第27話 エルトスのいない朝

「よし、こんなものかな」


 台所で朝食を作っていたセツヤ。料理を食卓へと持って行く。4人分を準備して後は3人が起きてくるのを待つばかりだ。


「おはよー」


 元気いっぱいに起きてきたのはレイだ。レイが先に起きてくるなんて珍しく、いつもは最後にやって来る。だいたいエルトスが1番に起きてきて2人を待っている事が多いのだが……。


「おう、おはよう。珍しいな? レイが1番に起きてくるなんて」

「え? ホントだ。父さんは起きてないんだね……少し話をしようと思っていたのだけど」


 レイは眉根を寄せて困り顔をしていた。セツヤはエルトスが起きて来ない事を珍しいな、と思いつつも椅子に座る。レイが早くに起きてきた理由はエルトスに話があったかだ。しかし、肝心のエルトスがいないのでレイは椅子に座ってため息を吐いていた。そして次に起きてきたのは――。


「おはよ」


 アルフィアスだった。レイが先に起きていた事に驚いていたが、アルフィアスは椅子に座る。3人で待っていたが……全然エルトスが起きてくる気配がない。3人は顔を見合わせて昨日の事がそんなに衝撃だったのかと思った。寝坊なんてした所を見た事がないため、余計にそう感じるのかもしれない。3人はどうするか迷いながらもエルトスを待った。


「……セツヤ、昨日はごめんなさい」


 沈黙の中で最初に口を開いたのはアルフィアスだ。何に謝っているのかわからないセツヤは首を傾げた。


「その、残しちゃったでしょう? せっかく作ってもらったのに……」

「あぁ、そん事か。別に大丈夫だよ。それよりも昨日は俺もエルトスさんと話をしたんだけど……駄目だった」

「そう……今日もう一度だけ話してみるわ」


 アルフィアスは明るく言う。その顔には決意が宿っていて、今度こそ話して了承をもらうと考えているようだ。どんなに反対されようが説得してみせると、そう感じさせた。その相手であるエルトスがなかなか起きて来ないのだが。


(昨日のエルトスさんの言葉は教えない方がいいな)


 昨日の義理の娘であると言う事を歯案す訳にもいかない。これはエルトス本人から聞くものだ、とセツヤは心の中に秘めておく事にする。それよりもエルトスがまだ起きて来ない。その事の方が気になって仕方がなかった。

 少し経ってアルフィアスとレイが話している。それを聞き流しながらセツヤはまさか、と思った。


「なぁ、さすがにエルトスさん遅くないか?」


 アルフィアスとレイもその事が気になっていたらしく、顔を見合わせて頷いている。


「確かに遅いよね」

「えぇ、寝坊にしても遅いわ」


 レイが言うとアルフィアスも心配そうに続く。セツヤは2人もそう言っているのでおかしいと完全に思った。そして――。


「まさか、ね?」

「セツヤ? どうしたの?」


 レイの問いかけに答える事もせずにセツヤは立ち上がってエルトスの部屋へ。


「エルトスさん! 大丈夫ですか!」


 戸を叩くが反応してくれない。ついて来た2人も気づく。エルトスが倒れているのでは、と。


「ちょ! 父さん! 大丈夫!」


 レイが強引に戸を開けた。どうやら鍵はかかっていなかったようだ。中には――。


「え?」


 整頓されていない部屋の中には誰もいなかった。


「どういう、事……?」


 アルフィアスが呆けながら言った言葉に誰も反応できない。そこにエルトスは居らず、もぬけの殻であった。3人は顔を見合わせて首を傾げる事しかできない。どこに行ってしまったのか、3人はわからず途方に暮れるしかできなかった。

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