第28話 アルフィアスの意志
「どうする?」
エルトスがいない事を知り、セツヤは2人に問う。このまま了承なしで王の剣に挑戦するのか、と。アルフィアスは何も答えずに椅子に座ったまま下を向いている。そのためセツヤからはどんな顔をしているのかわからない。
「エルトスさんが戻ってくるまで待つか?」
セツヤとしてはやはりエルトスに了承をもらってから挑戦した方がいいと思っていた。親であるエルトスから認めてもらっていた方がアルフィアスとしても気分的に楽だろうと。認めてくれないまま挑戦してもわだかまりができるのではないのか、そうセツヤは感じている。
「……私は挑戦したい」
顔を上げたアルフィアスは決意を宿した顔でセツヤを見た。揺るがない想いを感じた。その決意が固い事に気づいたセツヤは腕を組んだ。目を閉じて上を向き唸るセツヤ。その態度を見て反対なのだと感じたアルフィアスは少し考えた後に自らの想いを告げた。
「昨日から考えていたの。私はエルレイスに挑戦したい。どうしても挑戦したい。たとえ抜けなかったとしても私は……!」
「いいんだよ! アルフィアスが挑戦したいなら挑戦しようよ! 父さんの了承なんていらない!」
アルフィアスの言葉を聞いてレイが口を開いた。とても怒っており、頬を膨らませながらレイは拳を強く握る。その姿に目を開けて見ていたセツヤが苦笑しながら肩を竦めた。少し間を置いて言葉を告げる。
「まぁ、いいんじゃないか?」
頷いてみせるセツヤを見てアルフィアスはポカンとしている。どうやらアルフィアスは拒否されると思っていたようだ。こんなにあっさりと頷いてくれるとは考えていなかった。どう説得すべきか、とさえアルフィアスは思っていたのだから。その姿を見てセツヤはやれやれと首を横に振った。
「確かにエルトスさんの了承をもらった方がいいと思うよ? でもアルフィアスが挑戦したい意志もわかるから。エルトスさんがいないのであれば……行ってみてもいいと思う」
驚いているアルフィアスはセツヤから顔を背けて小さな声でお礼を言う。それも恥ずかしそうに、だ。その姿は同性のレイですらドキリとさせるほどで――。
「……あ、ありがとう」
耳まで真っ赤なアルフィアスに笑いかけるセツヤ。どうやらセツヤは動じていないらしく、レイはそこが気にくわなかった。
「ははは! 善は急げ、だ。用意して行こう。でも先ずは……飯を食おうぜ」
「ぷ! そうね! 食事は大事だわ」
2人が笑い合っている中でレイはそれでいいならいっかと納得している。食事を急いで食べて……街へ行く準備をした。セツヤは漆黒の剣を腰に佩いて1つ頷く。玄関に向かうと準備を終えていた2人がいて――。
「行きましょう」
家の前で深呼吸したアルフィアスは2人に声をかける。頷いてみせる2人にアルフィアスも笑みを見せた後に歩いて行く。
道中はアルフィアスが緊張しているのか全く会話はない。ただ黙々とエルレイスの街を目指す。
セツヤは後ろからアルフィアスへ視線を向けた。そして自分の腰に佩いてある剣を見る。太陽に負けない漆黒の鞘が鈍く光っていた。未だ抜ける気配のない剣にセツヤは不気味さすら感じる。黒く光る剣が行っては駄目だ。そう言っているようにも思うが……。
(なるようにしか……ならないさ)
セツヤは安心させるように剣を撫でた。少し距離が開いたらしくアルフィアスの背を追う。どうなるのか不安と期待をない交ぜにしたまま……3人はエルレイスの街へ急ぐ。
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