第24話 不幸な事故
翌日――。
「ふぅ、少し汗臭いか……?」
掃除を終えてセツヤは汗の臭いが気になった。今日は暑さを感じて身体を動かすだけで汗ばんだ。時期としては真夏で今日が1番暑いのではと思えるほどだ。
「汗、流すかー」
セツヤは家の裏にある井戸で水を浴びようと思った。一度家の中に入って濡れた身体を拭くための布を準備する。着替えの黒い服も準備して井戸へ向かった。何となく黒い服が気に入っており、いつも似通った黒い服を着ている。
準備を終えて井戸へ。
「ふぅ、気持ちいいな!」
井戸で水を汲んで頭から浴びた。キンキンに冷えている井戸水が火照った身体に染み渡るかのようで涼しくなる。何度か浴び、冷やされていく身体を感じながら思わず笑みが溢れる。とても気持ちが良く生き返るようだった。
水を浴びて一息ついていると……?
「セツヤ? どこにいるの?」
声が聞こえた。この声はアルフィアスだ。特に何も思わずに声を上げた。
「ここに――やべ!」
返事を途中で止めて自分の状態を思い出す。下を見ると全裸である。失念していた、と顔を青褪めた。全裸状態である事にヤバいと思う。全裸な自分を見たらアルフィアスが何と言うか……顔から血の気が失せた。心臓はバクバクなっている。気配が近寄ってくる。顔を青から白へ変わるが、何もできずに動けない。近くに服がある事も忘れて固まった。
「そこにいるの? ちょっと話があるんだけど」
「ちょ――」
家の角からアルフィアスが現れる。止めようと思ったが遅かった。ひょいっと顔を出すアルフィアスのにこやかな顔がビシッと固まる。
「……」
「……」
2人の間に沈黙が流れた。とても気まずい沈黙だ。にこやかなアルフィアスの視線がセツヤの下半身へ向かう。そして――。
「な、ななな――」
ボンッと顔を真っ赤にしたアルフィアス。ワタワタしながらアルフィアスの視線が下に行ったり上に行ったり。この時のセツヤは菩薩のような顔をしていた。終わった、と。
「な、何てもの見せているのよ!」
アルフィアスは状況が掴めたのか真っ赤な顔のまま、一気に距離を詰めた。右拳を握って振りかぶり――。
「待て待て! 俺は悪――」
セツヤの制止も聞かずに左頬にアルフィアスの拳が突き刺さる。そのまま力の限り振り抜いて――。
「ぶぎゃふ!」
と謎の声を吐き出しながらセツヤはぶっ飛んでいく。
(俺は悪くない……!)
そんな事を思いながらセツヤは地面に落ちた。そして意識を手放すのであった。
「い! っう……!」
目を覚ましたセツヤ。ボンヤリとしたまま周囲を確認した。すると自室にいる事がわかった。
(あれ? 俺はアルフィアスに殴られて気絶したよな?)
痛む頬を擦りながら上体を起こす。そして気づいた。
「あれ、俺……服、着ている」
誰が服を着させてくれたのか……深く考える事はやめた。きっとエルトスだろうと思う事にする。決して服が少し乱れていたなんて事実はなかった。きっとそうだ、とセツヤは思考を停止させる。
窓から外を見ると夕暮れ時だった。
「ヤバい、飯の準備をしないと」
部屋から出て台所を目指す。その途中でアルフィアスとバッタリと出会ってしまう。
「あ……っ!」
アルフィアスは顔を真っ赤にして逃げる。その後ろ姿を眺めながらセツヤは思った。
(……まさか、ね?)
数日ほどアルフィアスから避けられるのは言うまでもない。
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