第32話 新たなる王の誕生

「「「うおおおおおおおおおおお!」」」


 本当に王が誕生したのだ。この場にいる野次馬……いや、民たちは理解した。大歓声が巻き起こって収拾がつかないほどに誰もが興奮している。

 新たなる王の誕生、これを立ち望んでいたのだ。中には涙を流す者もいる。よかったと肩を叩き合いながら王を見た。

 アルフィアスはこの歓声に応えるようにエルレイスの切っ先を天へと向ける。


「皆! 今までよく耐えた!」


 前王が死んで群雄割拠の暗黒時代とも言える15年。経った15年と思うかもしれないが、魔物や領主に怯えていた者も多い。エルレイスの街は比較的に安全だったとは言え、多量の話を耳にする事もある。戦争続きだった所もあり、国をまとめ上げる王の誕生を待ち望んでいたのだ。

 アルフィアスもその事を知っているので高らかに宣言した。


「私……アルフィアスが! 国を1つにまとめてみせる!」


 統一を成した王はいない。唯一、前王が後一歩まで行ったが平和になる事はなかった。前王は優秀な王ではあったが、成し遂げられていない。それでも民は望むのだ。平和な世界を。


「「「うおおおおおおおおおおお!」」」

「「「アルフィアス! アルフィアス! アルフィアス!」」」


 アルフィアスの言葉に民は王の名を連呼する。新たなる王へ誰もが期待を抱く。この瞬間に立ち会えた自分たちは幸運である。そう胸に刻み、声を上げる。


「私も忠誠を誓います!」


 その歓声に負けないレイの言葉に民の声が止んだ。アルフィアスの前で跪き、頭を垂れるレイ。エルトスは驚いた顔で隣に来たレイを見る。レイの顔は真剣で一点の迷いもない。そんな娘を見てさすがはワシの子だと思い、嬉しそうに笑った。


「いいのね?」


 アルフィアスの確認にレイは真剣な眼差しで頷いてみせる。思わずアルフィアスがレイの気迫に目を見開くほどに、だ。


「はい。私は王の緒ためにどこへだって行ってみせましょう。あなた様の剣であり盾でありたいと、私は思います」


 レイの気迫に民は固唾を飲んで見守った。また1人、騎士が生まれる。その瞬間に立ち会えた。新たなる王には信頼を置ける騎士が2人もいたのだ。さらに言えば、その2人の騎士を心酔させるほどに素晴らしい王になるだろうと言う期待が溢れてくる。


「わかったわ……レイ! あなたを私の騎士として認めましょう!」

「ありがたき幸せ!」


 レイの肩にエルレイスを置く。互いに微笑み合ってアルフィアスは小さな声でレイに言った。その言葉は周囲には聞こえないほどだ。


「頼もしいわね」

「ふふ、そうでしょう?」


 レイの笑みにアルフィアスは頷いた。そしてアルフィアスがセツヤを見る。セツヤは出遅れた事に苦笑している。まさかレイに先を越されるとは思っていなかった。セツヤがエルトスの行動に感動で身を震わせている瞬間だった。レイがサッと行ってしまったのだ。最初の騎士はエルトスに譲っても2番目の騎士を譲るつもりはなかったのだが……レイにしてやられた、とセツヤは思っている。レイとしても2番目の騎士を譲るつもりはなかったのだ。

 それでもアルフィアスの騎士になる事は確定なので進んで行く。もう1人の騎士まで誕生かと民は沸き立つ。セツヤはレイの隣に来て跪いた。


「俺も忠誠を。アルフィアス様に絶対の忠誠を」


 柔らかく微笑むセツヤ。アルフィアスが頷いて剣を肩に置こうとした――瞬間だった。


「大変だ! 魔物の氾濫が起きたぞ!」


 風雲急を告げる。誰かが言ったその言葉を理解するのに少し時間が必要だった。

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