第26話 エルトスの悩み

「どういう事か……教えてくれますか?」


 エルトスの言葉に驚愕しながらも理由を聞きたかったセツヤ。だが、エルトスは下を向いたまま、首を横に振るだけで何も答えない。


「どうして挑戦させたくないのですか? 本当にアルフィアスが抜けると思って……?」


 セツヤは言いながら考える。どうやらエルトスは抜けると思っているようだ、と感じた。セツヤとしてはそんなのやってみない事にはわからないのでは、と思っているが。

 ジッと無言のままセツヤはエルトスを見ている。エルトスはその視線に気づいているが、顔を上げない。沈黙のまま数分が経った。


「アルフィアスは……ワシの娘ではない」


 ポツリと小さな声で紡がれた言葉にセツヤはどこか納得していた。


「……似てないもんな」


 セツヤの呟きに底冷えのする睨みで答えるエルトス。セツヤは視線を逸らして何事もなかったかのように肩を竦めるだけだ。ため息を吐いてエルトスは語り出す。


「はぁぁ、あの子は託されたのだ」


 誰に、とは言わないエルトス。セツヤも気になったが、問い質そうとしなかった。絶対にそこは話さない、とわかったから。エルトスは続ける。


「ワシはあの子が自由に育って欲しいと思っておる」


 エルトスの言う自由がセツヤには何なのかわからない。それでもセツヤは首を傾げながら言った。


「挑戦するのも自由なのでは?」


 エルトスはセツヤの言葉を聞いて首を横に振る。エルトスには確信があるのだろう。その確信がどこから来ているのかわからない。だからセツヤは言葉を選びながら考えを告げた。


「うーん、アルフィアスも覚悟の上なんじゃないかなぁ? それに王の剣を抜いたとしても王都認められなければ意味がないと思う」


 セツヤとしてはそう考えているのだが、エルトスとしては違うようだ。無言のまま首を横に振る。


「エルトスさんは何をそんなに怯えているんですか? 義理の娘だとしても挑戦する事を認めてあげたらどうです? 理由もなしに駄目だではアルフィアスも納得しませんよ?」


 ジッと下を向いたままのエルトス。全く反応がなく、どう言えば答えてくれるかセツヤは考える。


(うーん、何をそんなに恐れているのか……皆目見当がつかないなぁ。でもエルトスさんから了承を得て挑戦させてあげたい。それがアルフィアスの望みだと思うから)


 怒られるかもしれないが、セツヤは覚悟を決めて問う。


「エルトスさnはアルフィアスが剣を抜いて人が変わる事を恐れているのですか?」

「……違う」


 やっとエルトスが反応してくれた。だが、その一言からまた口を開こうとしない。


「……アルフィアスを信じていないのですか?」


 セツヤの言葉にピクッとエルトスの肩が動いた。さらに拳を強く握って震えている。


「大丈夫ですよ。アルフィアスが剣を抜いて王となったとしても……」


 そこで区切ってセツヤはエルトスの反応がないかを見ながら続けた。


「それはアルフィアスの意思だと思います」


 エルトスは顔を上げる。その顔はとても複雑そうな感情が渦巻いており、口を開いて閉じてを繰り返している。何かを言おうとしているが、エルトスはまた俯いて額に手を当てた。


「必ずアルフィアスは突き進むと思いますよ?」


 セツヤはアルフィアスを信じていると言いたげな顔でエルトスを見ている。そのエルトスは深いため息を吐いて立ち上がった。セツヤと視線を合わせた後に部屋を出て行く。

 その背を見送りながらセツヤは了承を得られなかった事が気になった。


(明日また話し合いをしないと)


 そう思いながら残された食事を片付ける。明日になればエルトスもアルフィアスも冷静になって話ができる。そうセツヤは信じていた。

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