第23話 気まずい空気
「おかえりー」
家に帰って来た2人を出迎えるレイ。黙ったままのアルフィアスに気づいてレイはセツヤに近寄って行った。アルフィアスの眉間に皺が寄り深く考えているように見えたからだ。その顔を横目に見ながらレイはセツヤの耳元へ囁いた。
「何かあったの?」
セツヤは苦笑しながら首を横に振る。2人の視線の先には険しい顔のアルフィアス。
「いや、特になかったんだけど……」
ボーッとしたまま、アルフィアスはそのまま何も言わずに自室へと向かって行く。その背を見ながらセツヤは頬を掻いた。
「王の剣を見ていて何か考えている感じだったからさ。どこか思う所があったのかもしれないな」
「ふーん」
レイもアルフィアスの背を見て考えている。その顔は真剣で何を考えているのか聞こうとしたセツヤだったが、レイはニカッと笑って――。
「そっか! まぁお疲れ様だよ、セツヤ。私も行くね!」
レイが部屋に戻っていく。セツヤは何が何だかわからず、その場に立ち尽くしていると、背後の扉が開いた。
「……どうした?」
入って来たのはエルトスでボーッとしているセツヤに目を丸くしながら聞いてくる。背にある荷物も降ろしていないセツヤを怪訝に思っている。セツヤは首を傾げながら腕を組んで唸っていた。
「あ、いえ……うーん?」
生返事のセツヤにエルトスは声をかけようかとしてやめた。
「早く荷物を置いてゆっくり休め」
「あ、はい。わかりました」
それでもセツヤが首を傾げている。その姿に肩を竦めてエルトスも部屋へ向かって行った。
(うーん、何か気まずいんだけど……このままでいいのかなぁ?)
セツヤは荷物を台所へ持って行きながら思った。少ししてから食事の仕込みをしているとアルフィアスがやって来る。
「水をもらえるかしら」
「あぁ、わかった」
アルフィアスは椅子に座って机へ肘をつき顎を手に乗せている。一点を見つめて身動きがないアルフィアスを見て、やはりどこか上の空のようだとセツヤは思う。
そこへエルトスがやって来る。アルフィアスの異変に気づいたエルトスは対面に座って声をかけてみた。
「……どうかしたか?」
とても心配しているエルトスを一瞥した後にアルフィアスは首を横に振る。
「何でもないわ」
素っ気ない態度にエルトスの心中は穏やかではない。とても動揺しているのだが、全く顔には出さない。
「そ、そうか」
声は上擦ったが……何とか父親の威厳は保てた気がするエルトス。しかし、アルフィアスはそんな事に気づいていなかった。ただずっと一点を見ながら考え事をしている。
「はい、水」
「ありがと」
水を持ってきたセツヤにお礼を言って木製のコップの淵を撫でる。飲む気配がなく、やはり考え事をしていて心ここに在らずといった感じである。目の前でとても心配しているエルトスすら見えていないのだから。
視線を彷徨わせて声をかけようとしているエルトスは上手く言葉が出てこない様子だ。この混沌としてきている場に耐えられなかったセツヤはどうにか払拭できないだろうかと思う。
「アルフィアス、悩み事があるなら聞くぞ?」
真剣な表情でセツヤは話してくれないかと思っていたが――。
「……これは私が答えを見つけないといけない気がするの。だから大丈夫よ」
拒絶された。セツヤへ儚い笑みを見せながら、だ。これにエルトスは完全に固まり、アルフィアスから目を離せないでいる。セツヤとしてもそんな顔をされたらどう言えばいいのかわからなくなっている。ただ、いつか相談できるように頬を掻きながらセツヤは頷いた。セツヤの顔には苦笑いが張り付いていたが。
「そうか、わかった。何かあれば話してくれよ?」
「……そうね。何かあれば、ね」
そのまま気まずい空気の中でセツヤは食事の支度を始めるのであった。
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