第21話 3人の実力

 数日が経って――。

 3人はどのくらい強くなったのかわかっていなかった。相手がいつも変わらないためにどれほどの技量を得たのかわからない。その事で3人は強くなっていない気がしていた。

 模擬戦の中でアルフィアスとセツヤが拮抗していてレイが1段劣るくらいだ。変わらない相手に勝ったとしても成長できているのだろうか、と疑問が湧いていた。

 外の傭兵や騎士がどれほど強いのか。3人はエルトスを基本に考えるようになっている。古傷のあるエルトスに1本も取れない自分たちはきっと……傭兵や騎士に遠く及ばないのだろうと。


「強くなっているのかなぁ?」


 芝生に寝転ぶセツヤは思わず呟いた。エルトスと模擬戦をいて負けた後である。疲れて、と言うよりかは自信がなく雲1つない空を見上げている感じだ。

 その隣に来たアルフィアスは座った。セツヤの呟きが聞こえたからだ。


「そうね……未だに私も含めて1本も取れていないものね」


 アルフィアスの視線の先にはレイとエルトスが模擬戦をやっていた。エルトスからの助言を聞きながら打ち込んでいくレイ。飄々としているレイにも焦りと言うものが見えた。自分が1番弱いとわかっているために打ち込んでいく手に力が入る。


「だよな……懸命にやっているけど」

「その上を捻じ伏せられている感じよね……」


 現実を考えて沈黙する2人。何度も手を変えて打ち込んでいるが……全て躱されて重い攻撃を受ける。アルフィアスとレイには寸止めだが、セツヤには容赦なく当てていた。おかげで打撲だらけである。


「他の騎士たちもあんなに……いや、それ以上に強いんだろうな」


 セツヤは上体を起こしてエルトスを見た。古傷を庇いながらの動きでレイを圧倒している。レイもエルトスの唯一ある弱点を突こうとはしているが……。


「甘い!」

「うっ! もう1本!」


 それを逆手にとってレイが敗北している。そしてすぐに挑戦していた。


「俺たちって弱いのかなぁ?」


 思わず漏れ出たセツヤの本音。聞きたくなかった言葉に顔を顰めて嫌そうにするアルフィアス。


「私たちが弱い、とは考えたくはないわね。でも――」


 アルフィアスの視線の先には汗1つ見えないエルトスの姿。渋い顔をしながら唸るアルフィアスは不服そうに言った。


「父さんに1本も取れないのは問題よね」


 2人はそう言っているが、エルトスに余裕がある訳ではなかった。汗が見えないのはただの体質の問題で、エルトスは汗をあまり掻かないのだ。日に日に強くなっている3人の相手をしているのはとても疲れる。46歳の身体に鞭打って模擬戦をしているのが実情だ。

 特にアルフィアスとセツヤの相手が冷や冷やさせられる事が多くなっている。このままではいつか負けてしまう。そんな想いを抱きながらも、年長者として無様な姿は見せられないと言う意地で勝ち続けていた。

 エルトスが口下手なのもあるが、同年代……いや、中堅の傭兵を相手ならば勝てるだろうと思えるくらいに3人は強くなっている。むしろ騎士にも負けないのではなかろうか。経験豊かな騎士を相手には苦戦するだろうが、初見では勝てるかもしれない。そう感じているエルトスは口に出さない。調子に乗ってしまう可能性を消せないからだ。

 今、エルトスが負けないのは3人の癖を知っているからである。だが、その癖は何度も戦っていなければわからないほどのものだ。その癖は直さなくてもいいだろうと言えるくらいの些細な事。

 3人の成長はエルトスの期待以上でとても驚いている。このまま戦っていればエルトスでは相手をしてやれなくなるだろう。


「あー! もう! 何で当たらないのさ!」


 レイが苛立ったように言う。エルトスは娘の成長を見ていて思わず笑った。


「ふ、まだまだ甘いわ!」

「むきー! 絶対! 2人よりも先に1本取ってやる!」


 果敢に向かって行くレイ。その姿を見ていた2人は互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべた。今の自分たちがどこまで通用するのか知りたいが……エルトスに迷惑はかけられない。それよりも1本取る事を考えた方が今は楽だった。

 伸び悩む3人は打開策など浮かばないまま荻線を繰り替える。いつかエルトスに勝てるように、と。

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