第25話 レイの提案
数日が経ち、セツヤとアルフィアスが顔を合わせても逃げる事がなくなった。だが、変わりにアルフィアスの思い悩む姿をよく見かけるようになる。何に悩んでいるのか察している3人は話をしてくれるまで待っていたのだが……。
夕食中、気まずい空気が漂っていた。
心ここに在らずのアルフィアスは木製のスプーンを野菜スープに突っ込みかき回している。片肘を机について顎を手に乗せたまま、ため息を何度も吐いていた。エルトスもチラチラとアルフィアスを窺っているが、声をかける事はできなかった。アルフィアスの悩みを知っているエルトスは解決できない。むしろ反対してしまうだろうとわかっていた。
そんな重い空気の中でレイは1つ頷いて声を上げる。
「ねぇ、王の剣……エルレイスを抜きに行かない?」
これに驚いたアルフィアスは思わずレイを見た。アルフィアスはどうして自分の悩みがわかったのか、と言いたげな顔をする。レイはニヤニヤと笑っており、何でもお見通しだと言っているかのようだ。その笑みが気に喰わないアルフィアスの眉間に皺が寄った。
「気になっているんでしょ? なら行って挑戦してみようよ!」
固まったアルフィアスへレイは続ける。もちろんニヤニヤ笑いは止めずに。
「そんなに気になっているなら試してみてもいいと思うよ?」
渋い顔をしながらアルフィアスが口を開きかけた瞬間だった。
「駄目だ!」
エルトスの怒声が響く。その顔はとても切羽詰まっている。どうしてそんな顔をするのかわからない3人。この時のエルトスは不安でいっぱいだった。
「あれは王のみが抜ける。子供が挑戦していいものではない!」
机を叩きながら立ち上がるエルトス。アルフィアスの顔を見ながらエルトスは首を横に振った。エルトスがとても怒っている。その事に呆気に取られる3人。だが、すぐにアルフィアスも立ち上がって反論する。
「私はもう子供じゃないわ! 成人もしている!」
「まだ成人したばかりで子供と一緒だ!」
エルトスのまだ子供と言う言葉に怒りが込み上がってくるアルフィアス。怒気を強めながら声を荒らげた。絶対に引かないとエルトスを睨みつけて。
「どうして? 私は大人の仲間入りをしているの! 挑戦してもいいじゃない!」
「駄目だ! お前には挑戦させない! まだ早いのだ!」
エルトスの必死さにセツヤは気づく。どうしてここまで頑なに否定するのかまではわからない。アルフィアスのためを想っている事はわかった。だが、アルフィアスは怒りで冷静さを欠いているためにわからなかった。
セツヤが止めようとした瞬間にアルフィアスは俯いた。拳を握り締めながら肩を震わせている。
「もういい!」
顔を上げたアルフィアスはエルトスを睨んだ。そして食事を残したままアルフィアスは勢いよく自室へ向かって行く。足音を激しく鳴らしながら出たアルフィアスの背を見送るエルトス。その顔には苦々しく思っている事が窺える。
「アルフィアス!」
レイが心配してついて行った。もちろんエルトスを睨んだ後に、だ。レイはエルトスに対して言いたかったが、今はアルフィアスを追う方が大事だと判断した。エルトスは茫然としている。そのままズルズルと椅子に腰を下ろして頭を抱えた。
セツヤはエルトスに声をかける。
「どうして駄目だったんですか? 抜けるかもわからないのに」
エルトスは顔を手で覆ったままポツリと言葉を漏らした。その呟きはセツヤを驚愕させ、言葉が出なくなるほどである。
「あの子ならば……抜けるだろう」
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