第29話 王の剣エルレイス
「……着いた」
アルフィアスの呟き。セツヤは頷き、レイは笑っている。3人の目の前には王の剣が台座に刺さっている。今日も大勢の挑戦者がいた。野次を飛ばす人々が酒を片手に笑っている。今、挑戦している男は筋骨隆々で力任せに抜こうとしていた。
「もう諦めろよ、兄ちゃん」
「そうだ! そうだ! 後ろにも大勢いるだろう? いい加減にしろよ」
「力任せに抜ける訳がないだろう? それで抜けていたらもっと前に抜けている」
男に野次が飛んでいる。それでも男は気にせず剣を抜こうとしていた。どうやら自分には抜けると言う自信を持っているようである。その自信はどこから来るのか、それは自分の筋力に他ならないのだが……。
「はぁ! はぁ! くそ! 何で抜けないんだ!」
男は疲れて息を荒げている。ついに力が尽きたようである。それでもその場を動かず、まだ挑戦するのだと言わんばかりに他の挑戦者を近づけさせない。次の挑戦者へ譲る気などないようで、並んでいた者たちが肩を竦めながら移動した。どうせ次の日にはまた挑戦できるだろうと考えて、だ。
「誰からやる?」
レイが振り返って聞いてきた。剣の前には男しかいない。これは絶好の機会であると考えたレイは2人も挑戦するよね、と確認してくる。
「……俺はいいや」
「えー? セツヤは挑戦しないの?」
レイが不服そうに言ってくるが、セツヤは自分の腰にある剣を見てから答えた。その漆黒の剣がわずかに震えたように感じる。
「あぁ、俺はいい。こいつが怒りそうで、な」
セツヤの慈愛に満ちた目が剣に向かっている。それを見てレイは頷きだけで返した。レイの視線がアルフィアスへ。
「……私は――」
「うん! じゃあ私が先にやるね!」
アルフィアスの不安を感じてレイが先に挑戦すると言う。サッと剣に近づいて行くレイ。男を一瞥して問題ないよね、と無言で確認する。男は女が抜けるとは思ってもいないので挑戦を許した。
レイは剣の柄へと手を伸ばして……掴んだ。
「ん! んんん! ぶはぁ! 無理だ! これ! 抜ける気がしない!」
レイが渾身の力で抜こうとするが全く抜ける気配がない。レイは顔を真っ赤にして挑戦していたが、諦める。
「やっぱり抜けないや」
肩を竦めて戻ってくるレイにセツヤは声をかけた。レイの様子が気になったためである。
「抜けなかったのに悔しそうには見えないな?」
セツヤの言葉にレイは苦笑しながら答える。レイにしてみれば抜ける訳がないと思っていたようで……?
「ただ挑戦してみたかっただけだからね。それに――」
レイはアルフィアスを見る。そのアルフィアスは剣をジッと眺めていた。凄まじいほどの集中力で、周りが見えていないようだ。2人の会話すら聞こえていないほどである。そのレイの視線に気づいたセツヤは納得する。レイはアルフィアスへ場を整えてやったのだ、と。
「ま! 私はここまでかなぁ?」
ニヤニヤ笑いながらレイはアルフィアスの背を押した。驚いたようにレイを見るアルフィアスへウインクを1つ。
「ほら、アルフィアスの番だよ?」
背を優しく押されたアルフィアスは無言のまま頷いてみせると台座へ近づいて行く。バクバクとなる心臓。手には汗が滲み、アルフィアスは高揚感でいっぱいだった。
(あの剣に挑戦できる!)
逸る気持ちを落ち着かせながら台座まで歩くアルフィアス。その姿を野次馬たちが息を呑んで見守った。一挙手一投足に気品を感じる。顔には自信が溢れていて凛としていた。黙ったままの野次馬たちにあの子ならばもしかしたら、とまで思わせた。それほどにアルフィアスは魅力的で……思わず誰もが固まって見惚れてしまう。
アルフィアスが剣の前に来た。
「ふぅぅ……よし!」
息を整えてアルフィアスは剣へと手を伸ばした。
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