタニタと笑いながらゆっくりとやって来るゴブリンやオークにオーガ。周囲には狼の魔物が悠々と歩いていた。全く追いかけてくる気配がない。魔物の習性として人を襲うために追いかけて来ていてもおかしくはない。
「どういう事だ? 何で追って来ない?」
喉を鳴らしながらそう呟くが誰も答える事ができない。それほど異様な光景で――。傭兵たちは何もわからないままエルレイスの街へ向かう。ひた走る馬車との距離が離れて魔物の大群は見えなくなっていく。いったい何が起きているのか……わからない。ただ、わかる事と言えば――。
「魔物の氾濫、だよな……?」
傭兵の1人がそう呟いて。全員が暗い顔をした。このまま街へ行けば、傭兵たちは戦闘に駆り出されるだろう。あの大軍を見て、逃げたいと誰もがそう思うが……。
「と、とにかく! この状況をエルレイスの街に知らせないと!」
この中で1番若い傭兵がそう言うと全員が顔を見合わせて頷いた。街には住民たちがいる。もしも伝えずに全滅してしまったら……傭兵たちは自分を許せないだろう。それならばエルレイスの街に知らせて戦う方が誇れる。そう思うようにして傭兵たちは己を鼓舞していた。そうでもしないと弱音が漏れてきそうだったから。
僧少しでエルレイスの街に着くだろう。どうなるのか……傭兵たちにはわからない。それでも傭兵たちは向かう。
こうしてアルフィアスたちの知らない間にエルレイスの街に危機が迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます